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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2021年04月28日

ブルーカーボン・プロジェクト~地域から未来をつくる未来創造部の挑戦(2021.04.28)

新しいあり方へ
温暖化
 

気候変動対策として「2050年には脱炭素化」をめざすにあたって、中間地点の目標をどう打ち出すかが大事です。現在と近い分、利用可能な技術や資金など現実に引っ張られるところがありますが、一方、しっかりした目標にしておかないと、最終ゴールに到達できなくなってしまうからです。

日本の菅総理は、2030年度の温室効果ガス削減目標を「2013年度から46%削減し、さらに50%の高みに向け挑戦を続けていく」と宣言し、米国のバイデン大統領は、「2030年に2005年比で50~52%削減」という目標を公表し、英国は「2035年時点で排出する温暖化ガスを1990年比で78%削減」との目標を発表しました。

これらの目標は、「今後排出する量」に対する目標です。言ってみれば、バスダブに注ぐ水の量(インフロー)をこれぐらい絞っていきます、という目標ですね。2050年にはインフローは実質ゼロにすることになります。

バスタブの水があふれそうになっているとしたら、まずは蛇口を閉めることが肝要ですが、すでにバスタブの適正水位を超えているのだとしたら、蛇口を閉めたうえで、バスタブ内の水を排水しなくてはいけません。蛇口を閉めることで水位の上昇は止められますが、蛇口を閉めただけでは水位を下げることはできませんから。排水口を大きく開けば開くほど、つまり、バスタブ内から除去する水(アウトフロー)が増えるほど、水位は素早く安全領域にまで下がっていくことでしょう。

気候変動もバスタブと同じです。大気中にすでに蓄積されたCO2(ストック)が温暖化をもたらします。新たに大気中に排出するCO2(インフロー)を減らしゼロにするだけでなく、大気中からなくなるCO2(アウトフロー)を増やすことによって、CO2濃度を下げていくことができます。

大気中に排出されたCO2の寿命は数十年~数百年と言われています。自然にCO2が消滅しているのを待っていては、事態はどんどん悪化してしまうでしょう。そこで、「大気中のCO2をいかに除去するか」が大事なポイントの1つになっています。

「Direct Air Capture」と呼ばれる、空気中の低濃度CO2を直接回収する技術の開発・実用化も進められています。また、おなじみの「植林」も大気中のCO2を除去する大事な取り組みです。森林などが大気中から取り込むことで陸上生態系に貯留された炭素を「グリーンカーボン」と呼びます。

そして、昨今世界的に注目されるようになってきたのが、「ブルーカーボン」です。これは、海藻など海洋生態系によって取り込まれ、海域で貯留された炭素のことです。

海藻を育てることで藻場を再生し、漁業や海の生態系回復に役立てながら、CO2を吸収・固定化するブルーカーボン・プロジェクトを、熱海・未来創造部でも始めます!
https://mirai-sozo.work/

「ブルーカーボン・プロジェクト」も含め、未来創造部の取り組みを紹介する原稿を掲載します。どんな活動をしているか、しようとしているかお読みいただき、ご興味をもっていただけたら、ぜひ熱海に見に来ていただいたり、一緒に取り組んでいただけたら、と願っています。


~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~


地域から未来をつくる ~未来創造部の挑戦


私たちはいま、気候変動、海洋プラスチック汚染、資源の枯渇、地方経済の疲弊、人口減少や高齢化など、様々な問題に直面しています。そのような課題に対して、現実を変え、より良い未来を創り出していく必要があります。

変化は、必ずローカルに生じます。まちや地域を歩きながら、まちの人たちと話をしながら、地元の社会課題を"共発見"する。そして、グローバルな知恵や情報、技術、人などの助けを借りながら、その解決策を考え、実験・実施していく。地元と呼べる地域があるからこそ、ローカルに軸足を置きながらも、ローカルに閉ざすことなく、グローバルにつながって展開する「グローカル」な取り組みができるのだと思います。グローバルに活動するなかで強くなってきた私自身の実感です。

そのような思いとともに、「未来の子どもたちにきれいで楽しい地球を残したい」をミッションに掲げ、2020年9月、熱海の地に株式会社未来創造部(以下、未来創造部)を設立しました。今月号のニュースレターでは、未来創造部の「地域から未来をつくる」取り組みについてお伝えします。特に、海藻の養殖によってCO2を吸収するブルーカーボンプロジェクトを発展させた、ブルーエコノミー・プロジェクトについてご紹介します。

○未来創造部

熱海市は、東京から新幹線で40分、太平洋に面する人口3万6千人のまちです。坂が多くて平地は少なく、海と山が近接しており、海と山のつながりを体感できる場所でもあります。昔から観光地として知られ、近年は特に若い人々がたくさん遊びに来て、ビーチやマリーナ、海産物や温泉を楽しんでいます。

未来創造部は、そのビーチから徒歩1分、海の見える建物の1~3Fにあります。地元の商店街や町内会に加入して、地元の人々や事業者ともよい関係性を維持するよう努めています。1Fではカフェ、2~3Fでは主に企業や働く人向けのコワーキングスペースを運営しています。企業研修なども手がけ、事業収入で必要経費をまかないながら、社会企業として環境と社会と経済の持続可能性につながる事業をおこなっています。

未来創造部が大事にしている価値には、「ローカル」のほか、「ソーシャル」「エシカル」があり、社会的弱者や途上国、人間以外の生きとし生けるものも大事に考え、可能な場合には連携を図っています。具体的には、キャンドルナイトなどのイベントで、地元の福祉作業所が市内から回収・洗浄した使用済みのガラス瓶をキャンドルホルダーとして買い上げることで障がい者の仕事づくりにつなげるとともに、イベントで集めた寄付金を「国境なき医師団」や地元の福祉施設に寄付しています。トイレットペーパーは、障がい者と職員が共に働き、生活している、社会福祉法人共働学舎から購入しています。雑古紙100%、無漂白なので、体や地球環境に危険なダイオキシンの心配もありません。

1Fのカフェではフェアトレード商品やアニマルウェルフェアに対応した平飼い卵などを用いるとともに、そうした取り組みを店内に掲示し、人々にも知ってもらおうとしています。また、地元の町内会とイベントを実施することで、町内のさまざまな人々がつながるきっかけを提供しています。このように、地元コミュニティのつながりを強めておくことにより、災害時などの非常時にも、次第に高齢化が進んでいく平時においても、地域のレジリエンスを高めることができると考えています。地元で活動している方が集う場となり、地元を支援するとともに、2~3Fのコワーキングスペースに立ち寄る市外の方々との交流拠点、熱海と全国・世界をつなぐ場になればと願っています。

○未来創造部が進めるプロジェクト

未来創造部では現在、社会企業としての役割を果たすべく、以下のようなプロジェクトに取り組んでいます。

1.ブルーエコノミー・プロジェクト

熱海の海で海藻の養殖によってCO2を吸収するブルーカーボンプロジェクトに加え、藻場の再生による漁業支援、海藻によるマイクロプラスチック除去の実験、収穫した海藻のガスエネルギー化の実験、残渣からのリン回収による農業支援などに広がる分野横断的なプロジェクトです。世界でブルーエコノミー・プロジェクトを展開しているグンタ・パウリ氏やZERIジャパンと連携してプロジェクトを進めていきます。

2.プラキャッチプロジェクト

熱海港に注ぐ糸川河口にネットを張ることで、川から海に流れ込むプラスチックごみをキャッチ・回収・処理する取り組みです。プラスチックごみが陸地から海へ入らない対策を考え、実施しています。

3.「もったいないをカタチに」するプロジェクト

 熱海市の一人あたり・1日あたりのごみの量は現在、日本平均の2倍近くになっています。ごみを減らすことで、CO2も減らせますし、ごみ処理費用も減らし、市の財政にも役立ちます。私たちは「もったいないをカタチに」しながらごみを減らしていきたいと、1Fカフェでの情報提供や気づきのきっかけづくり、徳島県上勝町への視察報告勉強会や、自分はもう使わないけど、まだ使えるものを次に使ってくれる人につなぐ「くるくるフリーマーケット」を開催するなどの取り組みを進めています。

4.コロナ禍での地元経済維持・活性化プロジェクト

観光客に頼る熱海の地元経済をどのようにしてウイズコロナ時代にも維持・活性化していくか、商工会議所メンバーや地元の事業者と共に考え、実践していきます。

5.人口減少・高齢化社会におけるモビリティを考えるプロジェクト

熱海は高齢化率が高く、坂が多いため、高齢者の移動ニーズへの対応として、電動3輪トライクの実証実験を始め、トライク・シニアカー・電動車椅子のシェア、またはサブスクリプションの仕組みの構築を実現していきます。

6.地域の再エネ化プロジェクト

自給自足型の再エネにシフトしていくため、技術的・社会制度的・経済的なさまざまなハードルをどう乗り越えていけるかを考え、実験・実践していきます。

7.居場所と出番づくりと、場を通じての意識啓発

カフェやみんなが集えるスペースの運営を通じて、環境・社会問題や、アニマルウェルフェアなどのエシカル課題、幸福、経済・社会のあり方などについての情報発信や意識・行動変容の機会を創出します。


○ブルーエコノミー・プロジェクト

『ブルーエコノミー・プロジェクト』は、「藻場が消失して漁獲高が減ってしまった」という地元漁師の声を聞いたことから生まれました。磯焼けによる藻場の消滅により、貝類やエビ類などの漁獲量が激減して困っている地元漁業のお役に少しでも立ちたい、地元経済を支える一助となりたいと、海の藻場の再生に取り組もうと始めたものです。

このプロジェクトの特長は、「ひとつの問題にひとつの解決策」というアプローチではないことです。海の生態系の再生をしながら、それを気候変動やマイクロプラスチックの対策、地元経済の再生、地域コミュニティの活性化、山と海とのつながりの回復、そして何よりも「希望の再生」につなげることを目指しているのです。

多くの観光客が訪れるマリーナや親水公園の近くでプロジェクトを行うことで環境への取り組みを新たな観光資源として位置付け、地元経済の活性化につなげたいと考えています。地元の小中学生が参加する実地体験や、地元の高校との共同プロジェクトを実施すれば、環境教育にもなります。

海藻は陸上の植物より7~10倍生長が速いと言われ、それだけ多くのCO2を吸収します。その生長量を測定することでブルーカーボンの生成量を算定し、将来的にはブルーカーボン・クレジットの販売にもつなげたいと考えています。また、海藻がマイクロプラスチックを吸着するという研究結果も多く見られるようになっており、海藻を育てることで、少量であってもマイクロプラスチックの除去もできそうです。

収穫した海藻は、そのまま腐るとCO2が大気中に戻ってしまうため、炭化し、固定化したいと考えています。本プロジェクトは海藻を炭化する技術の実証実験も兼ねます。炭化した海藻は、石炭火力発電所で石炭の代わりに使えるかもしれません。炭をそのまま土中に埋めれば土壌改良材として機能しながらCO2を永久に固定できるため、土中への埋設も進めたいと思っています。

この着想は、私たちが熱海というリアルの場をフィールドに活動しつつ、国政レベルやグローバルなネットワークとつながっていることから得ています。未来創造部のメンバーのほか、地元の漁業組合や漁師さん、地元の海洋土木会社、県の水産試験場やマリンオープンイノベーション機構、ブルーカーボン・クレジットの算定に関わる企業などとすでに連携をしはじめています。各地の先進事例や、藻場再生や炭化などの技術の可能性を調査・検討し、今年中には海域を定めて、小規模な調査・試行をはじめたいと思っています。

○未来に向けて

『ブルーエコノミー・プロジェクト』プロジェクトが目指す、5年後の姿をご紹介しましょう。

さまざまな試行錯誤を経て、この海域に適した藻場の再生方法が確立しています。近隣の海域も含め、広く藻場の再生・海藻の生長が見られ、日本の他の地域への技術の共有も始まっています。藻場の再生が新たな観光資源として観光客を引きつけ、地元の小中学生も実地体験に参加し、地元の高校との共同プロジェクトも始まっています。

また、低コスト・小規模な炭化装置が完成しており、海藻のみならず、端材や樹皮などさまざまな未活用バイオマス資源も炭化し、大気中のCO2除去につながっています。それらの貢献をカーボンクレジット化することで、都市部の企業にも参画してもらいながら、プロジェクト費用の一端をまかなえるようになりつつあります。

未来創造部は、「ローカル」に軸足を置きながら「グローバル」につながる「グローカル」な取り組み、「研究・調査」に裏打ちされた「実践」活動を進めることで、「持続可能で幸せな社会と未来」を創る一助となりたいと考えています。企業や行政、他の地域にも実践的な社会課題発見・解決の場を提供することで、経験や学びを横展開し、各地での取り組みを推進していきます。


未来創造部の活動は、始まったばかりです。「グローカル」な取り組みが何を生み出していくのか、是非ご注目ください。そして、みなさんの知恵や知識をお借りしながら、より良い未来を共に創っていきたいと願っています。

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