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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2018年08月08日

『アニマルウェルフェアとは何か―倫理的消費と食の安全』(岩波ブックレット)刊行されました! (2018.08.08)

食と生活
 

『アニマルウェルフェアとは何か――倫理的消費と食の安全』(626円)
(枝廣 淳子/岩波ブックレット)

本日刊行され、書店にも並びました!

「おわりに」から、一部を引用します。

~~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「アニマルウェルフェアの波が来てますよ! ほんとにね、すごく強く」――2018年5月、取材で訪れていたスウェーデン・ストックホルムで、この国第2位の市場シェアを誇る流通小売大手・アックスフード社の環境・社会持続可能性担当部長の女性が力強く言った。

「牛肉の消費量は少しずつ減っていて、代わりに急上昇なのが植物性タンパク質。年に40%の勢いで売上が伸びてます。豆腐をはじめ、さまざまな植物性タンパク質の食材が登場していて、お肉の代わりに購入されています。理由ですか? 牛肉の生産は温室効果ガスを大量に排出することが知られているので、温暖化への意識と、あとは、健康意識ですね」。

「特に若い女性のベジタリアン率は高いですよ。かつては自分らしさを規定するのは『どういう音楽を聴いているか』だったけど、今では『何を食べるか』がアイデンティティになっています。

『フレキシタリアン』って聞いたことあります? フレキシブルという単語を使った造語です。厳密なベジタリアンではないけれど、植物性タンパク質を食べる方がよいと思って、お肉をめったに食べない、という人たちです。魚は食べるとか、赤身の肉は食べないけど鶏肉は食べるとか。すごく増えています。

肉食に関しては、特に女性が気にしていますね。教育のおかげもあるでしょうし、若者に影響力のあるユーチューバーがそういうメッセージを出しているんです。だから、15歳の女の子が『お肉は食べたくない』と言い出す。すると、家族もフレキシタリアンになっていく。ティーンエイジャーが家族に大きな影響を与えているんですよ」

(中略)

「スウェーデンの人たちは、デンマークで生産された豚肉は安くても買わない人が多いのよ。デンマークの豚は尻尾をちょん切られて飼われていることを知っているから」――取材後に、自宅の近くのスーパー(アックスフードとは別の系列)に買い物に寄ったとき、今回の取材のコーディネートをしてくれた高見幸子さんが教えてくれた。スウェーデン在住歴40年の高見さんは、環境と教育の分野で日本とスウェーデンをつなぐ大事な役割を果たしておられる。

「スウェーデンの基準がいちばん高いことはみんな知っているから、ほら、たくさんのお肉のパッケージに『スウェーデン産』って書いてあるでしょう? それがウリになるのよ」。たしかに、「スウェーデン産」の表示が多い。スウェーデン人の友人アランも「値段が倍だったとしても、デンマーク産よりスウェーデン産を買う」と言っていたなあ。

「卵は? 私、アニマルウェルフェアの勉強をしてから、日本のスーパーではバタリーケージ以外の卵を見つけるのが難しくて、卵を食べるのやめているのですけど」と聞くと、卵の棚に連れて行ってくれた。

「どれもケージフリーよ。スウェーデンでは、卵に関してはコープが消費者を教育したの。かつては、バタリーケージが普通だったからね。コープでは、バタリーケージで飼われている鶏と、放牧されている鶏の飼われているようすを比べられるよう、写真で示してね、消費者に卵を選ばせたの。そして、企業努力で値段の差もなくしたのよ。

(中略)

スウェーデンの国営テレビでは、アニマルウェルフェア配慮がない農場では、動物たちがどんなにひどい飼われ方をしているかという番組をよく流しているから、人々は意識して選ぶようになっている。オピニオンリーダーやメディアが働きかけて消費者の意識を変え、消費者の要望に応じてスーパーが変わっていくという好循環が生まれて、状況は大きく変わっていったの」

企業の担当者の話からも、スーパーの店先でも、家庭の主婦の実感からも、スウェーデンがアニマルウェルフェアの観点を大事にし、それを販売や購入の実際に反映していることが強く伝わってくる。

「それに引き換え、日本の現状はあまりにも遅れている......」と考え込む私に、高見さんはこう言った。

「スウェーデンだって、最初からそうだったわけじゃないのよ。スウェーデンの状況を大きく変えた女性がいるの」(後略)

~~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~~~~

その女性とは? きっとあなたも知っているこの女性がスウェーデンの取り組みを大きく進めたのです。つづきは、本書にて!

2年前に米国オレゴン州にエシカル消費の取材に行って、米国や欧州のアニマルウェルフェアの意識の高さと取り組みの進み具合にショックを受けて以来、少しでも日本の状況を改善すべく、日本の現状を調査したり、アニマルウェルフェアについて書いたり、東京五輪の持続可能性委員会のワーキンググループで発言したりしてきました。

専門家ではない、ふつうの人々がアニマルウェルフェアについて知ったり考えたりするきっかけを提供したいと執筆したのが、この岩波ブックレットです。

私たちが食べている卵やお肉がどうやって作られているのか、世界ではどう変わってきたのか、日本の遅れている現状も含め、ぜひ知っていただきたいと思います。

『アニマルウェルフェアとは何か――倫理的消費と食の安全』(626円)
(枝廣 淳子/岩波ブックレット)

このブックレットの刊行にあわせて、幸せ経済社会研究所のウェブサイトの「社会のありかたを探る」コーナーに、アニマルウェルフェアの項目をアップしました。
https://www.ishes.org/society/

~~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

アニマルウェルフェア

アニマルウェルフェアは「動物たちは生まれてから死ぬまで、その動物本来の行動をとることができ、幸福(well-being)な状態でなければならない」という考えを背景として欧米で誕生しました。「動物福祉」と訳されることもありますが、 最近ではカタカナのまま使われることが増えています。

例えば、日本では、ほとんどの採卵鶏(卵を産むために飼育されている鶏)は、 「バタリーケージ」と呼ばれるおよそB5サイズほど大きさの檻に閉じ込められたまま一生を過ごします。また、豚肉用の子豚を産むための母豚の多くも、妊娠ストールとよばれる檻の中で身動きが取れない状態に置かれています。

アニマルウェルフェアは、こうした近代畜産の現場で、家畜をできるだけ自然に近い形で飼育しよう、という取り組みです。動物たちも意識があり、痛みや苦しみを感じます。家畜が食肉として私たちの食卓に上がるまで、その過程の痛みや苦しみを減らすことは、私たち自身にとっても大事なことではないでしょうか。

また、生産効率を最大化しようとする過密飼育では、病気の感染を防ぐために抗生物質などが投与され、人間の健康への影響の心配もあります。

アニマルウェルフェアへの取り組みが進んでいる欧米などでは、バタリーケージや妊娠ストールを禁止している国も増えており、スーパーなどでもより自然に近い形で飼育された卵や肉を選んで買えるようになっています。

日本は欧米と比べると取り組みが遅れているのが現状で、2020年の東京オリンピッ ク・パラリンピックの選手村などで提供される食料のアニマルウェルフェアの基準は、ロンドン五輪やリオ五輪よりも低い水準になることが懸念されています。

それでも、日本でも少しずつ関心を持つ人々が増えてきました。家畜のウェルフェアに対する消費者の意識や関心が高まり、アニマルウェルフェア対応の卵や肉類などを提供する農家や企業が増えていくことを願っています。

<参考資料>

岩波書店『世界』no.896 2017年6月号「私たちの食べている卵と肉はどのようにつくられているか―世界からおくれをとる日本」(前編)

岩波書店『世界』no.896 2017年6月号「私たちの食べている卵と肉はどのようにつくられているか―世界からおくれをとる日本」(後編)

9割の人が知らない「アニマルウェルフェア」 ~消費者の意識と行動が企業の動物福祉の取り組みを変える~

『アニマルウェルフェアとは何か――倫理的消費と食の安全』
(枝廣 淳子/岩波ブックレット)

 

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