昨日の日経新聞に、欧州の熱波の状況と、それへの各国の対応がいくつか紹介されていました。原発の原子炉の停止、外で作業する公務員の業務取りやめ、山火事を防ぐため、森林近くでの喫煙やたき火の禁止、線路が高温でゆがむ可能性があるため、運行会社が速度を落として列車を走らせるといった対応です。
そこに並んで紹介されていた、「フランス政府は気温が上昇する午後1~6時の動物の輸送を禁止」という一文に、私ははっとしました。
記事ではその直前に「暑さで死亡する家畜も増える可能性が高い」とありますので、多くの人は家畜の死亡による経済損失を避けるためだろう、と思ったことでしょう。
たしかにそういう側面も強いでしょう。でもそれだけではなくど、「高温の中、輸送される動物の苦痛を減らす」という、アニマルウェルフェアの側面もあるのだと思います。
昨年夏に出版した岩波ブックレット『アニマルウェルフェアとは何か』の第4章には、「輸送におけるアニマルウェルフェア対応」についても紹介しています。執筆当時、日本には、家畜の輸送についての法的な規定やガイドラインが存在していませんでした(畜産技術協会が検討中とのことでしたので、どうなったか確認してみます)。
ブックレットから引用しましょう。
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肉用の家畜は、輸送中にエサや水を与えないと肉質が固くなるといった生産者にとっての問題が生じるため、給餌や給水、運ばれ方への配慮があるが、採卵鶏は異なる扱いを受ける傾向がある。
アニマルライツセンターの岡川代表理事は、「採卵鶏は、その役割を終えて屠畜される際も、コンテナにぎゅうぎゅうに押し込められて、屠場に連れて行かれ、殺されるまでの間、水もエサも与えられないのが現状です」と述べている。
~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~
ブックレットにも書きましたが、私が東京都市大学にいたとき、ゼミで食肉や卵を扱う48社の日本企業を対象にアンケート調査を行いました。輸送における配慮についても尋ねましたが、配慮していたとしても経済的な理由が多く、アニマルウェルフェアの観点は強くはありませんでした。
世界ではどうなのでしょう?
アニマルウェルフェア先進国である英国は、「65kmまで」「65km以上の距離で8時間未満」「8時間以上」と、輸送の距離と時間に応じて細かい決まりを設けています。
もっとも長い8時間以上の時間をかけて輸送する場合は、車とコンテナの証明書、家畜を載せた車の動きを追跡・記録できる手続き、緊急事態が発生した際の対処マニュアル、運転手と助手の能力についての証明書などを有している必要があります。そして、65km以上の輸送を行う運転手とアシスタントは、講習を受けた上で、資格を取ることが求められています。
EUのガイドブックでも、たとえば採卵鶏の箇所で、輸送時の温度ストレスにも言及されています。
日本と世界のアニマルウェルフェアの現状、ぜひブックレットをご覧いただき、知っていただけたらと思います。
『アニマルウェルフェアとは何か――倫理的消費と食の安全』(626円)(枝廣 淳子/岩波ブックレット)
日本もいよいよ各地で梅雨明けですね!
今年も異常高温の夏がやって来る可能性があります。私たち人間も十分に気をつけて、熱中症などにならないようにしなくてはなりませんが、同時に、この炎天下で飼育・輸送されている家畜たちのことにも、ちょっとでも思いを馳せてもらえたらと思います。