まずは、前号で以下のようにお伝えした件の報告です。
2月27日のエネルギー情勢懇談会を受けて、共同通信から「2050年にも原発重要と明記へ。報告書に原発の重要性を明記する方向で調整に入った。改定作業を進めるエネルギー基本計画にも反映させる方針」という報道があり、びっくり仰天。会合ではそのような話し合いはひと言もしていないのに!
このような虚偽の報道があった場合、原因は2つ考えられます。
(1)エネ庁が何らかの意図のもと、虚偽の情報を報道機関に伝えた。
(2)報道機関が何らかの意図のもと、虚偽の報道をした。
皆さんはどう思われますか? 「事実でない報道があった」と報告したのち、多くの方からいただいたコメントを見ると、(1)だと思った方が多かったようです。「国はいつもこうやって国民をだます」というように。
情勢懇の事務局のエネ庁担当者に聞いてみました。
「エネルギー庁では、その報道に書かれているようなことはなかったと認識しています。エネルギー情勢懇談会の議論は原則すべて公開されており、第7回についても同様です。こちらから議論の全容をご覧いただけます。
http://www.ustream.tv/recorded/113255268
http://www.ustream.tv/recorded/113256843
国への不信感が強い方は、この回答自体も「ウソだ」と思うかもしれませんね。
私自身は、半年以上事務局の方々とやりとりをしてきて、原発の位置づけなど考え方は違っても、自分たちのために虚偽やねつ造をする人たちではないことは信じられるので、改めて「報道された情報とのつきあい方」を考え直す機会となりました。
経産省vs環境省、原発推進派vs原発反対派など、わかりやすい二項対立にはめて、面白く見せる、煽る、というメディア側の動機もあるのかもしれません。そこで思考停止してはいけない、と思いました。
さて、[enviro-news 2614] で、第5回情勢懇でのシェル社の話を伝えましたが、今回は「第5回レポ!その2」として、第5回情勢懇のつづき、EDF社のプレゼン内容の抜粋と、私との質疑応答をお伝えします。
EDFは、フランスでの原子力発電を軸とする世界最大の原子力事業者で、売上高10.1兆円。原子力が81%を占めますが、再エネ、火力も展開しており、47%が海外での売上です。
世界最大の原子力事業者がエネルギーの状況をどのように見て、どのような戦略を立てているのか? お話の概要をお伝えします。
~~~~~~~~~~~~ここから抜粋引用~~~~~~~~~~~~~~~~~
フランス電力グループ上級副社長・マリアンヌ・レニョー氏
○会社概要
・顧客数は、世界中に約4,000万人。従業員数は17万人で、3分の2はヨーロッパ、残りはヨーロッパ外という国際的なグループ
・78%が原子力、10%が水力及びその他再エネルギー。世界最大の原子力事業者で、水力発電も最大で、火力発電もやっている。
・EDFがフランスで発電している電力の98%はCO2排出ゼロ。原子力エネルギー、水力エネルギーが中心で、加えて他の再エネも入っているため。世界の主要な競合他社と比べて、20倍ぐらいCO2排出が低い。
・EDFは、世界中で事業を行っているワールドワイドカンパニーであり、発電から始まって、送電、配電、販売、またトレーディングやサービスに至るまで、全てのバリューチェーンに関わっている。グローバルな総合エネルギー会社である。
・25カ国でビジネスを行っており、再エネは22カ国でやっている。
・今世紀初めには、世界中が「原子力ルネッサンス」を信じていた。現在、フランス政府は、エネルギーミックス、電源構成をどう考えているか。
・2年前の2015年に、「エネルギー転換法」が成立し、原子力発電の設備容量を現行レベル(63ギガワット)で据え置くことが決まった。その結果として、原子力の1つは閉鎖することになった。
・フランス政府は、「2025年までに、原子力発電の比率を75%から50%にまで下げる」ことを決めた。
・しかし、その後、2017年10月に、新政権によって、新しい重点施策が提示され、力点が気候変動対策に移った。炭素排出を減らすこと、フランスの電源ミックスにはっきりとそれを具現化することを通じて、パリ協定への明確なコミットメントを織り込む。
・フランスは、2050年までに温室効果ガスを3分の1まで下げると公約している。石炭のような化石燃料を使う火力発電所はもう新たにつくらないということ。
・そして、原子力発電の50%シェア目標は延期され、新しい電源構成が決まるまで待つということになった。
・再エネの比率が大幅増になる予定で、どのぐらいのスピードで再エネが展開するかによって、時間軸や電源ミックスが決まってくる。
・EDFはメジャーなプレイヤーとしてエネルギー転換にかかわりたいと考えている。高い人材活用スキルも技術力も知識もあり、全ての電力のバリューチェーンに携わっているエネジーエクセレンスとして定評もある。非常に高い技術・産業レベルを有し、イノベーションプッシュも強く働いている。シェルの方も言っていたように、エネルギーの未来はイノベーション、デジタル化、そして分散化にあるからだ。
・中央集約型のものと分散化型の組み合わせになると考えている。EDF社の戦略のメッセージには3つの次元がある。
・顧客、お客様は大切であり、全世界で、地域社会にもいろいろなサービスを提供している。投資を行って、新しいエネルギーサービスの経験をお客様にお届けしたいと考えている。電力事業者はどこも同じような製品を提供しているので、サービスがとても重要な役割を担っている。
・電力システムの未来にも備える必要がある。そのために投資や開発も行っている。新しいエネルギーシステム開ということで、スマートメーター、スマートグリット、Vehicle to Grid、電気自動車、キャパシティストレージ(蓄電池やバッテリーストレージなど)いろいろ考えている。
・発電については、原子力発電と再生可能エネルギーの組み合わせでいきたいと考えている。原子力エネルギーだけがソリューションではない。原子力はいろいろあるソリューション中の一つだと位置づけている。
・鍵となる原動力は「低炭素」。エネルギー転換として、再エネと原子力エネルギーの2本柱でやっていく。
・これをサポートしているのは、大々的な研究開発。EDFは、統合型の研究開発をやっている唯一の企業で、2,000人ぐらいが研究開発部門にいる。研究開発予算の50%は低炭素化のエネルギーミックス、つまり、再エネ、原子力に投じている。日本の企業とも長期にわたる歴史的なパートナーシップを組んでいる。
・フランス国外の話をしたい。EDFは世界で5基の新しい原子炉を建設中。1基はフランスで、2基がイギリスで、あと2基は中国で建造中。
・原子力エネルギーでは、施設の設計、運転、廃炉、廃棄物処理に至るまで、ライフサイクル全体を見る必要がある。
・寿命延長がソリューションの一部となってきている。新増設がないので、経済性を高めるためには、既存施設の寿命を延長するということ。そのために450億ユーロを投資して、原子炉の運転期間の延長をしようとしている。フランスのブリトーについては、上限50年まで延長できるのではないかと考えている。アメリカでは60年まで延ばそうとしている。
・エネルギーミックスの中で力を入れている2番目のものは再エネで、具体的には水力だが、風力も太陽光も入る。
・世界全体で、水力、風力、太陽光で既に30ギガワット分ぐらいの設置済み容量を有している。
・また、世界中でストレージ(蓄電)ソリューションもやっている。
・フランスの電源構成の中では、再エネが大きな比率を占めるようになるが、2030年の目標に向けて、2020年から2035年までに30ギガワットの太陽光プラントが必要になる。毎年2ギガワット分の新規設備を2基ぐらい増設していかないと間に合わないということになり、とても野心的になる。
・風力と太陽光発電の技術コストは、フランスでもヨーロッパ全体でも、ヨーロッパ外でも下がってきている。これがキードライバーとなって、自信を持って「再エネの容量が増える」と言える。
・EDFは、真の意味で積極的に「ヨーロッパ、そして世界のエネルギー転換に手を貸していきたい」と考えている。
・そのためには、まず、再エネコストを大幅に下げるということ。これによって、もっと大きな役割をエネルギーミックスで果たすことができるようになる。イノベーションが進み、新しいソリューションも出てくるからだ。
・さらに、グリッド(送電網)も安定化しなくてはいけない。強靱性を高め、安全性をさらに高める。原子力エネルギーのフレキシビリティも増し、スマートグリッドも、イノベーションも進め、新しいストレージソリューションも導入する。そして、競争力も維持していき、新しい発電手段も導入できるように心がけていきたい。
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質疑応答
○枝廣委員
「分散型が重要になってくる」というお話がありました。日本では、これまで10の電力会社が、日本全土に電力を供給してきたので、「分散型」というイメージがなかなかわかりにくいので、もう少し教えて下さい。その定義と、分散型が広がっている、もしくはこれから大事だとおっしゃるその原動力はどのようなものなのか、どういうところに分散型が適しているのか、分散型のあり方を進めていくために何が必要なのかを教えて下さい。
○マリアンヌ・レニョー氏
分散型ソリューションというのは何か、説明したいと思います。「集中型」は、この20年、30年、原発や石炭火力発電所など大規模施設を中心に、集中型でやってきました。これが世界の風潮でした。どちらかというとトップダウンのアプローチです。
しかし、これが変わってきました。クライアントのニーズも分散化するようになってきています。「分散型ソリューション+集中型ソリューション」の組み合わせを求められるようになってきたのです。両者の長所を組み合わせたいということです。
「分散型」の場合には、再エネが中心になり、規模も小規模になります。太陽光発電や風力発電など、原子力発電所が発電するほどの発電量は1カ所では出ません。1つの国の中で分散されるわけです、小規模ですから、建てるのにも時間が短縮でき、資金投入量も少なくて済みます。
文化的な変化もあります。お客様の要望が変化しているのです。迅速に近くでソリューションを求めるようになってきています。身近で、より柔軟にニーズを満たしたい、自分もプレイヤーになりたい、と。ですから、フランスでは法律がつくられて、「自家発電」が言われるようになったのです。市民も、事業所も、自分で自家発電ができる。本当に小規模ですが、小さな風車を庭に置くとか、屋根に太陽光パネルを載せるなど。
かつてはこういった発電には補助金が出されており、事業会社としてわが社はそうやって発電された電力を高い価格で買い取っていました。小規模発電を促進するためです。しかし、分散型だけで全てをまかなうことはできませんので、一部は集中型も必要です。
一方、カリフォルニアなどで今、試行されていますが、10年後くらいになると電気自動車がもっと普及するでしょう。家屋の屋根にはソーラーパネルが載っていて、車庫には蓄電設備がある、ということになりますから、電力の生産と消費の両方が自立型になっていくでしょう。これが真の意味での分散化だと思います。デジタル化にも呼応しています。生産側と消費側の間の橋渡しをするインターフェース、プラットフォームが必要になってきます。こうした需要は大だと思います。
○ディディエ・オロー氏(ENEGIE社)
分散型について、私からも補完説明をさせてください。
分散型というのは、別に我々が意図的に求めているものではありません。お客様が求めているものなのです。一般のお客様だけではなく、産業用の顧客も同じことを言っています。「工場の屋根にソーラーパネルを設置して、システムを入れて、電力負荷も管理したい。電力負荷を減らして、電力を節約したい」と。こういった要望は大きく、わが社としても、お客様の一助になりたいと思い、お手伝いさせていただいています。
もう1つ、「分散型」といっても、場所によって意味が違うと思います。郊外や地方だったらと、土地も余裕がありますし、屋根にいっぱいソーラーパネルも置けます。他方、都市部では、そのスペースがありません。都市部の「分散型」とは、データ収集のシステムを使って、電力負荷の管理をすることで、ピークを減らすということではないか。デマンドサイド・マネジメントが重要になるのだと思います。
~~~~~~~~~~~~~抜粋引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~~
シェルの話もそうでしたが、こうした海外のエネルギー企業が、それまでのエネルギーポートフォリオにこだわることなく、時代と顧客のニーズにあわせて、または先取りして、ひじょうにダイナミックに柔軟に、企業経営を行っていること、そのための研究開発や事業拡大に何か?大きな投資をしていることが印象的でした。
日本のエネルギー企業も、世界の市場における主要なプレーヤーの1つとなっていってほしいなあと思います。そのために必要なのは何か? これも今回の情勢懇で考えていく論点の1つだと思います。