長い連休と新しい時代のはじまり、いかがお過ごしでしょうか。私はフランスのストラスブールという町で、バラトングループの戦略会議に参加していました。
バラトングループは「成長の限界」を書いたデニス・メドウズらが1982年に立ち上げた国際的なシステム思考・持続可能性の研究者や実践家からなるグループで、現在数十カ国から500人を超えるメンバーが、毎年秋に開催される合宿や、日常的なメーリングリストでの意見交換などを通して、活動しています。
http://www.balatongroup.org/
戦略会議に先立って、デニスを含むメンバー5人でフランス・アルザス地方の運河での船旅を楽しみました。船の旅や戦略会議の中で、いろいろな意見交換をしたのですが、デニスが「現在、最も関心を持っていること」として挙げたのが、人口減少社会をどう持続可能につくり直していくか、ということでした。「他の環境問題などと違って、専門の研究機関や政府の部門もないのではないか」と(こういうところで研究しているよ、とかこういう取り組みがあるよ、という情報があったらぜひ教えてください)。
人口減少社会の先頭に立っている日本では、さまざまな模索が始まっていることをデータなどとともにできるだけ伝えましたが、自分としても、もっと本格的にこの課題に取り組まなくてはならない、という思いを強くしました。
2011年1月に立ち上げた幸せ経済社会研究所(略称:幸せ研)はまさに、人口も経済も成長を続ける時代が終わって、どう持続可能な社会をつくっていくのかを考え、学び、実践していくための場です。
https://www.ishes.org/
この活動の中から生まれた「地元経済をつくり直す」という岩波新書が版を重ねていることからも、この課題への関心・切迫感が高まっていることを感じます。
幸せ研では、継続的な活動の1つとして、月例の読書会を開催しています。関心の重なるテーマや書籍があったら、ぜひご参加ください。次回のご案内です。
「幸せと経済と社会について考える読書会」5月13日(月) 18:30~
●課題書図書
『低炭素革命と地球の未来』(著:竹田 青嗣 / 橋爪 大三郎)
定員:先着20名
竹田先生、橋爪先生は、私も教鞭を執っている大学院大学・至善館の教授でもあられます。教授会で両先生とテーブルを囲むこともあります。日本を代表する哲学と社会学の大御所が温暖化問題をそれぞれの分野や研究の中でどう位置づけ、どう取り組もうとしているのか。おふたりの対談をもとに編集された書籍なので、読みやすい本です。よろしければぜひご一緒に。
https://www.ishes.org/news/2019/inws_id002631.html
なお、過去の読書会の音声講座も販売していますので、ご興味のあるものをいつでも学んでいただけます。
https://www.ishes.org/reading/
幸せ研のもう1つの活動の柱は、内外の幸せ・経済・社会に関するニュースの発信です。
https://www.ishes.org/
今回は、2019年1月~2月に発信した幸せニュースや取り組み事例をまとめてご紹介しましょう。タイトルを斜め読みしていただいて、「!」「?」というものがあれば、記事にお目通しください。
■□■□■□■□■□■□■□
2019.01.05
変化する労働環境における万人にとって良い仕事とは?―― OECDが新しい雇用戦略を発表
(経済開発協力機構より)
経済協力開発機構(OECD)は、2018年12月4日に新しい雇用戦略を示した報告書"Good Jobs for All in a Changing World of Work"を発表しました。多くの国々で、デジタル革命やグローバル化、人口構造の変化と結びついた構造の変革に伴い、生産性と賃金上昇の鈍化が広がり、大きな収入格差が生じています。この報告書は、こうした深く急速な変化に起因する労働環境上の新たな課題に、各国が立ち向かう手助けをすることを目的としています。そして、雇用の量ではなく雇用の質と包摂性を政策の優先事項とし、変化する労働環境において、レジリエンス(回復力)と適応性が重要であると強調しています。
政策原則に関しては、1.良質な雇用が盛んになる環境を促進する 2.労働市場における排除を防止し、労働市場のリスクから個人を保護する 3.急速に変化する労働市場における将来的な機会と課題に備える、という点を重視すべきだとしています。
各国の状況を表した指標を見ると、日本は失業率が加盟国中2番目に低く、就業率は上位3分の1のグループに属しています。その一方で、非自発的パート(フルタイムの仕事を見つけられなかったためにパートタイムで働く人)が増加しているため、不完全雇用率はOECD平均近くに位置しています。また、終身雇用の伝統により労働市場の不安定性は加盟国の中で最も低いものの、正規雇用と非正規雇用の間や、男女の間で大きな賃金格差があるため、包摂性における評価が低くなっています。
この報告書の本文はこちら(英語)
(参考)日本のレポート(日本語)
http://www.oecd.org/japan/jobs-strategy-JAPAN-JP.pdf
■□■□■□■□■□■□■□
2019.01.09
2018年版世界ジェンダーギャップ指数:日本は特に政治分野でのギャップが大きい
(世界経済フォーラムより)
世界経済フォーラムは2018年12月17日、2018年版の世界ジェンダーギャップ指数を発表しました。今年は世界149カ国について、経済・教育・政治・健康の4分野から評価が行われています。
主な結果は以下の通りです。
・1位はアイスランド(0.858)、2位はノルウェー(0.835)、3位はスウェーデン(0.822)と北欧諸国が上位を占めました(カッコ内の数字はスコア。スコアは0から1の値をとり、1に近づくほどジェンダーギャップが小さいことを表します)。
・4分野の中で世界的にジェンダーギャップがもっとも大きいのは政治分野で、ギャップは77.1%でした。2番目にギャップが大きかったのが経済の41.9%です。それに対して、教育と健康のギャップは小さく、それぞれ4.4%、4.6%でした。
・対象となった149カ国中、国家元首が女性の国は17カ国のみでした。また、女性大臣の割合は29%、経営的なポジションについている女性はデータが取得可能な範囲で34%でした。
・将来需要が高まるAIの専門家については、女性の割合は22%でした。
日本の順位は149カ国中110位(0.662)。2017年の114位(0.657)に比べると順位、スコアともに若干の改善が見られるもののG7では最下位でした。日本の4分野の内訳は、政治分野は125位(0.081)、経済分野は117位(0.595)、教育分野は65位(0.994)、健康分野は41位(0.979)でした。政治と経済という世界的にもギャップが大きい分野で低順位であることがわかります。
(新津 尚子)
2018年版世界ジェンダーギャップ指数について詳しくはこちら(英語)
■□■□■□■□■□■□■□
2019.01.22
社会経済的状態による成績の差は10歳のころから始まる
(経済開発協力機構より)
経済開発協力機構(OECD)は2018年10月23日、報告書『教育における公平性:社会的流動性に対する障壁を打破する(Equity in Education: Breaking down barriers to social mobility)』を発表しました。教育における公平性とは、「学校や教育システムがすべての生徒に平等な学習の機会を提供し、生徒の成績の差は、経歴や自分自身でコントロールできない経済的、社会的な環境とは無関係」であることを指します。
報告書によると、2015年のOECD生徒学習到達度調査(PISA)に参加したすべての国と経済において、社会経済的状況が、理科、読み、数学における生徒の学業成績に大きな影響を与えることがわかりました。例えば、不利な条件の生徒の理科の平均点は、有利な条件の生徒より88ポイントも低く、この差は、およそ丸3年間分の学校教育に相当します。
比較可能なデータのあるOECD12カ国の平均をみると、10歳の段階(国際数学・理科教育調査:TIMSS)で、社会経済的条件の有利・不利は数学の点数にかなり影響しています(差を標準化した値は0.41)。しかもその差は15歳(PISA)では0.58、25歳から29歳(国際成人力調査:PIAAC)では0.64と広がっていきます。つまり、25歳から29歳までに見られる到達度の差の3分の2 は、すでに10歳の段階で見られるのです。
また、5カ国の個々の生徒の時系列データによると、PISAにおける生徒の成績は、大学進学や就職など成人早期における成果に強い相関関係がありました。これによって、義務教育中に、社会経済的状態に関する差を減らすことが、教育の流動性を向上させることがわかります。
報告書は、国が、恵まれない子供たちを支援する政策(特に幼児教育など)を作り、強化することが、より平等な学習環境を生み出すことにつながるとしています。
この記事の原文はこちら(英語)
■□■□■□■□■□■□■□
2019.01.25
ドイツで2019年5月にベーシックインカムの試験運用開始
(Basic Income European Networkより)
ドイツでは、2019年5月からベーシックインカムの試験運用が始まる予定です。ベーシックインカムとは資産や職の有無にかかわらず、すべての人を対象に定期的に無条件で支払われる給付金のことです。
今回の試験運用は、ドイツのヴッパータールにあるベルク大学のレイナー・ウィーランド教授が指揮をとり、行政やIT業界、通信業界、法曹界などの専門家らがボランティアで活動するサンクションフリー(Sanktionsfrei)という非営利組織と共同で行います。
現在ドイツで採用されているハルツIVと呼ばれる社会保障制度は、制度の目的である「職を得よう」という意欲を高めるのではなく、モチベーションを下げ制度に対する不信感を浸透させるだけだという声があります。ウィーランド教授は、現在のハルツIV制度とは異なる手法を取り、この実験を通して、ベーシックインカムが人々の精神的健康状態や生活管理力、社会政治的価値観の変化、および労働市場の動きなどに与える影響を調査することになっています。ベーシックインカムの試験運用はベルリンで3年間行われる予定です。
実験は、すでに失業保険などの給付金を受けている250人をランダムに抽出し、その人たちが仕事のオファーを断ったりトレーニングの受講を拒否するなど、何らかの事情で受給できていない金額があればすべて保障します。資金調達に関しては民間援助にのみ頼る予定で、選ばれた人たちは期間中ずっと、無条件に社会保障費を満額受けられることになります。
この記事の原文はこちら(英語)
■□■□■□■□■□■□■□
2019.01.28
徳島県の「エシカル条例」、世界に先駆けて施行
徳島県議会は2018年10月10日、「徳島県消費者市民社会の構築に関する条例」(通称エシカル消費条例)を可決し、同月24日に施行しました。こうした条例は、世界でも非常に珍しいものです。
本条例では、エシカル消費を「地域の活性化、雇用なども含む、人、社会及び環境に配慮した思いやりのある消費行動」と定義しています。
また、消費者市民社会の構築の基本理念として、
(1)消費行動と事業活動が社会・経済・環境に影響を及ぼしうることが自覚され、公正で持続可能な社会の実現の推進を旨として行われなければならないこと、
(2)人権の尊重や地球環境の保全、その他社会問題の解決に配慮した消費行動や事業活動により実現されなければならないことを定めています。
この理念の実現のため、徳島県は消費者教育や情報提供などの支援を行うほか、県が物品などの調達を行う際には、経済性だけではなく、地域の活性化や雇用などにも配慮するように務めることが、定められました。
なお、徳島県では、2017年度に地方では初となる消費者・事業者・行政一体となったエシカル消費の推進母体「とくしまエシカル消費推進会議」を設置するなど、エシカル消費を推進する政策を以前から進めています。
(新津 尚子)
関連リンク
この条例について詳しくはこちら
■□■□■□■□■□■□■□
2019.01.31
ファッション・スワップ(洋服交換会)を成功させるコツ
(シェアラブルより)
ファッション業界は世界でも最も環境負荷の高い業界の1つ。地球が直面しているリスクを考えれば、持続可能でない形で生産されたものであればとりわけ、新しい洋服やアクセサリーを買うことは、さらに汚染レベルを上げてしまいます。
でも、ファッションは、多くの人々にとって、楽しみであり、創造性が発揮できる場でもあります。また、体形や仕事、生活スタイルが変われば、よりフィットした洋服が必要になります。
そこでお勧めするのがファッション・スワップ(洋服交換会)。従来の買い物に替わる素晴らしい方法です。
ファッション・スワップは、クローゼットをすっきりさせ、倹約でき、全く新しいワードローブを得ながら、廃棄物と汚染を最小限にするものです。
ファッション・スワップを開く際のコツをいくつかご紹介しましょう。
・開く時期は、春や秋の始まりといった季節の変わり目がよいでしょう。
・自宅の広さに対し、適切な人数を招待しましょう(リビング・ルームでの交換会なら、一般的に8人から15人)。あらかじめ招待状を送り、2、3日前にはリマインダーを。
・参加客には、最低でも何品か、できるだけたくさんの品物を持ってきてもらいましょう。
・あなた自身はまとめ役にまわり、基本原則を設定しましょう。適切な計画や明確なガイドラインがあれば、交換会を長く続けることができます。
・残ったものはすべて集め、余った洋服やアクセサリーを受け入れてくれる非営利団体を選びましょう。
・交換会は、友人や隣人、地域の人々をつなぐ優れた方法です。交換会の開催を皆に勧めましょう。
※この記事は2018年11月にShareableに掲載されたPaige Wolf氏の記事(8 tips on hosting a successful clothing swap)の要約です。
この記事の原文はこちら(英語)
参考:ファッション・スワップという新しい動き(日本語)
https://www.japanfs.org/ja/news/archives/news_id028922.html
■□■□■□■□■□■□■□
2019.02.03
多様な食料を摂取することの大切さ
(英国王立芸術・製造・商業振興協会より)
私たちは口にする食料の75%以上をたった12種の植物と5種の動物に頼っています。農家の人々は収穫量を増やすために在来種の牛や穀物を捨て、遺伝子的に単一のものを育ててきました。農業における多様性の消失に伴い、生態系の多様性に依存する他の未収穫の動植物も消失します。
例えば、現在先進国で消費されるバナナのほとんどは、180年前に栽培されたキャベンディッシュ・バナナという単一のクローンから作られています。この遺伝的均一性がバナナを、収穫量の減少につながる植物病の危険にさらします。さらに、遺伝的多様性の欠如は食料の安全保障を損ねるだけではなく、人々の健康にも良くありません。世界で3人に1人は微量栄養素欠乏症であり、重要なビタミンや栄養素が不足しているのです。
また、腸内細菌の多様性の欠如と肥満や2型糖尿病などの病気との関連性も証明されています。腸内細菌のしくみは複雑ですが、その健全性は多様な食べ物の摂取と強く結びついています。近年、都市化に伴い利便性や加工食品への需要が高まり、人々の食事は穀物類や油脂類に偏りました。
現在、生物種の絶滅は自然な絶滅の割合の1,000~10,000倍に上ると推定されています。多くの土地が農業に使用されていることから農業のやり方は、生物多様性を維持し、人類がプラネタリー・バウンダリーの範囲内で生活する力に大きな影響を与えます。今、重要なのは人間の健康と地球の健康を同等に重視するフードシステムに向かう方法を考えることです。
この記事の原文はこちら(英語)
■□■□■□■□■□■□■□
2019.02.06
児童労働の現実を描いた映画 the Price of Free、世界同時無料公開中
現在、世界では1億5000万人の子どもたちが児童労働に従事しています。発展途上国では、貧しい家庭の子どもたちが親元を離れ、都市部の環境が悪い工場や農園で働いている現実があります。こうした子どもたちの労働によって生産された商品を、先進国に暮らす私達はそうとも知らずに買ったり食べたりしています。
※児童労働とは、15歳未満の子どもたちの労働や、18歳未満の子どもたちの危険で有害な労働のことを指します(国際労働機関(ILO)による定義)。
こうした状況を変えようと長年にわたり活動を続けているのが、ノーベル平和賞受賞者のカイラシュ・サティヤルティさんです。カイラシュさんは30年以上前から児童労働に苦しむインドの子どもたちの救出に取り組み、また保護した子どもたちのための教育プログラムや施設も整備しています。救出した子どもはこれまでに8万人以上にのぼります。
このカイラシュさんの活動を描いたドキュメンタリー映画 the Price of Freeが、現在YouTubeで世界同時無料公開されています。この映画では、インドの児童労働を取り巻く環境、カイラシュさんの救出活動の様子、そして施設での子どもたちの様子が描かれています。状況は厳しいものですが、「希望はある」「自分たちにも何かができる!」と感じさせる内容です。
無料公開期間は、2019年3月中旬までの予定(2019年1月現在の情報)。NPO法人のACE(※)によると、無料公開期間中に自主上映会を開催する団体・企業を探しているとのことです。
※NPO法人ACEについて
カイラシュ・サティヤルティさんの呼びかけにより、100カ国を超える国が参加した「児童労働に反対するグローバルマーチ」を日本でも実施することを目的に、1997年に学生5人で設立した日本生まれのNPO。児童労働をなくすことをめざし、子どもの教育や貧困家庭の自立支援を行うほか、国際社会や政府への政策提言や消費者への啓発活動などを行っています。
ACEのウェブサイト: http://acejapan.org/
(新津 尚子)
The Price of Free映画の視聴はこちら(日本語字幕を選ぶことができます)
The Price of Free自主上映会のお申し込みはこちらから(ACEのウェブサイト)
■□■□■□■□■□■□■□
2019.02.09
サーキュラリティ・ギャップ報告書2019年版:世界経済の循環率はわずか9%
(サークル・エコノミーより)
2019年1月22日、社会の「循環」を推進するオランダの社会的企業、サークル・エコノミーは、「サーキュラリティ・ギャップ報告書2019年版」を発表しました。この報告書は、世界経済を再生力のある豊かなものにすることを目指しており、昨年初めて発表され、今回が2回目となります。今回の報告書では、「世界経済は9%しか循環しておらず、サーキュラリティ・ギャップは埋められていない」ことが明らかにされています。
具体的には、「資源採取や温室効果ガス排出の増加傾向が継続し、直線的な経済のために我々は間違った方向に進んでいる」「『産業革命以前と比べた気温の上昇が1.5℃を超えないようにする』というパリ協定の目標の達成は、サーキュラー・エコノミーによってのみ可能となる」「資本設備は金属全体の半分を消費しており、デジタル技術の向上やスマートデザインで、新しい循環ビジネスの大きな可能性が生まれる」といった報告がされています。
報告書には、サーキュラリティ・ギャップを埋めるための行動指針として以下の4つのステップが挙げられています。
1.グローバル規模の潮流を国や地域、産業やビジネスのレベルに移行する
2.意思決定の方法や測定の枠組みを開発する
3.個人対個人の学びや知識の交換を促進する
4.多様で包括的なグローバル規模の連携を構築する
この報告書の本文はこちら(英語)
(参考)昨年(2018年)のサーキュラリティ・ギャップ報告書についてはこちら
(参考)幸せ研キーワード解説「サーキュラー・エコノミー(循環型経済)」
https://www.ishes.org/keywords/2018/kwd_id002547.html
■□■□■□■□■□■□■□
2019.02.12
世界が抱える最大の脅威は異常気象:「グローバルリスク報告書」発表
世界経済フォーラムは2019年1月15日、ダボスで開催された年次総会に合わせて、2019年版「グローバルリスク報告書」を発表しました。
本報告書では経済、地政学、環境、社会、テクノロジーの五つの分野でリスクを洗い出し、順位づけをしています。2019年版では発生する可能性が高いリスクとして、1位が「異常気象」、2位が「気候変動の緩和と適応への失敗」、3位が「自然災害」、4位が「データの不正利用または盗難」、5位が「サイバー攻撃」となりました。前年版に引き続き、上位5位に環境のリスクが三つ入っていることから、依然として環境対策が重要な鍵であることがうかがえます。
今回、重視する差し迫った懸念事項は以下の通り。
経済成長の停滞や世界の債務残高の増大などがマクロ経済のリスク要因となっている。大国間の緊張が高まっているため、環境保護や第4次産業革命にともなう倫理的課題などの世界的な難問解決に向けて、世界が協調して行動することがより難しくなっている。環境政策の欠陥がますます懸念され、対策を怠った結果があきらかになりつつある。テクノロジーの脆弱性によるリスクとして、フェイクニュースやアイデンティティ盗難、企業や政府によるプライバシーの損失を心配する意見が多かった。社会の複雑な変化が人々の生活に深く影響し、多くが不安や不幸、孤独を感じている。心の健康問題を抱える人が世界で7億人いると見込まれる。
(ささ とも)
2019年版「グローバルリスク報告書」はこちら(英語)
■□■□■□■□■□■□■□
2019.02.15
増加する企業の社会的投資 社会的インパクト測定のトレンドも明らかに
(CECPより)
米国に本拠地をおき、ビジネスを通したよりよい社会の創造を目指すCECP(The CEO Force For Good)は、2018年11月、非営利の調査機関コンファレンスボードとともに、『Giving in Numbers 2018 Edition(仮訳:2018年版 数字で見る社会貢献)』を発表しました。2018年版の報告書では、世界の約250の社会的投資と従業員の社会的貢献を分析しています。
報告書によると、2015年から2017年の3年間に、比較可能な207社のうち56%で社会的投資額が増加しています。各社の社会的投資額も、この207社の中央値は2015年の2,160万ドルから2017年の2,470万ドルへと、約15%増加しています。これらのお金は、教育プログラムや医療プログラム、そしてコミュニティと経済の発展のために多く使われています。
従業員の参加については、対象企業の93%に従業員のためのボランティアプログラムがあり、有給のボランティア休暇制度を設けている企業も65%ありました。
また、こうした投資の社会的インパクトを測定する企業も増加しています。2017年には252社中89%の企業が、少なくとも1つの助成事業に関して、アウトプット(産出)やアウトカム(成果)を測定していました。ただし、すべての助成事業についてアウトプットやアウトカムを評価している企業は20%ほどに過ぎませんでした。
※アウトプットとアウトカムは「変化の理論(セオリーオブチェンジ)」で使われる用語です。変化の理論では、事業などがその目的を達成するまでのプロセスを「投入(インプット)→活動(アクティビティ) → 産出(アウトプット)→成果(アウトカム)」という流れでよく表現します。
(新津 尚子)
この記事の原文はこちら(英語)
■□■□■□■□■□■□■□
2019.02.26
オックスファム報告書、『公共の利益か?個人の富か?』
(オックスファムより)
オックスファムは2019年1月、『公共の利益か?個人の富か?』と題する報告書を発表しました。現在、巨額の報酬が最も豊かな少数の人々に流れる一方で、何億人もの人々が極貧生活を強いられるというように、世界の経済は崩壊しています。報告書では、すべての人々への保険医療、教育、その他の公共サービスを提供することが、富者と貧者、男性と女性の格差の是正につながり、そのために、最も豊かな人々への正当な課税が、こうした公共サービスへの財政支出に役立つとしています。
世界で最も豊かな人々の数は金融危機以来2倍になり、その富は1日に25億ドルずつ増えています。しかし、ここ何十年、最富裕層や大企業への課税率は、その所有財産に対して低くなっています。また、個別の民間サービスは貧者に厳しく、富者に特権を与え、とりわけ女性は不利益を被っています。
こうした不平等な経済を転換するために、各国政府は、持続可能な開発目標10「人や国の不平等を無くそう」の一環として、具体的で期限を定めた目標と行動計画を設定すべきとしています。
また、こうした行動計画には次の3つの領域での行動を入れるべきとしています。1.女性と女子を含めた万人のための無料医療、教育、その他の公共サービスを提供する。2.家族や家を守るために毎日費やしている何百時間もの無償の労働を緩和して、女性の時間を開放する。3.最富裕層や大企業への不十分な課税をやめ、正当な割合で課税する。
この記事の原文を読む(英語)
https://oxfamilibrary.openrepository.com/bitstream/handle/10546/620599/bp-public-good-or-private-wealth-210119-en.pdf