今年も3月11日がやってきました。それぞれの思いや祈り、決意を新たにしていらっしゃる方もたくさんいらっしゃることと思います。
幸せ経済社会研究所から毎月世界に英語で発信しているニュースレターの日本語版をお送りします。
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東日本大震災から10年
先人からのメッセージを防災に活用
東日本大震災から今年で10年がたちました。多くの日本人にとって、毎年3月は、震災を振り返り、改めて防災について考える機会になっています。
日本は地理的な状況から、地震や台風などこれまで多くの自然災害に見舞われてきました。その教訓を生かして、堤防や盛土の整備、ハザードマップの作成など、さまざまな取り組みが行われています。こうした災害へのハード面の取り組み以外にも、災害に見舞われた時の様子や教訓を後世に残そうと、自然災害に関わる伝承が各地にあります。
●自然災害についての伝承
災害伝承をモニュメントにして伝える取り組みがあります。それは自然災害伝承碑です。先人たちは自分たちが経験した災害の被害状況を後世に伝えようと、碑として残してきました。
古いものでは、千葉県の一宮町に1694年(元禄7年)に建立された「延宝の津波供養塔」があります。これは1677年に発生した津波によって約150人が亡くなるなどの大きな被害を受けて、犠牲者の供養のために17年後に建てられたものです。
埼玉県加須市には1774年(安永3年)に建立された「寛保二年水難供養塔」があります。1742年(寛保2年)に起きた長雨や大雨で、約90メートルにわたって堤防が決壊して、利根川などの河川の水があふれました。この洪水で亡くなった多くの人を供養するために建てられたものです。日本の各地に、こういった伝承碑が数多く残されています。
また、自然災害に関わる言い伝えも残されています。東北の三陸地方には「津波てんでんこ」という言葉があります。これは「津波が起きたら、てんでばらばらに高いところに逃げて、まずは自分の命を守りなさい」という意味です。この地方は、昔から多くの津波被害に逢いました。津波の犠牲者をひとりでも多く減らしたいという思いがこの言葉に表れています。
●自然災害の伝承はこれからの防災の要
せっかく自然災害伝承碑や言い伝えがあっても、その貴重なメッセージが地元住民に忘れられてしまうことがあります。建立してから長い時間が経っていることや、昔に比べて人口の移動が激しいなどがその理由です。
広島県坂町では、2018年7月の西日本豪雨災害で、死者行方不明者18名、全半壊家屋が1250棟を超えるという甚大な被害を受けました。実はこの地区には、1907年(明治40年)に起きた大水害の被災状況を伝える石碑があるのですが、残念なことに、地域に暮らす人々にその伝承内容が十分に伝えられていなかったのです。
●自然災害伝承碑や言い伝えをどう活用するか
国土交通省国土地理院は、この広島県坂町での甚大な被害をきっかけに、2019年に自然災害伝承碑の地図記号を制定しました。また同年に自治体からの情報収集を開始し、国土地理院のウェブサイトにまとめています。サイトの地図に掲載されているアイコンをクリックすると、地形と伝承碑の詳細を読むことができ、どんな災害だったかイメージできるようになっています。
https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/denshouhi.html
2021年3月3日現在、861基のデータが掲載されています。ただ、全国には数千基もの自然災害伝承碑があると言われており、掲載は一部にとどまっています。その理由としては、多くの碑が古い時代に建てられたため、情報を提供する市町村の確認作業に時間がかかることや、国土地理院の取り組みが広く周知されていないことが考えられます。
また、総務省消防庁でも全国の災害伝承情報を取りまとめて、ウェブサイトで公開しています。
https://www.fdma.go.jp/publication/database/database009.html
掲載されている伝承の中には学術的な裏付けがないものもあります。しかし消防庁は、地元でどんな伝承が残っているのか知ってもらうことで、地域住民の防災意識を高めたり、防災教育として活用してもらえたらと期待しています。
大災害後に堤防や盛土といった対策が進んだことによって、「もう災害は起こらないだろう」と安心してしまうこともあります。しかし、堤防決壊という想定外の事象や、盛土があるという安心感から避難せずに被害にあってしまったという事例も多数あります。堤防や盛り土は、通常の大雨の被害は防げたとしても、「100年に一度」といった規模の大きな災害を防げるとは限らないのです。
堤防や盛土といったハード面での防災・減災対策とともに、ハザードマップの作成や自然災害伝承碑の活用、言い伝えの検証や防災訓練などのソフト面の防災・減災対策を行うことが重要です。このように一つの手段に頼らず、複数の手段を活用することは、レジリエンスを高めることにもつながります。
こういった伝承が実際に活用された例があります。岩手県宮古市姉吉地区では 、1896年(明治29年)と1933年(昭和8年)に大津波の被害を受けました。同地区には、当時村民のほとんどが犠牲になってしまった悲惨な状況を伝えつつ、「此処より下に家を建てるな」と記した自然災害伝承碑が建っています。住民はその言葉を守って、海抜の低い場所には家を建てていなかったため、東日本大震災時には1軒の住宅も被害に遭いませんでした。
●東日本大震災をきっかけに新しい自然災害伝承碑を建立
東日本大震災を機に、教訓を後世に伝えようと新たな碑が建てられています。国土地理院のサイトでは、東北を中心に60基を紹介しています。
その1つが宮城県本吉郡南三陸町の五十鈴神社にあります。津波が押し寄せた場所に記念碑が建てられており、碑には「未来の人へ 地震があったら、この地よりも高いところへ逃げること」と刻まれています。千葉県旭市でも、津波が到達した高さを示すモニュメントが設置されて、隣の碑には被害状況が記されています。
私たちは先人の教訓を大事に活用しながら、私たちの教訓も後世に残す必要があります。命をつないでいく、そんな思いが自然災害伝承碑や言い伝えには込められています。
出典:国土地理院ウェブサイト https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/denshouhi.html
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「大事なことだけど、忘れてしまう」ことはよくありますよね。忙しかったり、昔のことだったり、ほかに気を取られることがあったり......。「それでも忘れずにいる」ためには、努力とくふうが必要です。思い出させてくれるきっかけや合図である「リマインダー」は、その1つですね。
自然災害伝承碑や言い伝えという大事なリマインダーを各地域で伝え続けていけたらと思います。
国土地理院のサイトで、ぜひご自分のお住まいの近くを見てみてください。
https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/denshouhi.html
近くに見つかったら、何かのついでに寄ってみてくださいね。リマインドの回数や頻度が増えるたびに、その大事なことは私たちに定着してゆき、いざというときに、無意識のうちに私たちの考えや行動をリードしてくれるのだと思います。