「情報感度を研ぎ澄ます」ビジネス情報誌・エルネオスで、年に数回、巻頭言を書かせてもらっています。
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これまで私が書かせてもらった巻頭言はこちらにあります。
今月の巻頭言、「石炭火力発電所の増加は禍根を残す」をお届けします。
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情報感度を研ぎ澄ます!ビジネス情報月刊誌「エルネオス」
6月号巻頭言 「枝廣淳子の賢者に備えあり」
「石炭火力発電所の増加は禍根を残す」
日本では石炭火力発電所新設のニュースが相次いでいます。4月9日時点で、新規計画43基、設備容量2120万キロワットだそうです。
「日本の石炭火力発電は最新型ですから!」と胸を張る人もいますが、最新型であっても二酸化炭素排出量は天然ガス火力発電の2倍以上。現在計画中の43基の発電所がすべて稼働すると、約1億2700万トンのCO2が排出されることになるそうです。
この4月の環境省の発表によると、2013年度の日本の温室効果ガスの総排出量はCO2換算で14億800万トン。前年度に比べて1.2%増の要因の筆頭は「火力発電における石炭の消費量の増加」です。このまま計画中の43基が稼働すれば、日本全体の排出量が一割近く増えてしまうことになります。
現在世界では年末の温暖化交渉COP21を目指して、英国やドイツなどのヨーロッパ諸国はもちろん、米国や中国などもしっかりした目標や行動を進めつつある中、世界第3位の経済規模を有し、世界第5位の排出国である日本は何をしているんだという批判が強くなっています。その中で、石炭火力の増強は、世界の動向にまったく逆行しています。
世界の動向に逆行しているのは温暖化の側面だけではありません。日本は世界のエネルギー動向にも逆行しているのです。
現在翻訳中のレスター・ブラウン氏の新著『The Great Transition』から世界の多くの国で石炭消費量が減少していることが分かります。石炭消費量が世界第2位の米国でも、多くの石炭火力発電所が閉鎖され、07年から13年までの間に石炭使用量は18%減。10年初めの時点で稼働していた米国の500基超の石炭発電所のうち、180カ所以上がすでに閉鎖されたか、閉鎖予定なのです!
その理由には、(1)石炭に対する地元の反対(健康や環境が理由である場合が多い)、(2)石炭火力発電による電力の価格を上昇させる厳しい大気質基準の適用、(3)ソーラー・風力エネルギーの利用増、(4)低コストの天然ガスの急速な利用拡大などが挙げられています。
米国の石炭火力は、地元やNGOの石炭反対運動で新規はほぼ成立せず、既存への閉鎖圧力が大きくなっています。その原動力が「2030年までに国内の石炭発電所をすべて閉鎖」を目指して全国規模で活動しているシエラクラブの「脱石炭キャンペーン」です。
欧州や米国だけではありません。世界一石炭を使っている国である中国でも石炭使用量は14年に減り始めているのです。
「座礁資産」という言葉を聞いたことがありますか? 英国の非営利団体カーボン・トラッカーが一一年に発表した「燃やせない炭素」という報告書で注目を集めた考え方です。
(1)平均気温の上昇を2℃以内に抑える可能性をもつためには、化石燃料の使用を大幅に削減する必要がある。
(2)最新の科学的な推計によると、2℃以内にとどまる見込みをそこそこに保つには、今世紀前半に化石燃料から排出されるCO2を1400ギガトン(1ギガトン=10億トン)に抑える必要がある。
(3)13年までにすでに400ギガトンを排出しているので、13年から50年までは1000ギガトンしか排出できない。
(4)世界に残っている化石燃料の確認埋蔵量に含まれているCO2は、石炭(65%)、石油(22%)、天然ガス(13%)を合わせて2860ギガトン。
(5)つまり、炭素埋蔵量(主に石炭と石油)のうち1860ギガトンは地中に残したままにしなければならない。
(6)この場合、埋蔵量は価値を失い、座礁資産となる。これらの資産を自社の評価額に含めていたエネルギー会社の価値は計算し直す必要がある。
という考え方で、投資家にも大きな影響を与えつつあります。
「座礁資産」は地下の埋蔵量だけではありません。石炭が使えなくなる時代に向けて石炭火力発電所を建設することは、せっせと座礁資産を増やしているということなのです。
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短期的にプラスがあるからといって、じきに使えなくなって投資回収ができなくなってしまうようなものに、せっせと投資をすることは無駄であるばかりか、将来への禍根を残すことになってしまいます。
日本の「新規の石炭火力発電の建設・計画」というニュースを見るたび、「この企業は、少なくとも世界の投資家からは見放されるようになるのではないか」と思います。世界の動向や投資家の判断基準の変化をもっと知ってほしいなあと。