昨年10月末に[enviro-news 2520] 「不登校とホームスクール」を配信しました。(こちらでお読みいただけます)
「日本では、2015年度に、全国で約7万2千人の小中学生が1年で計90日以上欠席の不登校」だったという記事から、海外の仲間の中には、「うちの子は、ホームスクールで勉強しているよ」という人がけっこういる、と紹介しました。
「ホームスクール」とは、学校に通学せず、家庭に拠点を置いて学習を行うことです。「ホームスクール」は、米国では法的に問題ありません。日本の文部科学省では、学校教育法の規定により、「義務教育を家庭で行うことを認めていない」としています。ですから、日本国内で「うちはホームスクールで教育しますから、学校には通学させません」というと、学校教育法に抵触することになります。
目的は何なのだろう?と思います。目的は「子どもを学校に行かせること」ではなく、「子どもによい教育を受けさせ、次の社会を創り出し、支えられる人を育てること」ではないのでしょうか?
と書きました。持続可能性に取り組む研究者や実践者のグローバル・ネットワークであるバラトングループのMLに「みなさんのお国ではどうですか?」と聞いたところ、いろいろな国のメンバーから返事をもらいました。
いただいた返事を整理すると(順不同)
<ホームスクールは合法>
オーストリア、カナダ、チェコ共和国、フランス、ハンガリー、ロシア、シンガポール、英国、米国
<部分的に合法>
スウェーデン、スイス(一部の州で合法)
<違法>
イタリア、日本
国によって異なるいろいろな状況や背景を教えてもらったので、ご紹介しますね。
<オーストリア>
オーストリアではホームスクーリング(在宅教育)は合法です。マリア・テレジアが貴族仲間のために制定したときからですね。というわけで従来と異なるカリキュラムで運営されている"別の学校"はたくさん存在しています。そういった学校にかよう生徒は、時おり公的な試験を受けなければいけません。
お金持ちというよりは、従来の学校の運営のされかたに不満を持つ親たちがそういう学校を選ぶようです。私自身も子供たちを"別の学校"に行かせていましたが、とても満足しています(子供たちも)
<カナダ>
カナダでもホームスクーリングは合法です。もしかしたらアメリカより盛り上がっているかも。
(参考:http://www.theglobeandmail.com/news/national/more-canadian-parents-opting-for-home-schooling-report/article24976467/ ).
ホームスクールを選ぶひとたちのためにたくさんの情報が提供されています。完全な学習カリキュラムもあるし、コンサルティングサービスまであるんです
イデオロギー的なことでホームスクールを選ぶひともいるんだろうけど、たぶんもっと現実的な理由で選んでいるひとのほうが多いと思います。たとえば学校が遠すぎるからとか、時間割が管理しやすいからとか。僕は2012年の1年間ハンガリーに住んだのだけど、そのときにマニトバ州(カナダ)の提供するホームスクーリング用のカリキュラムを使って長男とホームスクーリングをやってみたことがあります。とてもいい経験だったな。
<チェコ>
チェコでもホームスクーリングは合法です。1998年から実験がはじまって、2005年に正式に通学に換わるものとして6歳から11歳のこどもに許されることになりました。12歳から15歳のこどもたちに対しても2007年から試行がはじまって、ちょうど2016年の9月からホームスクーリングができるようになったんです。
1年に2回地元の学校で試験を受けなくてはいけないとか、公的な教育課程に沿って学習しなくてはならないとか、従わなくてはいけないルールもたくさんあるのだけど。2005年からこれまで、8千人を超えるこどもがホームスクーリングをしたと発表されています。
<フランス>
フランスもホームスクーリングは合法です。政府は従来の学校での教育を推奨しているけれど、ホームスクーリングを選択することはできますし、あるいは特定の障害を持っていたり入学時期外れに帰国したこども、親が巡業の職業を持っている場合や学校から遠くに住んでいるなどの理由で入学できないこどもなどもホームスクーリングを選べます。
ホームスクーリングを選んだ場合は、フランスの教育省が定めた課程に沿ってこどもの学習の進捗がモニターされることになっています。何人かこどもにホームスクールを選んだ友人がいますが、よい経験だったようですよ。
ホームスクーリングなど選択肢にできないような家庭環境に育つこどもたちの不登校や不識字の問題も議論になっています。でもこれらを解決できるとすれば、おもに地域社会がその役割を果たすのでしょうね。
<ハンガリー>
ハンガリーではホームスクーリングは合法です。16歳以下でも「プライベート・スチューデント」としてホームスクーリングを選ぶことができます。この場合、こどもは地域の学校に入学し、その学校で毎年課せられる試験を受験しパスしなくてはなりませんが、学校自体に通う必要はありません。
ホームスクーリングが選ばれるのは、大きく二つのケースがあります。
一つは病気のため通学できない場合、そして学校に十分な受け入れ体制がない場合です。私はこのことがハンガリーでホームスクーリングが合法である理由だと思っています。そしてもう一つは心理的な理由で不登校になる場合です。ストレスが大きすぎたり、やる気がなかったり、パニック障害をもっていたり、いじめにあったり・・・これらは"行動の問題"と呼ばれています。
ホームスクーリングというありかたがハンガリーで急速に広がったのは、2012年に教育基本法の改正が行われ、これまで以上に学校の自治が失われたことで教育というものがよりみじめな状況におかれてからですね。今ではおそらく国内のホームスクーリングの学習グループは100を超えているのではないでしょうか。
<ロシア>
ロシアではホームスクーリングは合法ですが、あまり一般的ではないですね。卒業証書を受けるためにすべてのこどもが受けなくてはならない共通試験があるのですが、ホームスクールを選ぶこどもは講義なしで試験に合格しなくてはいけません。
とはいえロシアの学校教育に信頼をおいてない親がこどもをホームスクーリングさせるケースはいくつか知っています。この20年間で旧来のよい教育システムが壊されてきていますから、理解はできます。
とはいえ教育に生涯を捧げているキャリアの長い教師たちのおかげで旧来の質の高い教育を提供できる学校はまだ残っています。今ロシアで採ることのできる一番の選択肢としては、そういった伝統的な教育を授けているよい学校(通常無料です)に通わせ、音楽や第二・第三外国語やスポーツなどの個人的才能を伸ばすための教育を学校の外で与えることでしょうね。
何年か前に10代のホームスクールをやっている生徒の数学と化学の家庭教師をやったことがあるんですが、個人的な印象はあまり良くなかったです。残念ながらふつうに学校に通う同世代並みとはいかなかったし、彼らがいつか技能と開いた広い心をもつ大人になれるかは疑わしいと思ってしまうような経験となりました。
ですが、成功例も知っています。障害をもつために学校に通えない男の子の母親が、彼が学校に通えない間の学習の計画をすべて自分でたてたのです。学校でより家で学んだ期間のほうが長かったのですが、学校の先生が時おり家庭訪問をして共通試験の準備をさせていました。美術の先生も彼にとても肩入れしていて、今ではその男の子はなかなかいい画家になっています。ですので、すべては常にバランスの問題なのでしょうね。
<シンガポール>
シンガポールでもホームスクーリングは2000年から合法になりました。シンガポールの義務教育基本法でホームスクーリングは義務教育の適用除外例のひとつとして許されています。
つい最近もストレーツ・タイムズ(シンガポール最大手の新聞)を読んでいたらホームスクーリングをしているこどもたちについての記事をふたつ見かけましたよ。
<イギリス>イギリスではホームスクーリングは合法です。こども自身も、家族もホームスクーリングを選びたくなる理由はたくさんあるんです。
(私からの質問:イギリスで、親たち9人くらいが集まってこどもたちの学校を設立することができると聞いたことがあるのですが本当ですか?)
あなたが言っているのは2010年の"フリースクール"イニシアチブのことかな?公的資金で運営されていても国の教育課程に従わなくていい学校っていう。
https://www.gov.uk/types-of-school/free-schools
そうそう、これも言っておかないと。このフリースクールの取り組みっていうのは、当時すごく批判されたんです。裕福な家庭の子女のための小さな私立学校みたいなものをつくる道にもなるわけで、そんなことに税金が使われるのはおかしいだろうって。
<アメリカ・スウェーデン>
私も数人ホームスクーリングをやっていた人たちを知っていますよ、とてもよくできたこどもたちでしたね。
スウェーデンの新聞で統計を見たことがありますが、アメリカのこどもの3%がホームスクーリングをしているそうです。ですが、アメリカでのホームスクーリングは信心深いひとたちが宗教的な理由でやっていることがほとんどだということは知っておいたほうがいいでしょうね。そのほかでは、その学校の教授法に賛成できないなどという哲学的な理由だったり。これは私の知っている人の例ですが。
前にみた限りではスウェーデンでホームスクーリングをやっているこどもは400人くらいしかいないですね。法律がとても厳しくて、家族で海外にいるか、映画に出演する間か、そのほか通学できない"重大な理由"があるかでないとホームスクールは許されないんです。法の改正をもとめる観念的な人々がいるようなことも、新聞で読んだことはありますけどね。
そのかわりスウェーデンにはいじめ防止のとても厳しい法律があります。いじめを防ぐための、あるいはいじめが起こってしまったときにとるべき対処を定めた詳細な仕組みを作るよう学校に求めているのです。
ホームスクーリングは大きな論点になっています。ホームスクーリングは不登校のこどもたちにとってのひとつの解決法ということになるのでしょう。しかし私は従来の通学システムそのものを変更すること、まじめにいじめの問題に取り組むことなどもそうですが、そういったこともまた解決のひとつとなると思っています。
スウェーデンはいじめの撲滅に関してはとてもよい実績をもっています。"排斥"(utanforskap)に抗する取り組みは、スウェーデン文化のなかで大きな位置を占めているのです。
<アメリカ>
ホームスクーリングは合法です。150万人くらいがホームスクーリングを選んでいますよ。州によってホームスクーリングの要件はちがっています。親たちへのサポートも州によるようですね。
https://www.hslda.org/laws/
私はシアトルで娘のホームスクーリングをしていたのですが、ある程度までは地元の学校のクラスに参加する権利がありました。ご参考になれば。
ワシントンホームスクール協会
シアトルホームスクールグループ
知人にもホームスクーリングをしているひと、たくさんいますよ。地元の学校から教材はもらえますし。時々共通試験を受ける必要はあります。一般的にホームスクーリングをしているこどもたちは優秀ですよ。
友人の大学教授は2人のこどもをホームスクーリングさせていて、世界中に連れて行っています。ほかの友達は、6か月間こどもたちをホームスクーリングさせることにして、そのあいだ旅行に連れて行って地理や歴史を実地で学ばせていました。物理とかそういった特定の科目に関しては家庭教師にお願いしたりするみたいですけど、オンラインコースはたくさんあるし、ホームスクーリングはどんどん簡単になっていると思います。家にいることができればね!
もちろんホームスクーリングには危険もありますよね。だからアメリカでは国の共通試験や、州が定めたカリキュラムによる州共通試験を受ける必要があるんです――少なくともほかのこどもたちと同様に習得すべきことを習得できているのか確かめるために。
<スイス>スイスではいくつかの州ではホームスクーリングは合法だけど、国全体では認めていないですね。興味があったら自分の住んでいる自治体に問い合わせないといけません。
スイスホームスクール協会という団体があるのですが、そこのウェブサイトは英仏独語で情報を公開しています。
http://www.bildungzuhause.ch/en/home.html
このあいだイギリス人の友人が従来の学校教育に幻滅したひとたちのために"アンスクーリング"(学校にいかせず、子どもの自主的な学ぶ気持ちに任せる)という解決法があることを教えてくれました。友人は近所でアンスクーリングしている人たちを何人か知っているようですが、イギリスではホームスクーリングも、アンスクーリングも合法です。ちょうど最近イギリスの新聞でこんな記事を見ましたよ。
学校もルールもなし:子育ての最新トレンドにのってみる?(テレグラフ紙)
http://www.telegraph.co.uk/women/mother-tongue/11828033/No-school-no-rules-would-you-sign-up-to-the-latest-parenting-trend.html
<インドネシア>娘のニラはこれまでずっとホームスクーリングをしています。今中学生にあたりますが、科目によってレベルも変わっていますね。語学や作文、美術は進んでいますが、数学は平均くらい。科学は少し遅れています。
私たちがホームスクーリングをはじめた9年前、インドネシアではホームスクールはあまり知られていませんでした。法律では、7歳から15歳のこどもは通学する義務があります。残念ながら多くの親がインドネシアの教育システム、特に初等教育に満足していません。左脳的にすぎるし、教師から生徒への一方通行の教授法だし、遊び時間も少なければ芸術の時間も少ないんです。
不満な親たちは"コミュニティスクール"や学習グループを作って、もっと親が科目や時間や教授法をコントロールできるように取り組んでいて、そのためホームスクーリングやコミュニティスクールは注目されつつあります。
ニラや同じくホームスクーリングを選んでいる友だちはインターネットからも多くを学んでいます。コーセラ(Coursera)やカーンアカデミー、そのほかにもさまざまな科目の教育を無料で受ける機会があります。
ニラのホームスクーリング仲間の先輩たち何人かは今大学生です。高校生向けの全国試験を経て、通常の選考プロセスで入学しています。
<イタリア>イタリアでは15歳まで通学しなくてはいけません(無料です)。ホームスクーリングは違法なのです。教育の不均衡を広げることにもなりかねませんから――裕福で高学歴な家庭はより高い教育をこどもに与え、低所得で低学歴の親たちは節約して聖書やコーランだけでこどもの教育を済ませてしまうでしょう。学校というものは盲信や視野の狭さに対するある種の解毒剤なのです。
~~~~~~~~~~~~~紹介ここまで~~~~~~~~~~~~~~~~~
子どもの教育に対する国や人々の考え方、家庭と学校の役割など、いろいろと考えさせられますね。日本では、みなさんは、どうお考えでしょうか。
バラトングループには何カ国からのメンバーがいるのか正確にはわかりませんが、こうして情報提供を求めると、ぽんぽんとたくさんのインプットをもらえて、ありがたいなあ!と思います。