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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2019年09月10日

「地域みがき」が人を呼ぶ~小田切徳美先生の「田園回帰の本質」(2019.09.10)

新しいあり方へ
 

日本ではいまだに人口(とくに若者)の東京流入がつづき、地方では人口減少が続いています。人口の都市集中(都市化)は、世界の減少でもあり、課題でもあります。また、人口減少も、時間軸を延ばせば、日本だけではなく世界的な課題となってくると考えられています。です。

そのような思いで、世界に「持続可能な幸せ・経済・社会のあり方」を日本から発信している幸せ経済社会研究所のニュースレターで、明治大学農学部小田切徳美先生のご快諾を得て、先生のお書きになった内容を英語で世界に発信させていただきました。
https://www.ishes.org/cgi-bin/acmailer3/backnumber.cgi?id=20190725

このニュースレター記事の日本語版をお届けします。


~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~


「地域みがき」が人を呼ぶ~小田切徳美先生の「田園回帰の本質」

日本は急激な人口減少社会に突入しています。1,799ある市区町村のうち、約半分が、このままだと「2040年までに20~39歳の若年女性人口が半減する」可能性があり、「消滅可能性都市」という言葉が話題となりました。一方で、首都圏の高齢化も著しく、首都圏が地方を支えることも難しくなっていきます。

地域のあり方を考えるとき、「地域経済を取り戻すこと」が鍵になります。地域にある資源を地域の人たちが活かすことで、地域の人たちが必要とするものを作り、地域の中で経済とお金と雇用を循環していくことは、地域のレジリエンスと地域の人たちの安心感や幸せを創り出します。全国や世界とつながりつつも、エネルギーや食べ物、お金や雇用など、地域にとって不可欠なものは少しずつでも「自分たちの手に取り戻す」こと。これは今後あらゆる地域にとって考えるべき重要な方向性です。幸せ経済社会研究所所長の枝廣淳子は、実際にいくつかの地域で地域経済を取り戻すお手伝いをしています。

では、都市と地域とはどのような関係にあることが望ましいのでしょうか。日本では、都市の住民が農山村に移住する「田園回帰」への関心が高まっており、都市と農村が共生する社会の構築につながるものとして注目されています。「田園回帰」の本質は、都市と農村に限らず、広く都市と地域との関係に通じるものです。今月号のニュースレターでは、岩波ブックレット『田園回帰がひらく未来――農山村再生の最前線』から、田園回帰の本質とは何かを伝える、明治大学農学部小田切徳美教授による講演の内容を、要約してお伝えします。

岩波ブックレット『田園回帰がひらく未来――農山村再生の最前線』

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●田園回帰の実態と特徴
2015年5月に公表された『食料・農業・農村白書』の特集は「田園回帰」でした。この白書は閣議決定を経たものですので、「田園回帰」という言葉とその認識を政府が正式に認めたことを意味します。

2014年6月の世論調査の結果は、こうした傾向を裏づけています。特に男性の20歳代が、47%も「将来農山漁村に移住したい」と答えていることが目立ち、全般的に見ても、国民の農山漁村への移住願望が高くなっていることが確認できます。しかし、それ以上に注目すべきは、30歳代の女性の過半が、農山漁村で子どもを育てたいと答えている点です。実は、この世代の女性のリアリティが、田園回帰につながっているのではないかと予想されます。

実際、島根県のデータでは、2009〜14年の間に、県内227のエリアのうち、96エリアで、30代の女性人口が増えています。これが、田園回帰の実態です。また、そのお隣の鳥取県で移住者数の人口比トップの日南町では、年平均0.7%が移住をしてきます。日南町へのヒアリングによると、県内移動を含めれば、実態はその約3倍なので、既に人口の2%前後が移住しているのかもしれません。

藤山先生の著書『田園回帰1%戦略』では、「毎年、地域の人口の1%の若い世代が地域に戻ってくれば、10年後には高齢化率が下がり始め、人口の健全な状態を保つことができる」という理論が示されていますが、鳥取県内のいくつかの町村では既にその条件が満たされている可能性があります。

こうした移住者には、大きく5つの特徴があります。
1.20~30代が中心
2.女性の割合が顕著に上昇
3.多業化が進んでいる(複数の収入源)
4.地域おこし協力隊などの制度を積極的に利用
5.移住者の受け入れが地元出身者のUターンにつながる

移住者を迎え入れることで、地元の子どもが戻ってくる契機となる可能性が高まるという現実があるという点は、是非強調したいと思います。これは、地域にとって重要だと思います。

日本社会の変化を語るには、トレンドの量的把握が重要となります。毎日新聞と明治大学の私どもの研究室とで行った共同調査によると、2013年度の全国の移住者数は、市町村や県が直接にかかわり、把握した件数で、約8,000名(県内移動は含まず)、4年間で2.9倍です。もし次の4年間も3倍、さらに次の4年間も3倍となれば、数万人の規模になります。一極集中と言われる東京圏への純流入者数が年間2万人ですから、この数字は評価できる数字です。もちろん、このまま3倍、3倍となるとは思いませんが、そういう規模と傾向であることを確認したいと思います。

●田園回帰のハードル
当然のことながら、移住は容易なことではなく、いくつもの困難、ハードルがあります。その入り口において、しばしば言われる「3つのハードル」とは、「コミュニティ」「住宅」「仕事」。つまり「ムラはいつまでも閉鎖的だ」「空き家など絶対流動化するはずがない」「仕事がないから人など来ない」――いずれも行政職員の言葉ですが、このような課題があります。

しかし、これらのハードルは変化しつつあります。まず、若者たちの中には、農山村の濃密な「コミュニティ」を、「うっとうしいムラ」ではなく「温かいムラ」と認識する人が生まれています。「住宅」については、広島県三次市青河地区のように、住民主導で空きや対策に取り組み、空き家の流動化を実現する動きが始まっており、着目されます。そして、「仕事」では1つのフルタイムの仕事で暮らすという選択だけが、地域での行き方でなくなっている。多業化で仕事を確保する、新しい可能性が出てきています。

従来の「3つのハードル」は、確かにいまだにハードルですが、その困難はこのように徐々に減り始めています。しかし、一方で新たな課題も登場しており、今は、むしろこちらこそが問題です。

そのひとつは、移住者と地域の「マッチング」です。地域おこし協力隊の応募理由の回答の上位10項目は実に多様でかつ分散的です。地域社会も多様化していますから、多様化と多様化がぶつかり合って、現在の農山漁村移住には相互のミスマッチの可能性が高まっていると考えてよい。

新潟県十日町市では、集落と協力隊の双方がプレゼンテーションをして、お互いのマッチングを図っています。和歌山県那智勝浦町色川地区では、「移住体験」という、移住希望家族と地域の人々との出会いの機会を作り出しています。これらの取り組みを見ても「解決策は地域にあり」と感じますが、こうした工夫をすることが各地で求められています。

2つ目の新たな課題は、ライフステージに応じた支援です。1〜3年目を移住期、4〜9年目を定住期、10年以後を永住期、と分けるとすると、行政の関心は移住期段階に集中しすぎています。しかし移住者自身の強い関心は、定住期段階で仕事をどう起こしていくのか、永住期段階では子どもの教育費をいかに確保するかなどにあります。移住支援には、そういったラィフステージを意識した「家族目線」が必要です。

●田園回帰の本質
こうした課題があるものの、移住者が集中する地域もあります。その理由を教えてくれたのは、那智勝浦町色川地区の実践です。自らも移住者である地域リーダーの原和男さんは、次のように言います。

「若者が本当にその地域を好きになったら、仕事は自分で探し、作り出す。その地域にとって、まずは地域を磨き、魅力的にすることが重要だ。」

地域が今なすべきことは「地域みがき」ではないでしょうか。人口減少下でも、地域をみがき、人々が輝き、外の人を呼び込むだけではなく、地域の中の人が「ここに残る」と決める選択も含め、選択される地域を作るということです。たとえ人口は少なくても、「次の世代に支持される」ような地域の人々の前向きの営みが「田園回帰」を生むのではないでしょうか。そこには、「働き盛りの世代が輝く場」「高齢化世代が安心できる場」「子どもたちが戻ってくる場」、そして「地域の外にとってあこがれの場」という四つの地域みがきの課題があります。

このような地域みがきに呼応してIターンやUターンをする人々が、その地域に一層のみがきをかけることは、従来からも指摘されていました。つまり、田園回帰と地域みがきの好循環が生まれつつあるのです。「地域みがきなきところに田園回帰なし」「田園回帰なきところに地域みがきなし」という関係です。

こうした視点から、あらためて「田園回帰」とは何かを考えてみましょう。言うまでもなく、第1には、人口の逆流現象、都市部から農村部への逆流を示しています。そして、これは単なる人口の逆流ではなく、地域づくりとリンクするものです。その点で、第2に、田園回帰とは、農山村再生に今や欠かせない要素だと言えます。第3に、田園回帰は、そのような地域再生の問題にとどまらず、都市と農山村の共生も含意していると思います。そこでは、都市を含めた脱成長も意識されています。「都市も農村も成長を」ではなく、互いが支え合う持続的な社会の創造のための象徴的な動きとして、この田園回帰があるように思います。

2020年東京オリンピック・パラリンピックを契機に、世界都市・TOKYOを中心とする成長追求型都市社会を目指すのか、そうではなく、脱成長型の都市・農村共生社会を創造していくのか、私たちの社会は、大きな岐路に差し掛かっているように思えます。そのような岐路の中で、農山漁村に移住し、地域づくりにかかわり、そして都市と農村の共生に向かって、行動する若者を中心にした人々のムーブメントが田園回帰です。


~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~


「田園回帰」って、英語でどう表現するのでしょうね? もちろん、適切な英語表現は文脈によって異なりますが、今回のニュースレターでは「the Return to Rural Life」としました。すぐには難しいかもしれませんが、今も猛烈な勢いで農山漁村から都市への人口流入がつづいている途上国の人々の耳にもいずれ届くとよいなあと願っています。

 

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