最初に少しCMです。
幸せ経済社会研究所では毎月1回、読書会形式の勉強会を開催しています。今月は、『ドーナツ経済が世界を救う』を取り上げます。
「ドーナツ経済」って? どうやったらドーナツ屋さんが儲かるか?という本ではありませんよー(^^; 著者のケイト・ラワースが提唱している Doughnut Economyはしばらく前から国際会議や海外ネットワークでは頻繁に使われている考え方です。
私たち人類は、貧困を克服して豊かにならなくてはならないけど、同時に、地球の限界を超えてもいけない。その2つの「超えてはならない」境界線に挟まされた、ドーナツの中身の範囲でじょうずに経済を運営していかなくてはならない、というものです。環境問題と社会問題を同時に解決する経済――SDGsに関心のある方にとっての"必読書"です。
数年前のバラトン合宿にケイトが参加し、この議論をしてから、日本にも紹介したいと思っていました。日本ではほとんど知られていないので......。ようやく著書が日本語で読めるようになりましたので、幸せ研の読書会でも取り上げます。しっかりした理論とデータに裏付けられ、具体的な対策も提示されている「ドーナツ経済」について学び、一緒に考えてみましょう!
8月30日(金)18:30~21:00(開場18:15)
お申し込みはこちらから。
さて、NHK地域づくりアーカイブスは、これまでNHKの様々な番組で放送された「全国の地域づくり先進地の映像」が集められているウェブサイトです。
https://www.nhk.or.jp/chiiki/about/
「地域づくりナビ」には、くらしやすい地域をつくるヒントがたくさんあって、テーマで検索することもできます。自治体のみなさん、地域で活動されている方々には参考になる事例の宝庫ではないかと思います。
https://www.nhk.or.jp/chiiki/closeup/
その中に開設されている、地域づくりに取り組む人々の活動などを紹介する「地域づくり情報局」のコーナーで、インタビューしていただきました。『自分たちの手で地域経済をデザインしよう』と題したインタビュイー記事、よろしければ、ぜひご覧ください。
(前半) https://www.nhk.or.jp/chiiki-blog/900/399999.html
(後半) https://www.nhk.or.jp/chiiki-blog/900/406059.html
ご快諾を得て、前後編あわせて共有させていただきます。(参考動画へのリンクが張ってあるので、ぜひ上記URLからウェブサイトでご覧ください)
~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~
自分たちの手で地域経済をデザインしよう
枝廣淳子さんインタビュー
持続可能な未来に向けて、新しい経済や社会のあり方などを研究している、大学院大学至善館教授で、幸せ経済社会研究所所長の枝廣淳子さん。「未来は、地域にしかない」と信じているという枝廣さんに、話を聞きました。
―― 著書『地域経済を創りなおす――分析・診断・対策』(岩波新書)で、地域経済の現状を「漏れバケツ」にたとえておられます。
地域が自分の足で立てるようになるためには、それぞれの経済がしっかり回ることが不可欠だと思います。そこで暮らしを成り立たせるためには、「東京からの交付金や補助金で何とかすればいいや」ではなく、それぞれの地域が自分たちで手綱を握って経済を回していくことが必要です。
それぞれの地域経済をひとつのバケツと考えてみてください。これまでは、補助金をひっぱってきたり、企業を誘致したり、観光客に来てもらったりと、地域経済というバケツの中に水を注ぐように、いかにお金を入れるかをみんないっしょうけんめいやってきたと思います。
それはそれで大事です。ただ問題は、一回入ったお金が、ほとんどの場合、すぐに外に出て行ってしまうということです。これが「漏れ穴」ということです。それはすごくもったいない。入ったお金が地域の中で何人もの手を渡って何度も回る。そういう循環を作ることができれば、同じお金でも作りだす富は大きく違ってきます。
たとえば、補助金で建物を建てることを考えてみましょう。その工事を外の市や町の建設会社が受注すると、お金はすぐに出て行ってしまいます。これを地元の工務店にすると、お金は地元に入ります。さらにその工務店が輸入木材ではなく地域の木材を使うことにすれば、工務店に入ったお金は製材会社に入り、その製材会社が地域の中で木材を集めれば、お金は森林所有者のところに入ります。こうして一回入ったお金が地域の中で何バウンドもすることで、地域の中で富を作り出すことができます。
これを乗数効果といいます。わかりやすく数字で説明しましょう。2つの町に同じ1万円が入るとして、A町の人たちは地域経済のことをまったく考えていないので、隣町のショッピングモールが安いから買い物に行く、あるいは便利だからインターネットで買うという行動をとります。そのため、例えば1万円のうち2割の2000円しか地域に残らないとします。残った2000円を受け取った人も、そのうちの2割しか地域で使わないとすると、そのうち400円しか残らない。こうやって計算していくと、町に入った1万円は約12,500円の価値しか生み出しません。
一方、B町では、役所や事業者、住民みんなも、できたら地域のものを買おうと思っているので、8割が地域の中に残るとします。すると1万円のうち地域に残る8000円から、そのまた8割の6400円が残る......とこうやって足していくと、最終的に1万円が約5万円の価値をつくりだすことになります。
1万円をもってくる大変さはA町でもB町でも同じですが、そのお金が12,500円で外に行ってしまうのか、それとも5万円つくりだすのか。それによって地域の豊かさは大きく変わってくるんです。今後お金を外からひっぱってくるのはますます難しくなっていくので、一回入ったお金を地域の中で滞留させ、いろんな人の手を渡り歩いて循環する仕組みをつくっていくことが大事だと思います。
―― 「漏れ穴」をふさぐことは、雇用創出や移住による人口増加にもつながるでしょうか?
地方から東京に出てきている若い人たちと話をすると、本当は地元に残りたいけれど仕事がないんだと言います。地域にお金が残るということは、必要とされる仕事がある、つまり雇用が発生するということです。そうすれば、地元の若者たちがそもそも外に出て行かなくて済むかもしれないし、UターンIターンで入ってくるかもしれません。
もちろん、転入が増えても亡くなる人が多ければ人口そのものは自然減になりますが、社会増をして転入が多い地域にこそ可能性があります。地方に移住する若い人たちは、単に仕事があるかどうかだけでなく、面白いところ、生き生きしているところ、動きがあるところに惹きつけられています。
たとえば、持続可能な地域社会総合研究所の藤山浩さんが指摘しておられることですが、島根県では1世帯あたり年間3万円パンを買っているので、300世帯の地域の中にパン屋さんがなければ、年間1000万円のお金が外に出ているということになります。逆に、地域の中で1000万の売り上げが立つとわかっていれば、そこに移住してパン屋さんを起業することも考えやすくなるわけです。
―― 地域経済の大きな「漏れ穴」としてエネルギーを挙げておられますね。
ほとんどの自治体でエネルギーは最大の穴になっていると思います。エネルギーは人びとの暮らしにも産業にもなくてはならないものですが、現状はほとんど輸入の化石燃料に頼っているので、地域の中で再生可能エネルギーを作らない限り、外にどんどんお金が流れ出していくことになります。
わたしがお手伝いしている北海道の下川町では、電力や暖房・給湯などの熱もあわせて、約13億円の規模のエネルギー需要があります。石油や石炭を使うと、そのお金がすべて町の外に出ていってしまうことになります。それを町の中で作るバイオマスに替える取り組みを進めています。現在、少なくても3億円分の燃料費が域外に流出せずに、域内に残るようになりました。それだけのお金が、もともと林業をしていた人たちの雇用や地元の再エネ関連のエネルギー業者に回るようになったということです。
地域ごとに「漏れ穴」はたくさんあるので、まずできるだけ大きい穴からふさいでいくことが大事です。もちろん「穴をふさぐ」といっても、100%自給自足を目指しているわけではありません。規模の小さい町で機械や自動車を自分たちで作るのは無理ですから、外から買ったほうがいいもの、買わざるを得ないものは当然あります。しかし現在はあまりにも外に頼りすぎているので、自分たちで作れるものは自分たちで作って、もう少しコントロールを取り戻そうよということです。下川ではエネルギーだけでなく食べ物も、できるだけ地域の中で作ったものを地域で食べるようにしていこうとしています。
―― 地産地消の給食もその方法になりますか。
給食には毎日かなりの量の食材を使うので、その材料を地産地消に替えていくことは経済面でも大きな意味があります。もっとも、地元だけで大量の材料をそろえることは難しいので、上手に調整役が入っているところではうまくいっています。
何よりも、顔の見える関係で作られたものをいただくという食育の意味は大きいですね。さらに子どもたち自身が野菜作りなどに関わることで、食べ物の生産は人間の思う通りにならない、自然のリズムに左右されることを学ぶ機会にもなります。そういう揺らぎの中で人間が生きてきたし、生きていることを学ぶのは大事なことですね。
―― 地域経済のコントロールを取り戻すことは地球環境とどのようにつながっていますか。
今までの経済は効率性だけを重視して分業を進めてきました。効率を上げるには、うちはこれだけ作っていればいい、あとは買えばいい、安ければ地球の裏側からでも持ってくればいい、というわけです。このやり方は、モノを大量に動かさなければならないため、非常に環境負荷がかかります。もちろん、分業によって生産性を上げたことで多くの人が貧困から脱してきたのも事実なので、グローバリゼーションをすべて否定する気はありません。しかしその行き過ぎが、格差の拡大や環境問題を引き起こしています。
さらにこれからは、温暖化の原因であるCO2の排出を抑えなくてはなりませんから、ガソリンなどの輸送コストが高くなると思います。そうするとモノの移動が高くつくようになるので、これまでのように国際分業が最大効率だとは言えなくなってきます。温暖化防止のためのパリ協定の枠組で、排出できるCO2の量が決まってくるからです。しかも電力は比較的、化石燃料から再生可能エネルギーに転換しやすいのですが、トラックや船舶、飛行機などの燃料は、転換はなかなか困難です。お金やアイデアはインターネットで一瞬のうちに無料で遠くまで飛ばすことができますが、モノを運ぶことはそうはいきません。少なくとも次の50年ほどは、モノの移動が高くつくようになるので、今までのようにクリックひとつで安く買って配達してもらえばいい、とはいかなくなるだろうと思います。
環境負荷を考えずに大量にモノを動かすのではなく、それぞれの地域で必要なものを作っていくというやり方が主流になっていけば、モノの移動が減るだけではなく、おそらく消費量も減っていくと思います。今までは分業だということで、誰が買ってくれるかわからないものを大量に作っていたのが、自分たちがほんとうに必要だと思うものを作ればいいということになるからです。たとえばファッション業界でも、今作られているものの半分は廃棄されています。顔の見える関係の中で、大事にモノを作って大事に使う。それは地球環境にとっても良いことですね。
―― 再生エネルギー開発についても「地域の、地域による、地域のため」を提唱しておられます。
今、世界でも日本でも、温暖化対策として化石燃料から再生可能エネルギーの開発に力を入れています。しかし日本では、多くの場合、東京などの大企業が地域に入ってきて、ソーラーパネルを立てる土地代だけを地元に払い、売電利益はみんな東京に持っていってしまいます。これを「植民地型の再生可能エネルギー開発」だと言う人もいます。そうではなく、地元に吹く風、地元に照る太陽、地元に流れる川の水を、地元の人たちが活用してエネルギーを作り、自分たちでも使い、売電もするというやり方をすれば、その利益は地元を潤します。それが「地域の、地域による、地域のための再エネ開発」です。
岐阜県の石徹白町はそのいい例です。豊かな水を生かして、小水力発電を作る取り組みをしています。実は、以前から地元の人たちが使っていた農業用水を使って、もっと大きく水力発電をやりたいという申し入れが県の方からあったそうなのですが、話を聞いてみると、県が費用を全額出すので利益もほぼ全部もっていくという提案だった。そこで石徹白の人たちは、「じゃあ自分たちでリスクを負ってやろう」と、お金を出し合って水力発電を作ることになったそうです。
―― エネルギー開発のための資金も地域の中で集めたわけですね。
地域で何かをやろうとするとき、必要な資金を東京の会社や個人が投資すると、その利益の多くは東京に持っていかれてしまいます。そうではなく、地元で地元のために投資をしましょうという動きが今、世界的に広がっています。これを「ローカル・インベストメント」と呼んでいます。多くの日本人は「投資はお金を増やすため」と思っていますが、それだけではなく、自分たちが作り出したい未来のための投資というものもあるんです。
石徹白では、地域を1軒1軒回って、説明してお金を集めたそうです。そこにも地域の歴史と伝統があります。江戸時代、川から遠かった自分たちの集落に手掘りで水を引いてくれた人がいたから、今、農業ができている。では自分たちは次の世代に何を残すんだろう、というときに、やっぱりエネルギーだろうと。そういう地域の歴史と伝統の上に説得がなされ、納得して投資された方が多かったんだろうと思います。
「このプロジェクトを応援したい」と地域のみんながお金を少しずつ出し合って応援する。または、全国に散らばっているその地域出身の人たちのネットワークで、クラウドファンディングもできます。金融機関から融資を受けるにしても、東京本社の大きい銀行ではなく、地銀や信金など地域に根ざした金融機関の方が、地元のお金の回りという点ではいいですね。そうやって、できるだけ地元の中でやりとりをすることで、いろんなつながりができるほど地域が豊かになると思います。
また、ふつうはお金を出した出資者で利益を分けるんですが、石徹白では利益を分けずに町の未来のために投資しようと、組合を作って農業開発や加工品開発をしています。たとえば、とても甘くて美味しいトウモロコシを作って、それを水力発電でドライ加工してお土産にする。また、取材に来る人たちが増えたので、お客が来るときだけカフェを開いて、地元の女性たちが加工場で作った製品や山菜を出す。エネルギーだけだと女性はなかなか参加しにくいんですが、食に結びつけたことで、男性も女性も関わっています。地域にある資源でみんなの幸せを作ろうということが、結果的に地域経済を回すことになっている例ですね。
―― 地域経済の手綱を自分たちで握るということですね
これまでは地域経済を自分たちで設計する、そういうことを考えてみること自体、よほどの専門家以外はしてこなかったと思います。今のグローバルな経済のかたちが当然だと考えてきた。でもそうじゃない、地域経済のかたちは変えてもいいし、変えられるんだ。そう考える力をひとりひとりがもつことが大事です。
その力とは、「今日の買い物をどうしよう」と考えることでもあるし、大型店が地域に来るとなったら、それがいいかどうかを自分たちで考えて止めるということも含まれます。たとえばイギリスのトットネスという町では、いろんな地元のものがたくさんあることがいいとみんなが思っていた。たとえばコーヒーショップも、それぞれにユニークな地元出身のオーナーがいて、味も違う店がたくさんある。そのことがみんなすごく気に入っていたので、コーヒーのチェーン店が入ることになったとき、「自分たちがほしいのはそっちじゃない、これまでどおりの多様なひとつひとつのコーヒーショップなんだ」といって反対運動をして、チェーン店は入ってこられなくなりました。
チェーン店のコーヒーの方が安いだろうし、開店時間も長かったかもしれない。でも安さや利便性よりも、自分たちにとって何が大事なのか、何を守りたいのか、そのことをトットネスの人たちはずっと話し合ってきたんだと思うんです。これからは日本の地域にもそういう動きが出てくるだろうと思います。「安いかもしれないけど買わないよ。便利かもしれないけど頼まないよ。それよりもこっちの価値が大事なんだ」と。
経済学の中から行動経済学という新しい潮流が出てきたことは興味深い動きです。これまでの経済学では、人間はホモ・エコノミクスであり、当然安いものを買うはずだと決め付けて、伝統などが考慮される余地はありませんでした。でも人間の行動はそれほど簡単じゃないよという行動経済学が出てきて、少しは経済学も実世界に近づいてきたようです(参考:ケイト・ラワースさんインタビュー)。
だからこそ実世界はもうすこし先に行かないとならない。経済効率は基準のひとつであって、すべてではないですよね。都会の下働きのような地域経済ではなく、ほかの地域からのモノに頼るのでもなく、自分たち自身で地域経済の手綱を握って、これは外から入れよう、これは中で作ろうと、自分たちで決める。自分たちの経済を自分たちでデザインする動きが作れると面白いと思います。
前世紀は都市への集中が進んだ結果、さまざまな問題が起きてきた時代でした。都市で便利な生活を送り、たくさんお金を稼いでたくさんモノを持つことが幸せだと多くの人びとが信じてきました。でも今、ほんとうの幸せってなんだろう、という問い直しも広がっています。身を粉にして働いて、たくさん稼いでたくさん買うよりも、もっと地に足のついた暮らしをていねいにしていきたいという人たちが増えています。そういう幸せは地域が提供できるものです。21世紀の地球環境や社会のあり方、個人の幸せを考えたとき、地域がもういちど、人びとの暮らしの中心になっていかなければならないと強く思っています。
~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~
来週の読書会で取り上げるケイトへのインタビューもあります!
https://www.nhk.or.jp/chiiki-blog/900/368277.html
私は今年度、北海道・下川町、熊本県・南小国町、島根県・海士町の「町の経済を見える化し、漏れ穴をふさぐための打ち手を考える」お手伝いをしています。今年の3月16日「地域経済循環フォーラム」を開催し、この3町の方々をお招きして、外部依存度を減らし、循環する地域経済づくりの実際の取り組みを聞き、具体的な進め方や課題について考えました。
当日200人もの参加者の方々から「よかった!」「刺激を受けた」「具体的で参考になった」と好評をいただいたこのフォーラム、「当日参加できなかったけど内容を知りたい!」という声をいただき、資料をお送りするとともに、動画で当日のようすを見ていただける「動画受講」(1,000円・税込)をアップしています。産業連関表や地元経済の創りなおしにご関心のある方、よろしければぜひどうぞ~。
https://www.ishes.org/news/2019/inws_id002628.html