前号の最後に、「次号では、このパリ協定を受けて、具体的にどのように交渉が進んでいるのかをお伝えします。どうぞお楽しみに!」とお伝えしました。
「パリ協定」後の第一回特別作業部会で、いよいよルール作りが始まったとのこと、どのような感じだったのか、どのような進展があったのか、快諾を得て、WWWジャパンの気候変動プロジェクトリーダー・小西雅子さんのレポートをお届けします。
http://www.wwf.or.jp/activities/2016/05/1318428.html
(メールでの読みやすさのため、改行をいれさせていただいています)
~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~
2016年5日16日から26日にかけて、ドイツ・ボンにおいて国連気候変動枠組条約第44回補助機関会合(SB44)及び第1回パリ協定特別作業部会(APA1)が開催されました。
2015年12月に、困難な国連交渉の果てに、21世紀後半に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指す、画期的な「パリ協定」が成立しました。大枠は決まったものの、そのほとんどの詳細なルールは、今後の国際交渉にゆだねられています。そのルールを作って、パリ協定の準備をするのが、今回のパリ協定第一回特別作業部会をはじめとする国際交渉(以降ボン会合と呼ぶ)です。
今回のボン会合では、パリ協定が交渉の段階を終えて、いよいよ実施に向けてのルール作りが軌道に乗った、という成果がありました。そのほか3つの注目点と合わせてお伝えします。
(主な成果)パリ協定が実施に向けてのルール作りが軌道に乗った
パリ協定は成立しましたが、その成否は実は詳細なルールのあり方にあります。たとえば、各国が削減目標を達成しつつあるのかどうかを国際的にチェックすることが重要ですが、そのルール次第で、いくらでも骨抜きになりえるからです。パリ協定は、削減目標や適応、資金や技術援助、透明性(国際報告とチェック)などの包括的な協定なので、それぞれの項目ごとにルールブックが必要なのです。
ボン会合の一週目には、どの項目からルールを作っていくか、という優先順位のつけ方ですでにもめて、仕事が始まりませんでしたが、2週目からはようやく項目ごとにグループができて、議論が進み始めました。
このルール作りは非常に専門的で時間もかかります。なんとかボン会合の最後には、これから各項目ごとに各国に9月までに提案を出してもらい、年末に開催されるマラケシュCOP22で議論を進めていく手筈を整えることができました。
しかし、本来は、ボン会合における議論のまとめを作ったり、専門的なワークショップの開催などを決めるなどして、もっと早くプロセスを進めるほうがよかったのですが、それについては合意できませんでした。
ペースは遅いのですが、パリ協定が、実施に向けてルール作りの端緒につくことはできたと、言えるでしょう。
注目点(1) 早期発効を視野に議論が進んでいる
日本国内では、パリ協定の批准については、様子見という雰囲気があるかもしれませんが、国際交渉上では、早期に発効するのではないか、という見方が主流となってきています。パリ協定は55か国以上、かつ55%以上の排出量が批准することによって発効しますが、秋にアメリカと中国が批准(受諾)するという見込みの前に、2017年の発効の可能性が現実味を帯びています。
ただし、パリ協定の実施に必要となるルールは、発効後に開催される第一回目のパリ協定締約国会合(CMA1と呼ばれる)に提出されることになっているのですが、そのルール作りが早期発効の場合には間に合わない可能性があるのです。
もし発効した場合には、正式にはパリ協定の締約国だけが決定権を持つので、国内批准手続きに時間がかかる国は、ルール作りに正式に参加できないことになります。そのため、早期発効した場合に、すべての国がルール作りに参加できるようにするために、どんな措置が必要か、議論されるセッションが、ボン会合では非常に注目を集めました。
今のところ、第一回パリ協定締約国会合(CMA1)が、ルール作りの場を改めて定めるか、それともCMA1を開催するが、すぐに中断(suspend)させて、ルール作りが出来上がった年(2018年など)に改めてCMA1として再開する、などの案が出ています。多くの国はおおむね中断の案を支持していましたが、中にはブラジルのように、中断の手続きだと、各国が早く批准しようという意欲をそぐ、として反対する国もありました。
こんな手続きが熱く議論されるくらい、早期の発効が視野に入っているのが、今の国際交渉なのです。日本も国内手続きを速やかに進めて、早期に批准して、CMA1の発効の際には正式の締約国となっている側にいてほしいと思います。
注目点(2) 2018年の促進対話が議論のあちこちに
パリ協定は2020年以降の温暖化対策の国際協定ですが、その実施に向けて、関連する仕事はその前から発生します。特に2020年の前には、各国がパリ協定に掲げている目標を改めて提出することになっています。
その際に2025年目標を掲げている国は、2030年目標を出し、日本のように2030年目標を最初から掲げている国は、再提出、あるいはアップデートすることになっているのです。パリ協定では、次の目標は前の目標より進捗するべき、という規定があるので、各国の目標の上乗せが期待されるところです。
その再提出に向けて、2018年には、その時点の各国の目標の足し合わせた全体目標が、パリ協定の目標である2度未満に気温上昇を抑えることにあっているかどうかを科学的に確認し、目標の促進を議論するプロセス(2018年促進対話と呼ばれる)が行われることになっています。本来は2020年以降の温暖化対策の実施協定であるパリ協定のルール作りを行う国際交渉ですが、その議論の中でも、この2018年の促進対話の機会を活かそう、という機運が高まっています。
ボン会合において、多くの論点、特に科学的な全体進捗報告において、この2018年促進対話のことがいろいろな国の発言で言及されていました。特に、次のCOP22の議長となるモロッコの大臣は、この2020年までの取り組みの重要性に何度も触れていたことは注目に値します。早くから削減をしていくことが最も大切ですので、この2018年促進対話の機会をいかに活かしていくかも、マラケシュに向けた大きな注目点となってきます。
注目点(3) 途上国の国際チェック
その他、今回のボン会合で注目されたのは、途上国の削減行動の報告に関する国際的なチェック(2020年まで自主的な目標に対する対策実施のチェック)が始まったことです。これは、2010年のカンクン合意を受けて実施されるものですが、それ以上に、パリ協定の運用開始に向けて、すべての国が削減に参加する体制に移行していく第一歩が始動するという意義があります。 京都議定書の段階では、先進国・途上国に厳格な壁を設けられ、削減目標は先進国だけがもっていました。パリ協定は、そこから、全ての国々が、なんらかの形式で目標を持ち、かつ、共通の土台で、その実施状況についてチェックを受けることになります。今回行われる途上国の削減に関するチェックは、それら2つの中間段階に当たり、「先進国と途上国の双方が国際評価を受けるが、国際評価の型式は異なる」という段階です。
初めての途上国の削減行動の国際チェックは、非常に友好的な雰囲気の中で行われました。これは先進国と途上国の鋭い対立が目立つ温暖化の国際交渉では非常に珍しい光景でした!今回の「チェック」は、まだ途上国に対してはあくまで「いかに削減行動を促進できるか意見を共有する」という位置付けなので、各国も非常に気を使って質問をしていました。
たとえば「削減行動の報告にあたって、難しい点があったか?何かサポートはできるか?」とか「どのようなサポートがあったらもっとよくできるか?」などです。特に先進国側は、削減行動の結果を発表する途上国を勇気づけようと、ほぼ全面的に褒めたたえている状態でした。
発表はアルファベット順のため、トップバッターにたったアゼルバイジャンは、ほめ言葉の連続にニコニコ顔!続いてたったブラジルもご機嫌でした。困難な課題だらけが目立つ世界の温暖化対策ですが、途上国の参加を得て、世界の協力は着実に前進しているとは言えると思います。
とにもかくにも、パリ協定採択後はじめて開催された第一回のパリ協定特別作業部会、実施に向けてのルール作りの作業は始動し始めました。このパリ協定を活かすも否も今後のルール次第ですので、これからもまだ困難な交渉が続きます。その歩みをもっと早めなければならないものの、着実にパリ協定の実施に向けて世界が進んでいることを印象付けたボン会合でした。
~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~~~
世界は着実に動いています。ガラパゴス・日本にならないように、世界の動きを見ながら、しっかりやるべきことを進めていければ、と思います。