3年半ほど前に、
> 国際会議などでもよく「マックス=ニーフによれば」などと言及される、世界共
> 通の枠組みの1つですが、あまり日本では紹介されていません。ぜひこの機会に
> 一緒に勉強しませんか?
>
> 「幸せ経済社会研究会」特別セッション
> ~マックス=ニーフの「Human Scale Development」を読む特別研究会~
>
> 日本語ではあまり紹介されていない「幸せ×経済×社会」の枠組みを考えるうえ
> での必読論文を、解説付きで読んで考える特別研究会、今回は、前からしっかり
> 読んで理解して枠組みにしていきたいと思っていたチリの経済学者、マンフレッ
> ド・マックス=ニーフの研究を取り上げます。
>
> マックス=ニーフは、時代と文化を越えて共通する9つの人間の基本的なニーズ
> を定義しているのですが、これが「枠組み」として非常に役に立ちます。ほかに
> も、幸せやその構成要素、支える要素などをを考える上で、とても役に立つ枠組
> みを提供してくれています。
と呼びかけて、英文のテキストを読み解きながら、勉強する会を開催しました。
マックス=ニーフの「9つの基本的なニーズ」や、「ニーズとニーズを満たすためのサティスファイアーを区別すること」など、非常に役立つ枠組みを得て、以後、あちこちで使っています。
当時は、英語しかなく、私が解説する形をとりましたが、この中でも大事な第2章を日本語に翻訳して、冊子にしたものがダウンロードして読めるようになっています。ぜひ読んでみてください。
"ていねいな発展"のために私たちが今できること:ダウンロードページ
http://max-neef.sustainabilitydialogue.vision/hsd.html
著:マックス・ニーフ / 監訳:牧原ゆりえ
"ていねいな発展"のために私たちが今できること
- Human Scale Development - 「発展の人間のニーズ」について
80ページほどの冊子です。快諾を得て、冒頭の「監訳者前書き」と目次をご紹介します。(メール本文での読みやすさのために改行を入れています)
~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~
監訳者前書き
このブックレットを手にとってくださったみなさんへ。
こんにちは。
この度、持続可能なハッピーな毎日を現実的に作っていくために、「みんなで」学びたいとずっと思っていたコンセプトについて書かれた重要な書籍の一部を日本語版でご紹介させていただけることになりました。とてもうれしいです。
それは"Human Scale Development"という本で、1991年にチリの経済学者マンフレッド・マックス=ニーフを中心とするメンバーによって執筆されました。同じく、私が「持続可能なハッピーな毎日を現実的に作っていくためにみんなで学びたい」と思って活動しているナチュラル・ステップ・フレームワーク(持続可能な社会のための戦略的プランニング手法)の中でもとても大切な考え方と位置付けています。そこでこの本のもっとも重要なパートである2章を翻訳してこのブックレットでご紹介しています。
20年以上前に書かれた本ですが、今読んでも気付くことがたくさんあります。それと同時に、今の世界の問題の根っこはこんな昔から明らかだったのに、私たちは状況を変えられずに今ここにいるのだとも思い、少し複雑な気持ちでもあります。
今、私たちの周りにはたくさんのモノ、サービス、ノウハウが溢れています。もともとは私たちの毎日をハッピーにしてくれるはずのそれらなのに、いつの間にか、私たちはたくさん持つこと、たくさん知っていること自体を毎日の目的にしてしまっているような気がします。そんな中、「自分のことをつめ、自分のしたいことを味わおう」なんて言ったら暇人に思われるでしょうか。
マックス=ニーフは「ヒューマン・スケール」(ヒトの規模)に基づいた発展を提案しています。具体的には、「人間の基本的ニーズを満たすこと」と「人間の自立を促すこと」を基礎とする発展です。そしてこの本は、「そういう本があるのか。ふーん」と終わってしまうのではなく、実際にみんなで始めることを意図して書かれています。つまり、みんなでていねいな発展をしていこうよ、という呼びかけをしているのが本書です。
マックス=ニーフは言います。「ニーズはこれまで、"欠乏"と同じ意味に理解されてきた面もあるけれど、ほんとうはもう一つの大切な側面を持つ。ニーズとは "資源"である。しかも、ニーズを感じるということは、自分にそれをかなえる能力がある、ということなのだ」と。
本当にそうだな、と思います。...ずっと昔に聴きたかったな、とも。もう10年も前になるけれど、「小さな子供がいてもたくさん勉強したい」と思った当時の私は、「そうするためのが自分にない、そうするための環境がそろっていない」という「欠乏」のみに目を向けて、自分にも周りの人にも文句ばかり言っていました。でも、そうではなくてこれは私の可能性だったのだ、私にきっとそうする能力があったから湧いてきた願いだったのだと今なら思うのです。 「足りない」に目を向けず、「私にはできることなのだ」と自分の可能性を信じて未来をることができたら、どんなに素晴らしいことでしょう。ニーズは口にすることで、なぜか自分にパワーを感じます。理由は説明できませんが、これは本当のこと。やってもらえたらきっとわかってもらえます! ひとりでやってもパワーを感じられますが、どうせなら口にして、できればそれを誰かと話してみましょう。私たちの「可能性」は、よりはっきり輪郭を持って見えるようになるはずです。
「でも、自分たちの可能性に目を向けたぐらいで世界がよくなるなんて、そんなカンタンな話じゃないのよ。だいたいそれで経済がうまくいくわけないでしょ?」という声が聞こえてきそうです。少なくとも、私自身がこの声に長い間縛られていましたから、不安がよぎれば、この声は今も時々聞こえます。 しかし、この「経済がうまくいくの?」というときの経済っていったいなんでしょう。そもそも経済学とは「限られた資源を社会の目的のために効率的に分配することに貢献するための学問」であるはずです。にもかかわらず、私たちはたくさんの数式、データ、計算理論に翻弄されて、社会の目的を話し合うことがないように思います。目的がはっきりしない中、経済学も本来の役割を失ってしまっているように思います。
この本は、もともとはこれからの経済発展を考えるために、チリの「経済学者」によって書かれたものです。マックス=ニーフは、先にも触れたように、ニーズやそれに基づく社会の発展のあり方について、かなり独特の見解を表明しています。初めて触れる人の中には、その発想の転換に、目からウロコが落ちる人もいるかもしれません。
しかし、それは決して、突拍子もない"尖った意見"というわけではありません。事実、この本はケンブリッジ大学のサステナビリティ・プログラムで「後世に残したい本ベスト50 」の1冊に選ばれています。また、アメリカの経済学者ケネス・ボールディングが、1973年のアメリカ議会で発したとても有名な言葉は、「生態系の恩恵なくして経済はありえず、経済は生物圏という有限なシステムの下部システムである以上、永久成長は不可能だ」というマックス=ニーフの提唱する「新しい経済学」についての考え方と符合します。ボールディングは、「有限の世界で、幾何級数的な成長が永遠に続くと思っているのは、狂人かエコノミストのどちらかだ」と言ったのです。
また、1998年のノーベル経済学賞受賞者であるアマルティア・センは『合理的な愚か者』(邦訳・勁草書房、1989年)という著書の中で、「人間は私利私欲を追求することのみを行動規範とする"合理的な愚か者"ではない」と述べています。「たくさん持つことを追求する時代は、本当に終わろうとしている」。今こそ、マックス=ニーフのように考え、行動するときが来ていると言えるのではないでしょうか。
耳を澄ませて目を開けば、私たちがハッピーに生きていけるための知恵やヒントが日本にも世界にもたくさんあります。私たちが自分の人生の目的を少しでもより正確に意識できたら、その方向に進むためのサポートはたくさんあるのです。 マックス=ニーフのこの本と共に、持続可能なハッピーな日々を始めませんか。このブックレットで学んだことをベースに考えたり、話をしたり、もっと深く学んだりできるようなワークショップを私もこれから企画していきたいと思います。いつかどこかで、みなさんと一緒にニーズの話ができるのを楽しみにしています!
一般社団法人サステナビリティ・ダイアログ 代表理事 牧原ゆりえ
目次
監訳者前書き
著者のご紹介
◇Chapter1 「ていねいな発展」という新たな視点
これまでの発展の話に欠けていた、大切なこと ...............12
「ていねいな発展」を話す前に、考えておきたいこと ...............15
経済の問題と、その原因を読み解く ...............21
政治の問題と、その原因を読み解く ...............24
◇Chapter2 人間の基本的ニーズについて考える
人間のニーズ:欠乏と潜在能力の2面性を理解する ...............27
人間のニーズと社会 ...............28
人も社会も「主観的」なものだと考えることで始まる可能性 ...............31
人間のニーズ:時代と周期 ...............35
◇Chapter3 基本的ニーズを実用的に分類するための基礎となる考え方
人間のニーズの分類 ...............37
ニーズ、サティスファイアー、経済財 ...............39
サティスファイアーの例とそれらの特性 ...............44
表の利用 ............... 50
◇Chapter4 「ニーズとサティスファイアーから自分たちの可能性を知る ワーク
ショップ」を実践しよう
自分たちをとりまく課題とそれを解決する可能性を理解する ...............53
自分たちの問題の根幹に気付く ...............57
他の国の事例(イギリス、スウェーデン、ボリビア、アルゼンチン) .........58
◇Chapter5 発展の形を決定する選択
人間のニーズ:段階的なアプローチからシステム的なアプローチへ ...............60
効率性から相乗効果( シナジー) へ............62
資料1 他の国の事例(各ワークショップの統合表) ...............64
資料2 Human Scale Development 目次 ...............74
監訳者あとがき ...............76
監訳者、チームメンバーの簡単な自己紹介(名前順) ...............79
~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~~
ブータン政府の立ち上げた[国際専門家ワーキンググループ」の会合で、マックス・ニーフ氏とお話ししたことがあります。「ぜひ日本の人たちにも読んでほしい」とおっしゃっていたことがかなってよかった!と思います。
この冊子はイラストなどを使って、親しみやすくわかりやすく作られています。少なくとも「ニーズ」と「サティスファイアー」の区別ができるようになると、サステナビリティ(持続可能性)を考えるうえでも役に立ちますし、自分の人生を生きるうえでも、ラクになるのではないかなあと思います。