昨年4月からお手伝いしてきた熊本・南小国町の共有ビジョンができました! 先月末に、町で「共有ビジョンと産業連関表の発表会」が開催され、予想を上回る多くの町民の皆さんが参加してくださいました。
今回発表した共有ビジョンは「2050年の南小国町がどうなっていたいか」を26人の委員の方々が中心となって作り上げたものです。SDGsの考えをもとに創り上げた南小国町のめざす姿は、町のさまざまな取り組みがめざす方向を示す「北極星」のような役割を果たすことになります。
具体的なビジョンの中身と、どのようなプロセスでつくっていったかをお伝えしましょう。
まずは共有ビジョンの中身です。南小国町では、清らかな里、「きよらの里」を町のキャッチフレーズにしています。町民ならだれでも親しんでいるフレーズです。今回は、委員の発案で、この「きよらのさと」となるように、共有ビジョンを表現することにしました。
~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~
http://www.town.minamioguni.kumamoto.jp/news/000528.php
南小国町共有ビジョン
~「きよらの里」を次世代に引き継いでいくために~
平成31年2月26日
「き」 (自然・里山・循環)
築いてきた美しい里山の景観、伝統文化、生業を次世代に引き継いでいく里
「よ」 (暮らし・幸福度・つながり)
寄り添い支え合い、人と人のつながりを大切にし、一人一人が誇りを持ち、多様な生き方を尊重しあえる里
「ら」 (安心・安全)
ライフラインを充実させ、地域全体で協力し、だれもが笑顔で安心して過ごせる里
「の」 (人づくり・教育)
のびのびと学べる環境の中で、すべての人が夢に向かって挑戦できる里
「さ」 (エネルギー)
再生可能エネルギーを地域資源から生み出し、有効活用し、未来につながる豊かな暮らしを実現する里
「と」 (産業、ローカル・グローバル)
共に連携し、世界とつながり、世界に誇れる幸福な暮らしができる里
~~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~~
そもそも、南小国町はなぜ町の未来についての共有ビジョンをつくろうと思ったのでしょうか?
それは、このような認識です。
不安定で不確実な時代に、持続可能な幸せな町にしていくためには、「ぶれない芯」となるビジョンを町全体で共有することが必要となる。それが共有ビジョンである。そのビジョンを町民が主体となってつくることで、「自分たちの町がどうありたいか」を繰り返し問いながら、動きや変化を生み出す町・町民となり、持続可能なまちづくりを進めることができる。
町長からの委嘱を受けた町民・役場職員からなる26人の委員会が、最初に集まったのは4月でした。10回の委員会と、先進地域視察、町民のパブリックコメントのプロセスを経て、このたび完成したものです。10回の委員会の進め方は私が設計・コーディネート・ファシリテートを担当しました。
共有ビジョンづくりのプロセスの基本として、3つの要素を採り入れました
(1)未来のありたい町の姿を描く(バックキャスティング)
(2)つながりをたどって、ありたい姿を実現する「好循環」を考える(つながり思考・システム思考)
(3)独りよがりではない町のあり方を考える(SDGs:国連持続可能な開発目標)
各回の内容を紹介しましょう。
第1回:(レクチャー)まちづくりの事例紹介(海士町、下川町)
バックキャスティングでビジョンをつくるやり方
(ワーク) 30年後の南小国町のありたい姿を描く
町民への聞き取り調査スタート
第2回:(レクチャー)SDGsとは
(ワーク)SDGsを通して南小国町について考える
第3回:(レクチャー)地域経済循環の見える化について
システム思考入門
(ワーク)町の状況をループ図にしてみる
先進地域視察:北海道下川町に現地視察(2泊3日)
共有ビジョン策定を経験した下川町の策定委員と苦労した点や工夫した点などを意見交換することで今後の会議に活かすことが目的。先進地域を実際に視察することで刺激を受けるともに、南小国町らしさなどを再認識する機会につなげることも期待して実施。
第4回:(レクチャー)時間軸を考えに入れるための時系列変化パターングラフ
(ワーク) 南小国町らしさを考える
第5回:(ワーク)SDGs17ゴールのつながりをループ図にする
町民聞き取り調査で得られた意見をSDGs17ゴールに分類
SDGsを広く町民に知ってもらうためのアイデア出し
第6回:(レクチャー)エネルギーの世界と日本の潮流
(ワーク) エネルギーの視点から町を考える
共有ビジョンの文案作成
第7回:(ワーク) ビジョンに含まれる要素のカテゴリー分け
ビジョンの文案作成
第8回:(ワーク)町民の声、SDGsの枠組み、南小国町らしさを確認しながら共有ビジョンの最終仕上げ
(パブリックコメント実施)
第9回:(ワーク)パブリックコメントの検討、共有ビジョン最終版完成
第10回:町長への手交式、共有ビジョン発表会
以上が10回の流れです。今回の共有ビジョンづくりでいちばん心を砕いたのは、SDGs
の基本精神である「だれひとり取り残さない」を重視したプロセスをどのようにつくるか、でした。
町の人口は約4300人です。共有ビジョン策定委員会の委員は26人です。各方面から選ばれた委員とはいえ、26人だけでつくったビジョンは「共有ビジョン」といえるのか? 他方、4300人と一緒にビジョンをつくることは現実的ではありません。
そこで、今回は「どうやったら、できるだけ多くの住民の意見を聞けるか」を委員と一緒に考え、手分けして、さまざまな町民の声を集めるプロセスを繰り返しました。
その結果、4300人の町で、550人以上の声を集めることができたのです。赤ちゃんからお年寄りまで入れて、8人の1人から声を聞いたことになります。26人だけでつくるよりはずっと「共有ビジョン」と言えるのではないかと思います。
また、どうやって、委員以外の人々にも委員会の議論の内容を知ってもらうかも大事です。そこで、今回はグラフィックレコーディングのスタッフに入ってもらって、毎回の議論の内容をビジュアルで模造紙に記録し、いつでもだれでも、これまでの議論の経緯が見えるようにしました。
そうすることで、委員が前回の議論を思い出して、そこから議論を始められるだけでなく、新しい委員が参加しても、欠席だった委員が次に参加しても、議論が「戻ってしまう」事態も避けることができます。
来年度は、共有ビジョンの実現に向けての具体的なプロジェクトの計画と実施をお手伝いしていく予定です。
また、南小国町ではこの1年、共有ビジョンづくりと並んで、町の産業連関表の作成も進めました。きちんと結果が出、こちらの発表会も同じ時に行いました。
産業連関表は、地域の経済状況を見える化するものです。今回の調査で、南小国町の経済規模、各産業の占める割合、外貨獲得額・産業や、町外へのお金の漏れなど、実に多くのことがわかりました。地元の方からは「イメージによる議論ではなく、数値に基づいた議論ができるようになるのでうれしい」とのコメントをいただき、お手伝いさせていただいた私たちもうれしく思っています。
来年度は、これらの情報をもとに、地域経済の「漏れ」をふさぐために、何をさらに詳しく調べる必要があるか、どのような打ち手を打っていくべきかを議論し、実際の取り組みを進めていきます。
南小国町の共有ビジョンづくりと産業連関表作成について、3月16日のフォーラムでさらに詳しく実際のところを、町長、行政職員、町民の方から聞いていただけます。
3月16日のフォーラムでは、南小国町のほかに、島根県海士町、北海道下川町の地域経済への取り組みを発表してもらいますが、素敵なことに、3町とも、行政職員だけではなく、ビジョン策定に関わった町民も一緒に来てくれます。町民の立場からの感想やコメントなどもぜひ聞いてください。役場と民間の両方の立場からの話がいっぺんに(しかも3町!)聞けるめったにない機会だと思います。
すでに100名を超える方から参加お申し込みをいただいていますが、広い場所を借りていますので、まだ席はあります。また、遠方やスケジュールの合わない方には動画受講のオプションもあります。ぜひご一緒に!
<3月16日 地域経済循環フォーラム>
http://ptix.at/7oHQdJ
■日 時:2019年3月16日(土)13:00~17:00(12:30 開場)
■会 場:大学院大学至善館
東京都中央区日本橋二丁目5番1号 日本橋高島屋三井ビルディング17階
■講師・ファシリテーター:枝廣淳子(幸せ経済社会研究所所長、大学院大学至善館)
■パネリスト所属:北海道下川町/島根県海士町/熊本県南小国町
■プログラム(予定):
13:00-13:10 開会の挨拶
13:10-13:55 講演「地元経済を創りなおす~その考え方と手法」
枝廣淳子
13:55-15:10 地域の取り組み紹介
島根県海士町/熊本県南小国町/北海道下川町
15:10-15:25 休憩
15:25-16:55 パネルディスカッション
「人も経済も資源も循環する、持続可能で幸せな地域をつくる」
パネリスト:熊本県南小国町/北海道下川町/島根県海士町
コーディネータ:枝廣淳子
16:55-17:00 閉会の挨拶
(17:00-17:30 交流タイム)
■定員:約200名
■資料代:1,000円(税込)
■詳細・お申し込み: http://ptix.at/7oHQdJ
■主催:幸せ経済社会研究所(有限会社イーズ内)
■会場協力:大学院大学至善館
■お問い合わせ
幸せ経済社会研究所 (有限会社イーズ内)
担当:久米、田辺
代表E-mail: Inquiry(@)ishes.org ※迷惑メール対策のため、お手数ですが(@)を@に変更してお送り下さい
Tel:03-5846-9841 Fax:03-5846-9665