今年も3月11日がやってきました。東日本大震災から11年。この11年の間にも、あちこちで災害が発生し、命を落とされた方や被災された方も多くおられます。地震などの災害に加えて、温暖化など人間の活動が主因・一因となる災害も増えつつあります。個人として、地域として、私たちはどのように備えておくべきなのでしょうか。
幸せ経済社会研究所から毎月世界に英語で発信しているニュースレターの日本語版をお送りします。
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被災地支援のスペシャリストに聞く 災害に備えた地域のネットワークづくり
2011年3月に発生した東日本大震災から、今月で11年が経ちました。現在も被災地域では地域の復興や再生、被災した方々の心のケアなど課題に取り組んでいます。また2021年7月に静岡県熱海市の伊豆山地区で、3日間異常な量の雨が降ったあと土砂災害が発生し、枝廣が代表を務める株式会社未来創造部で支援活動を続けていることを2月号でも報告しました。
ISHES Newsletter #43: Izusan Disaster Recovery Support in Atami, Japan: Seven Month Activity Report
この数カ月の間にもトンガ王国での海底火山大規模噴火や、ブラジルのリオデジャネイロで集中豪雨による地滑りと洪水など、世界各地で災害が発生しています。今号は伊豆山地区の土砂災害発災直後から現地に入り、災害支援活動をしてきた団体のひとつである、※一般社団法人OPEN JAPAN 肥田浩さんに、これまでの被災地支援の経験を踏まえて、平時でやっておくべきこと、自治体や企業、住民も災害に備えてどのようなネットワークを作っておくべきか、お話を伺いました。
※一般社団法人OPEN JAPAN
日本全国にネットワークを持つ団体、個人の集まり 現在、災害で車を無くした人々へ無料で車を貸し出す「カーシェアリング・プロジェクト」や、被災地に入って緊急支援を行う「緊急支援プロジェクト」を進行中
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○熱海のコミュニティは貴重な財産
熱海の伊豆山地区で土砂災害が発生した日、私は東北から九州へ車で向かう途中でしたが、災害情報を見て、すぐさま熱海に入りました。支援に入ってみて驚いたのは、熱海のみなさんは地域のつながりが強く、自発的に支援に動く人々がたくさんいたことです。これは熱海の大事な財産だと思います。今後もこういう人たちが活動しやすいように、チームを作っておくとよいと思います。
熱海に入って早い時期に、支援者側の情報共有会議を行いました。どんな人がどう動いているのか、お互いに会うことで状況が分かるところもあるので、災害が起きた時は支援者間での早期の情報共有が必要です。
○災害に備えるために平時の準備がカギ
こうした情報共有は、平時にどう連携を準備しておくかが決め手となります。2018年に内閣府防災担当は、「防災における行政のNPO・ボランティア等との連携・協働ガイドブック~三者連携を目指して~」を公表して、行政と社会福祉協議会、民間団体の三者で平時から連携を作っておくことを推奨しています。
http://www.bousai.go.jp/kyoiku/bousai-vol/pdf/h3004guidebook.pdf
例えば、大工や重機を扱える人は、災害時に協力してもらえるよう事前に登録してもらい、平時から災害時の作業について講習を受けてもらうと、いざというときに役に立ちます。普段重機に乗っている人は、安全策を取っている工事現場での作業には慣れています。しかし災害現場では安全策や設計の図面もなく、他の救助要員なども近くを歩いていますから、訓練なしで作業してもらうのは難しく、危険です。そのため事前から勉強会や講習会を開催しておくことです。
災害時の炊き出しをどうするのかも、平時に検討しておくことをお勧めします。どの施設を使って誰が炊き出しをするのか、もしくは仕出し業者に発注するのか、ノロウィルスや食中毒の問題も含めて考えておきましょう。
社員をボランティアセンターに派遣してくれる企業もあります。被災地にとって、人材を中長期間確保することは難しいので、個人のボランティア登録以外に、企業や生活協同組合と行政が災害協定を結んでおくと、災害時に必要な人材や物資の提供をお願いできます。
日本では、地域の防災計画は市町村が作成して、ハザードマップや避難情報を市民に提供しています。こうした行政からの情報だけでなく、地域住民が地域の中で災害に役立つもの、例えば井戸がある場所や重機が置いてあるところなど、細かい情報を行政と共有するなどして、住民と行政が一緒に災害の準備しておくとよいと思います。
また、避難所となる体育館や公民館は、通常1カ月か2カ月ぐらいの期間、行政の人たちによって運営されます。本来行政の仕事をしなくてはいけない人たちが避難所の運営に時間を取られるのを避けるために、地域の人たちが自分たちで避難所を運営できる仕組みを作っておくことも大切です。
2018年の北海道胆振東部地震の直後に被災地に入ったときは、全戸が停電、被災地から何百キロ離れたスーパーでも食べ物がすべて品切れ、ガソリンスタンドも長蛇の列でした。直接被災していなくても、停電になるだけで人々がパニックになる様子を見ると、地域コミュニティ単位で発電できるようにしておく必要があると思いました。
大きな災害が起きても、地域で食とエネルギーを確保できれば、外部からの支援が滞っても自立できます。都会では難しいかもしれませんが、そういう生活の仕方が、これからの災害対策として重要なのではないかと感じています。
個人でできる災害への備えとしては、まず、避難場所を確認しておくこと。実際には、いざ避難が必要になったときに避難場所を知らない人がかなりいるのです。あとは災害が起きた時、1週間ぐらい自活できるような備えをしておくことです。
ほかにも、平時にキャンプ生活を体験することもお勧めしています。2016年の熊本地震の時は、震災が直接の原因で亡くなる人より、車中に寝泊まりしてエコノミークラス症候群を発症するなど、災害後の避難生活の中で亡くなる人のほうが多かったと聞きました。特に子供たちはアウトドア生活を知ることで、生きる力をつけることができると思います。
○支援したい人と支援してほしい人をつなぐ「災害コーディネーター」という仕事
「災害コーディネーター」という言葉をご存じでしょうか。被災地で困っている人と助けたい人をつなぐコーディネーターのことです。
災害コーディネーターは被災地同士もつなぎます。2021年7月の熱海の災害の翌月、8月の豪雨災害で被災した佐賀県大町町にも私たちOPEN JAPANは支援に入りました。ここは2年前にも水害があり、自宅を修復したばかりでまた水害に遭ってしまった人がとても落胆している様子や、避難所にいるお年寄りが食事としてカップラーメンを食べているのを見ました。
そんな人たちが少しでも元気になればと、炊き出し用の干物を買いに熱海伊豆山の鮮魚店に買いにいきました。そこで大町町のことを話したところ、翌日市場で「佐賀県の被災者たちが食べ物に苦労しているらしい」と話してくれて、干物を200枚用意してくれました。大町町の住民の人たちは熱海でも大変な思いをしているのにうれしい、自分たちも復興に向けて頑張ろうという気持ちになり、熱海の人たちもお互い頑張りましょうと大町町へエールを送ることができてよかったです。
ただ日本では、災害コーディネーターで食べて行くことは難しい。人と会っての調整業務が多いので、外からは何をしているのか見えにくいし、このような仕事の認知度も低いので、プロフェッショナルな生業としてやっていくことが難しいのです。私も被災地支援は不安定な報酬で行っていますので、自分にとっても課題ですし、若い人たちがこういう支援活動をプロフェッショナルな仕事としてできる仕組みや制度を作っていかなければいけないと思います。
○災害に負けないコミュニティを作るために
災害が大規模化、広域化していく中で、自分たちの地域・コミュニティをどう守るかは重要な課題です。隣近所に誰が住んでいるか分からない地域と、熱海のようにお互いに家族構成まで知っているような地域とでは、明らかに後者のほうが被災時に住民を助けやすい。
普段から、地域のみんなで公園を掃除したり、避難訓練をして一緒に炊き出しをやってみるなど、つながりを持っておくことが大事ではないでしょうか。また高齢者のサポート方法も考えた上で、SNSを使っての災害時の連絡網を整備しておくこともよいかもしれません。
災害時には、高齢化などの平時からある社会問題が全部表面化します。平時から、自分の地域の行政は何をしているのか、議会は何を議論し、予算は何に使われているのか、そういったところを見ていくことがとても大事です。こうして普段から自分の地域を意識して生活していくことが、災害に強い町、コミュニティをつくるのだと思います。
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気候変動のもたらす悪影響によって、どの地域も被災地になってしまう可能性があります。災害への対応力を高めるためには、普段から多様な組織や人とつながりをつくり、災害時を想定して準備をしておくことです。ぜひ自分たちのコミュニティで準備できることは何か、考えてみましょう。
(了)