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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2016年09月25日

バラトングループ~今回のバラトン合宿「システムとしての難民問題を考える」(2016.09.25)

システム思考を学ぶ
大切なこと
 

9月1日から3週間弱、欧州への海外出張に出ていました。バラトングループの運営委員会などの会合、そして、ハンガリー・バラトン湖畔でのバラトン合宿に出席するためです。

バラトングループとは、『成長の限界』の研究・執筆者であるデニス・メドウス、ドネラ・メドウズが1982年に始めたグループで、システム・ダイナミクスや持続可能性の研究者・実践家ら、世界中に300~400人メンバーがいます。
http://www.balatongroup.org/

ふだんはメーリングリストで情報・意見交換をし、共同プロジェクトを進めています・毎年9月には、数十カ国から参加する50人限定でハンガリーのバラトン湖畔で合宿を行い、時代の少し先をゆくテーマについて、学び、議論しています。メンバーはここでの学びや、ここで構想・連携して着手した共同プロジェクトなどを各国に持ち帰って、それぞれの研究や活動に活かします。

こちらに17分のバラトングループ・合宿の紹介ビデオがあります。英語ですが、メンバーや合宿のようすなど、見ていただくことができます。(私も登場します~)
https://vimeo.com/51860396

バラトン・メンバーは完全招待制で、合宿にゲストスピーカーまたはフェローに選ばれて参加した人がメンバーになります。合宿は50人限定なので、メンバーの中から選ばれての参加となります。

日本からの参加者は、これまで私を入れて6人ぐらいだと思います。私は2003年にドネラ・メドウズ・フェローに選ばれて以来、継続して参加させてもらっています。過去に3年間、運営委員会メンバーを務め、その後は、シニア・アドバイザーとして関わっています。

ドネラ・メドウズさんが亡くなったあと、ドネラさんを偲んで設けられた「ドネラ・メドウズ・フェローシップ」は、途上国で活動する若い女性が対象となっていて、毎年数人が参加しています。

第1回の候補として私に声がかかったときには、「私は途上国でも若くもないのですが、それでも良いですか?」と確認して(^^;)参加させてもらいました。

そのおかげで、バラトングループとのつながりができ、デニス・メドウズらと知り合い、『成長の限界 人類の選択』を訳させてもらったり、チェンジ・エージェント社を立ち上げたり、何冊かの本を出すなどして、システム思考を日本に伝える活動をしたり、レジリエンスについても早くに教えてもらって、日本に伝える取り組みをしたりしてきました。自分の活動や人生にとっての、大きな転換点となったバラトングループとの出会いでした。

今回が14回目の参加となり、メンバーの中でも(参加回数でいえば......^^;)ベテラングループに入りつつあります。昨年から、自分でも次世代の支援をしたいと、フェローの1人、ナミビアのジャスティンの「幸福度調査」への助言と資金提供を行いました。
http://ishes.org/happy_news/2016/hpy_id001931.html

今回の合宿で、ジャスティンからその後の報告や今後のコミュニティ・全国レベルへの展開の構想を聞かせてもらって、とてもうれしく思いました。ひきつづき、協力していきたいと思っています。

今回のバラトン合宿のテーマは、「難民と持続可能性」でした。ゲストメンバーとして、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の担当者や、国連の担当者、オーストリア政府の高官などの参加を得て、また、セネガル、スーダン、メキシコ、米国、スウェーデン、スイスなどのメンバーの発表などを聞き、世界の状況や動向、展望などについて議論しました。

国連が今週初めて開いた難民・移民サミットや、オバマ米大統領が20日に主催した難民サミットのようすは日本でも報道されていますが、直接シリア難民が押し寄せてくるわけではない"こちら側"では、「120万人の難民が押し寄せた」オーストリアなどにとっての難民問題の重さや意味合いはなかなかわかりません。そういう"肌感覚"を知ることができたことも非常に勉強になりました。

大量の難民が発生していることはご存じの通りですが、そういった難民を受け入れているのはどの国々だと思いますか?

世界の難民状況について、UNHCRの担当者が、ウェブ上の資料をもとに、概略を示してくれました。資料はこちらにあります。上の問いへの答えもあります。
http://www.unhcr.org/figures-at-a-glance.html

○世界には、意に反して家を追われた人々が6,530万人います。難民と呼ばれる人たちが2,130万人います。

○6,530万人という数は、人口として考えれば、世界で21番目の国になります。

○世界中の難民のうち、54%はソマリア、アフガニスタン、シリアの3カ国からの難民です。

○このように、家を追われた人々を受け入れているのはどこでしょうか。中南米が12%、今シリアの難民問題で大いに揺れているヨーロッパが6%、アフリカが29%、中東・北アフリカが39%も受け入れています。アジア・太平洋地域が14%です。

○受け入れ国のトップ6カ国は、トルコ(250万人)、パキスタン(160万人)、レバノン(110万人)、イラン(97万9,400人)、エチオピア(73万6,100人)、ヨルダン(66万4,100人)となっています。

○対立や迫害のため、家から逃げざるを得ない人たちが、1日当たり3万3,972人います。

○世界全体で見れば113人に1人がこのような状況に陥り、毎分24人が家を追われている計算になります。

○このように強制的に家を追われる人の数は、この20年弱で2倍になり、この5年間に急増しています。

○昨年、自国に帰還した難民は210万人。1日当たりにすると5,000人ほどですから、1日3万人以上が家を追われている状況には追いついていません。

○国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、9,700人のスタッフが126カ国で働いています。

途上国が途上国からの難民の多くを受け入れている!という現実を知ってびっくりしました。

さて、先ほどご紹介したバラトングループのビデオで、デニス・メドウズが「我々は重要な大きな問いには答えはないことを知っている。だからこそ、この会合を行うのだ」と述べていますが、バラトングループでは、今回の難民問題についても、ただ現状や課題を共有し、「もっと難民を受け入れるべきだ」という決議を出す、という形では扱いません。あくまでも「システムとしての問題」として考えます。

「システムとして考える」入り口となったのは、デニスの次の言葉でした。「米国のワシントンの湖畔には桜並木がある。たしか日本から贈られたのだったよね、ジュンコ? 春になると見事だ。

だれかが、数多くの桜の木の1本から1輪の花を手折って持ち帰ったとする。すると、世の中の幸せは増えるだろう。その人は幸せになり、桜並木にはそれほど影響がないからだ。2人、3人と同じことをしても同じだろう。

しかし、その数がどんどん増えてくると、どこかのタイミングで桜並木が駄目になり、人々の幸せは失われる。

難民問題で言えば、目の前の難民を受け入れ支援することは大事だ。しかし、短期的な人道的解決をすればするほどより多くの難民が集まり、受け入れ側の長期的な国の維持が難しくなってくる。この問題をどのように考えるべきか」

今回3日間のテーマに関する議論の中では、いくつものループ図が登場し、また、システム・ダイナミクスの専門家たちが午後の時間を使ってシステムのモデルを作り上げ、最終日に発表して議論をするなど、「システムとしての難民問題」を考えようと力を尽くしました。デニスが言っているように、もちろん、答えは簡単には出ません。そもそも「答えとは何なのか」からの議論です。今回もいろいろな学びを得ることができました。

今回の合宿では私も短い発表をしました。「いわゆる"難民"とは違うけれど、意に反して家を離れざるを得なかった・家に戻れないという意味では、"displaced"と言える、東日本大震災後の東電福島第一原発の事故による避難者の状況について話してほしい」と、プログラム委員会から要望をもらい、状況をまとめて、15分ほどのプレゼンを行ったものです。こちらの内容についても別途お伝えしたいと思います。

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