熊本県の山奥にある、10世帯・人口18人・平均年齢72歳、限界集落のトップランナー?ともいえる水増(みずまさり)集落。2年前に、村の共有地を使って、「若者が帰ってこられる村づくり」に立ち上がりました。どのような取り組みを進めているのでしょうか?
先月世界に配信したJFSニュースレター記事から、都市大の学生とも一緒に進める予定の"地方創生プロジェクト"をご紹介します。
JFSのWebサイトから見ていただくと、写真などもたくさんありますので、ぜひ!
http://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id035427.html
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限界集落のトップランナー、再エネをとっかかりに「幸せ実感日本一の集落」へ!
JFS ニュースレター No.160 (2015年12月号)
日本は急激な人口減少社会に突入しました。1,799ある市区町村のうち、約半分が、このままだと「2040年までに20~39歳の若年女性人口が半減する」として「消滅可能性都市」と呼ばれています。そのような背景のもと、どうやって地域を存続するか、人口減少の中でも幸せで持続可能な地域にしていくか、各地でさまざまな取り組みが広がっています。
今後、人口減少社会に突入するのは日本だけではありません。人口減少社会のトップランナー・日本の地方から、持続可能な地域づくりへの取り組みの1つをご紹介します。
九州・熊本空港から車で1時間ほどの山の中に、山都町・水増(みずまさり)集落があります。平安時代から800年を超える歴史を有する集落ですが、高齢化と少子化が進んでいます。いえ、この20年は「少子化」ではありません。「ゼロ子化」です。20年もの間、この集落ではひとりも子どもが生まれていないのです。
現在、集落には10世帯、18人が暮らしています。公民館に集まってくれたみなさんに「この中でいちばんお若い方は......?」と尋ねると、「私です」と照れながら手を挙げた方は60歳。2番目に若い方は65歳でした。人口の半分以上が65歳以上という集落を「限界集落」と呼びますが、平均年齢72歳の水増集落は限界集落のトップランナー(!?)といえるでしょう。
でも、みなさん、とっても元気で明るくて笑い声が絶えません。ほっこりと温かい村です。
「3.11後、自然エネルギーが必要だと思うようになりました。また、村の共有地を毎年総出で野焼きして維持していたのですが、その作業が高齢化とともに、年々大変になってきたんです」と地域のリーダー役の荒木和久さん。
「日当たりがいいから太陽光発電をしたらどうか」「自分たちにはお金がないから、土地を借りる人はいないだろうか」という話をしていたとき、町役場が「熊本県がインターネットで斡旋をやっている」と教えてくれたそうです。
メガソーラーの候補地をホームページで公開し、売電事業をやりたい民間企業を募るマッチング事業です。村で相談したところ、「やってみよう」という話になり、県のマッチング用ウェブサイトに載せたところ、10数社の民間企業が手を挙げました。
荒木さんはこう語ります。「みんなで悩みましたが、最終的には説明を聞いて選ぼうと、各社にプレゼンテーションをしてもらいました。ほとんどの会社は『どれだけ儲かるか』だけの話でしたが、テイク・エナジー・コーポレーションというベンチャー企業は、『将来の農業をどうするか、集落をどう維持するか』という話をしてくれました。『売電収入の5%を村のために拠出する。消滅集落にならずにすむように、その資金を活用してまちづくりをしよう』――このプレゼンだけが自分たちの思いにマッチしました。そこでこの会社にお願いすることにしたのです」。
山の急斜面に太陽光パネルを設置する工事は2013年9月に着工し、2014年5月に完成。発電を開始しました。テイク・エナジーは年間約500万円の借地料に加え、売電収入の約5%にあたる約500万円を毎年地域に還元し、「子どもたちが帰ってくる村づくり」を支援します。
「去年、みんなで話し合ってグランドデザインを考えました」と荒木さん。「ヤギパークをつくろうと。現在はヤギが7頭います。地鶏も10羽ね。もうじきヤギや地鶏のための小屋を作る予定です」。「シイタケも育てたいと、コナラの木を用意して1万の菌を打ちました。安全な堆肥も作り始めてます。コメも、高く売れる黒米を今年から植付けします。八天狗という在来種の大豆も5反ほどね。そのうち、ヒツジやポニー、牛も飼って、小動物園もつくろうか、という話もしているんですよ。農園カフェを開いて、地元の農産物を売りたいねとも言ってます」。
「今の人口では、持続するのは無理なので、経済的にも成り立つものを考えています」と荒木さんはまじめな顔になったあと、「しょっちゅう寄り合いをしては、みんなで『ああしようか』『こうしようか』と話しているんです」とにっこり。
テイク・エナジーの竹元さんは、資金を地域に還元するだけではなく、農水省の「日本の棚田百選」にも選ばれた棚田米のブランド化や加工品の開発など、マーケティングなどの側面からも支援しています。「自然エネルギーはとっかかりです。集落の人たちは、20年後までの計画を立てながら、『100歳まで生きないといけないな』と笑ってます」と竹元さんも笑います。
ソーラーパークの売電期間終了後は、テイク・エナジーの発電施設を集落に譲渡し、地産地消エネルギーとして活用する予定だそうです。「水増集落では、水道も自前。自分たちでつくり、管理しているんです。電気も、こうやって自分たちで発電し、昼間の電力をクラウド蓄電池に貯めて夜使うようにすれば、自前でできるようになります。村の人たちとは、『幸せ実感日本一の集落にしよう』って話してます」。
ところで、私は昨年から東京都市大学環境学部で教鞭を執っています。
18人のゼミ生を抱える枝廣研究室では、「社会を変えながら、社会を変えられる人を育てる」をモットーに、研究と活動を展開しています。大学に閉じこもるのではなく、社会の現場を見て、いろんな方々の話を聞いて、自分のアタマで考えることが、生きる力・自分や組織や社会を変える力をはぐくんでほしいと、これまでも学外でのゼミ「飛び出せ、エダヒロ研究室」を開催してきましたが、夏合宿ならふだんよりも遠くに行ける!と、9月1日~3日の3日間、ゼミ生たちと水増集落にお邪魔しました。
ゼミ生たちは、集落のみなさんへの聞き取り調査や、農業体験などを通じて、自分たちなりの「今後の水増集落のための提案」を考え、最終日に発表しました。集落の皆さんもとても喜んでくれました。
この地域には、「八天狗」という在来種の大豆があります。農水省のゲノム解析によると、日本古来の在来種とのこと。実は、農水省の大豆のデータベースに載っていない、つまり、「存在していない」、幻の?大豆なのです。土地の有機農家が自家用に作り続けてきたために今に伝わったというこの八天狗を、村おこしの中心の1つにしようと、集落では今年3ヘクタール作付けしたそうです。
この八天狗、味が濃くてとってもおいしい。煮豆をご飯の時に出してもらったのですが、みんなパクパクといただいていました。そして、その豆乳も、豆乳をしぼった後のおからも最高においしい。この八天狗の豆乳を使ったシフォンケーキも、集落のお母さんたちが開発しました。
枝廣研究室では今後、この八天狗の首都圏や若者へのマーケティング支援などを通じて、限界集落のトップランナー・水増集落との関わりを続けていく予定です。学生たちも、東京では学べない大事なものを得ることができます。そして、10世帯・18人・平均年齢72歳のこの限界集落の明るく楽しい今後を、一緒に作っていけたらと思っています。
(枝廣淳子)
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ちなみに、この記事の英語版はこちらです。
また、ゼミ生とおじゃましたゼミ合宿のようすは、カタログハウス「通販生活」Webサイトの特集として、こちらに詳しく載っています。写真もいっぱいありますので、よかったらぜひご覧ください。
https://www.cataloghouse.co.jp/yomimono/151013/?sid=top_main