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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2018年10月22日

レジリエンス~今年のブループラネット賞、停電下の北海道レポート (2018.10.22)

エネルギー危機
大切なこと
 

旭硝子財団の今年のブループラネット賞の受賞者が決まり、先日受賞講演会が開催されました。
http://www.af-info.or.jp/blog/b-info/

今年度の受賞者のお一人は、オーストラリアのブライアン・ウォーカー教授。デニス・メドウズらが36年前に立ち上げ、私もメンバーであるバラトン・グループの仲間です!
http://www.balatongroup.org/

2004年にブライアンがバラトン合宿に招かれて「レジリエンス」について話してくれたのを聞いて、「これは大事! 日本にも伝えなくちゃ」と思って自分で勉強を続け、『レジリエンスとは何か』を出版しました。いわばこの本の生みの親であり、私が「レジリエンス」について考え、あちこちで語るようになったきっかけをくれた方です。

『レジリエンスとは何か~何があっても折れないこころ、暮らし、地域、社会をつくる』 枝廣淳子・著

ブライアンは、オーストラリア連邦科学産業研究機構(CSIRO)名誉フェロー、 オーストラリア国立大学名誉教授。レジリエンスの研究における業績と貢献が高く評価されての受賞となりました。

ブループラネット賞のウェブから紹介します。レジリエンスの概念についても、なぜそれが重要かも分かっていただけたらと思います。

<受賞理由>
http://www.af-info.or.jp/blueplanet/introduction.html

「社会-生態システム」におけるレジリエンス(回復性 強靭性)概念の開発に最も大きな貢献をし、変動する環境下で社会が持続するには、高いレジリエンスが必要であることを提唱した。教授の研究とリーダーシップにより持続可能性を見据えたレジリエンスの研究が盛んに行われ、教授の先駆者としての功績と社会に与えた影響は非常に大きい。今日、レジリエンスは環境保全、持続可能な開発、環境経済、環境保護、防災政策などの基本的概念となっている。

<レジリエンスとは>
http://www.af-info.or.jp/blueplanet/doc/prof/2018profile-j.pdf

レジリエンスとは、あるシステムがショックや攪乱を吸収し、別の回復不可能な状態に陥ることを避けることができる能力。もともとは物理学の用語で、近年は生態学や心理学など他の多くの分野でも使われるようになり、その概念の使用範囲が広がってきた。経済危機や自然災害などのリスクに備えるためには、外的な衝撃に耐え、立て直し、元の状態と同じ様に機能を維持できる力が必須であると考えられている。

教授は、工学的レジリエンスが「システムが撹乱を受けた時に元の状態に戻る時間」(ショックから回復する速さ)であるのに対して、生態学的レジリエンスは「システムが、撹乱を吸収して元のシステムと本質的に同じアイデンティティ、すなわち同じ機能、構造、フィードバック系を有するシステムへ戻す能力」と定義している。

<ブライアン・ウォーカー教授の功績>

1980 年代、レジリエンス を研究していた少数の科学者ネットワークのメンバーであったウォーカー教授は、「レジリエンスが生態系の持続性のカギを握っている」と主唱するようになった。さらに1990 年代からは、もともと自然生態系の分野で行われていたレジリエンスの研究を社会科学の分野へも拡大し、社会・生態システムにおいても閾値があることをいち早く示して、自然資本の持続的な利用のために社会と環境の変化に対応できる高度なレジリエンスを有する人間社会を作ることを提唱した。

かつては、生態系は大きな攪乱を受けても元の状態に戻るという考えが一般的であった。例えば、漁業資源や林業資源は大量に漁獲したり伐採したりしても自然に元の状態に戻るという考え方である。

しかし、教授らは、資源の利用がある限度を超えて増大すると、生態系は突然別の異なった状態に移り、元に戻らなくなることを見出し、「過度に利用された自然が時間とともに徐々に回復してくると考えるのは間違いで、持続的社会を実現するには、閾値を意識した生態系のレジリエンスに配慮して自然を管理し限度内での開発をすべきである。」との社会に向けたメッセージを発信してきた。

この考え方は、地球システムのレジリエンスに着目した「プラネタリーバウンダリー」の概念の基礎のひとつとなった。このように、教授の牽引してきたレジリエンス研究は今日では非常に活発に行われ、例えばレジリエンスと環境に関する発表論文数は2000年には250であったが2015 年には約 25 倍の 6000 を超える論文が発表されている。

先月「大停電下の北海道・下川町で考えた「レジリエンス」の大事さ」という記事を書きました。
https://www.es-inc.jp/1dai/2018/1dai_id009689.html

北海道にお住まいの方から、メールをいただきました。停電時のレジリエンスについて参考になると思い、快諾をいただいたので、共有させていただきます。

~~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~

あのときに書かれたメルマガの感想を少し書きたいと思います。

私の会社はLPガス・灯油の販売店ということでライフラインの一端を担っています。

災害が発生した時に、お客様からの要望に迅速に対応するため、蓄電池・太陽光発電・LPガス発電機を装備しています。(まさに先生がお書きになったエネルギーのレジリエンスにかかわる装備です)

平時は深夜電力で蓄電池を満タンにします。開店後は太陽光で発電した電力を最優先に使い、発電量が足りなければ蓄電池の電力を使います。通常は夕方ころに蓄電池が空になり、電力会社から電力を購入しはじめます。

今回の場合はというと・・・。

蓄電池は満タンでした。いつものように数時間程度で停電が復旧するだろうと考えていましたので、蓄電池の電力を頼りに営業を開始しました。電話・コンピューター・照明・冷蔵庫・洗浄便座などで、いつも通り電力を消費しました。

お昼前後に停電が長引きそうだという情報が入り、電話・コンピューター以外の消費を止めました。夕方には蓄電池の電力が底をついたため、LPガス発電機の電力で電話・コンピューターを維持しました。

この状態を2日目の20:20まで維持したところで停電が終わりました。

停電時間は40時間ほど、発電機の運転時間は30時間ほどでした。

停電の間、太陽光発電はあまり役に立ちませんでした。停電時は停電時専用コンセントしか利用できないことと、それほど天気が良くなかったことで、せいぜい携帯の充電にしか使えず、事業を維持するためには頼りになりませんでした。

それでも社員やご近所の方は喜んでくれましたが・・・。

ころで肝心のガス・灯油のお客様からの緊急連絡はというと、ほとんど入らず肩透かしでした。停電でお客様の電話が使えないからかもしれないと思い、停電復旧後の緊急連絡殺到を警戒しましたがそれも無し。

ガス漏れ、灯油漏れなどがほとんど無くて本当に良かったです。ガスメーターの対震装置がはたらいてガスが止まった方が数件ありました。

お客様のお話では、冷凍食品が停電により解凍してしまうため、より高価な食材から料理して食べたそうです。我が家でもカツオのタタキを大量に食べました。

札幌は弊社のある北区が震度5強、隣の東区が震度6弱でした。道路が一部で陥没したり、鉄筋の建物にひびが入るなどの被害が出ました。札幌の反対側の清田区で液状化した地域があったのはニュースでご存知だと思います。

今回問題だと思ったのは携帯電話の基地局の非常用バッテリーが切れたことです。

バッテリーは数時間から24時間持つそうですが、今回は長時間停電のため軒並み電源が落ち、街中あちこちで携帯が圏外表示となり通じませんでした。

広域で長時間の停電が発生することを想定していなかったようです。もし緊急対応がたくさん発生したいたら、出動員と連絡がとれず立ち往生したことでしょう。

なお停電は札幌市内では6日夕方から復旧し始め、8日夜までにほぼすべてが復旧したようです。停電時間は12時間から65時間ほどと思われます。

それにしても今回は電気に頼りすぎていたことを痛感しました。

これが冬だったら札幌でもたくさんの方が凍死したと思います。

自宅や避難所の暖房機が停電で運転できないことは大きな問題です。

先生は非常用にも使える「ソーラーパネル+蓄電池」の導入する必要を訴えておられますが、今回の経験から長時間電力を供給し続けることができる発電機が必要だと思いました。

北海道の冬は暖房を継続することが命をつなぐために最優先。発電機があれば燃料がある限り発電でき、暖房機等を運転し続けることができます。

弊社ではLPガスとガソリンの発電機を各1台保有していますが、今回はガソリンの発電機は運転できませんでした。数年前に使用した時にガソリンを抜き忘れたため劣化したことが原因と思われます。

LPガスの発電機も同様の扱いでしたが、使用後に燃料を抜き取る必要がないため、無事に運転することができました。

また災害発生時にガソリンの入手は非常に困難です。ガソリンスタンドは自家発電があることろは営業していましたが、数時間も並ぶ上、数量制限をしていました。

避難所に用意するなら維持管理が簡単なLPガス発電機が良いと思いました。

以上、思いつくままに書きました。ご参考になれば幸いです。

~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~~~

この時代は、「ハイパーコネクティビティの時代」とも呼ばれています。つながりが非常に密になっているため、平時は便利な一方、どこかで何かがあると、つながりを伝って、各所に影響が出てしまいます。そういう時代のレジリエンスをしっかり考えなくては、と思います。

ところで、ブループラネット賞の受賞講演に来日したブライアンと旧交を温めました。バラトン合宿であったのちも、「レジリエンスとは何か」を書いている間も、メールではやりとりしていましたが、会うのは久しぶり。食事をしながらレジリエンス談義で盛り上がりました。

「レジリエンスとは何か」は、研究者向けでなく、一般の方々向けにレジリエンスの考え方を伝えたいと書いたんだよ、と話すと、「その本、オーストラリアでも必要だ! 英語にしてくれないか?」(^^;

ブライアンも「レジリエンス」という言葉を使わずに、その重要性と考え方を伝えるための本を執筆中とのこと。この時代のレジリエンス、そしてその伝え方を一緒に考えるために合宿しましょう!と盛り上がったのでした!

 

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