岸田総理が、原子力政策について「エネルギー安定供給の確保のために正面から取り組む」と表明し、既存原発の運転期間延長など、現行制度の見直しについて、年末までに結論を出す考えを示しています。
「年末までの結論」に向けて、エネルギー庁の総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会での議論が進んでいます。11月15日、第51回 基本政策分科会で4人のヒヤリングが行われ、私もそのうちの1人として、自分の意見を述べました。
また、その少し前、11月11日に開催された公明党の総合エネルギー対策本部・経済産業部会合同会議でも、2人を招聘してのヒヤリングが行われ、私も意見を述べてきました。
基本政策分科会の委員名簿、議事次第、提出資料はこちらからご覧になれます。
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2022/051/
私の資料はこちらです。
資料2 ヒアリング資料(大学院大学至善館 枝廣氏提出資料)(PDF形式:4,080KB)
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2022/051/051_005.pdf
また、この委員会はYoutubeで動画中継しており、その内容はこちらからご覧になれます。
https://www.youtube.com/watch?v=_We2ZAZHV94
ちなみに、私の意見表明は、スタートから40分ぐらいから。委員から私への質問は1時間28分ぐらいから。質問に対する私の回答は1時間49分ぐらいからです。
公明党でのヒヤリングでお話した自分の意見の内容をお伝えします。基本政策分科会での意見もほとんど同じです。
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エネルギー政策、特に原発政策は前のめりになっている状況だと思いますが、私のほうからは、本当にそれでいいんですか、足元をしっかりもう一度確認しましょうとお伝えしたい。私はずっと国民に近い立場で活動してきていますので、そういった思いや考えを少しお伝えしたいと思っています。
一言でまとめると、国民はきちんと説明もされず、きちんとした議論もできず、置いてきぼりにされていて、納得もできず、信頼もできず、恐らく何かやろうとしたときに、消極的な反対をする。今、そういった状況になっていると思っています。
まず大前提としては、もちろん皆さんも何度もおっしゃっていますが、今のいろいろな報道を見ていると、原発事故がなかったかのように、どんどん前のめりになっている。それに対して不安を感じている国民が多々おります。
原発の新増設や運転延長の話も出ていますが、廃棄物処理をきちんとやらないと進めることはできないのではないか。実際に、どういうふうに廃棄物を処理するかという議論もないまま、一方、再エネの拡大もなかなかできない。今、こういった状況で、電力が不足しているから原発を動かすしかないんだ、という論理で来られているように思っています。
ほかの国も原発回帰しているし、みたいな報道も多々ありますが。ほかの国の動きを見ていると、廃棄物処理についてきちんと、方向性なり場所が決まってはじめて、それとの抱き合わせで国民は原発を進めることを受け入れている。この資料はフランスの話ですが、そういった状況が他国でもあります。
日本の場合、ここを置いてきぼりにしたまま、「今、電気足りないんだから、原発でしょ」みたいな形で伝えられています。そこのところが大きな問題だと思います。4年前に、「エネルギー情勢懇談会」という委員会に私も参加させていただきました。これはそのとき、4年前の資料です。4年前と今と、私はまったく同じことを言っているのです。つまり、4年間、何も進んでいないのではないか。もっと言うと、福島原発事故から12年、進んでいないのではないかということを一番危惧しています。
これは当時の資料ですが、社会的な合意形成をやらないと、時間がかかるんだから、それをやってはじめてきちんと進められるでしょうという話をしています。しかし、実際に何も進んでいないと私は思っています。
もう1つ、地域の視点も重要です。私は地方創生にかかわっているのですが、原発だけではなくて、エネルギー政策全体で、「地域を殺すエネルギー政策」と、「地域を生かすエネルギー政策」があると思っています。が、今、再エネの旗振りの仕方を見ても、地域を殺すエネルギー政策の度合が強くなっている。これが、大きく変えていかないといけない点だと思っています。
「地域の、地域による、地域のためエネルギー」の推進を、本当はFITの仕組みをつくる時にも入れるべきだったと思いますが、今、地域はあちこちで大変な状況になっている。地域のエネルギーをどうするのかということは、原発に限らず、議論していただきたいと思っています。
これは一例ですが、たとえばデンマークはちゃんと地域が所有するような仕組みを持っている。こういった制度があるから、地元による再エネ開発が進んでいるということです。
今日一番お伝えしたいのは、国民不在のエネルギー政策ということです。原発に関しては、推進派と反対派がもともと分かれていましたが、福島事故があってさらに対話もなくなりました。「原発か、温暖化か」みたいな話もよくされます。
3.11の後に、原発賛成・反対を超えて対話をしていく必要があるということで、「みんなのエネルギー・環境会議」というのを立ち上げました。これは、原発に反対する方もいるし、澤田先生とか澤さんとか、原発推進派の方もおられます。両方が集まってオープンに、なぜ自分は賛成か、なぜ自分は反対か、どこまでは意見が一致していて、どのデータを見ていて、何がその意見の違いをつくっているか。そういったことをきちんと話し合いましょうという対話の場をつくりました。
第1回を長野の茅野でやったのを皮切りに、東京で行ったり、未来館で大きくやったり、各地でも呼ばれて、京都・札幌・広島で開催。そして若者たちも、エネルギー政策を自分たちもしっかり考えてものを言いたいということで、若者たちの会を行ったりしました。こういったときに必ず賛成派と反対派と両方に出ていただいて、とことん議論するということをやりました。
そのほかにも、エネルギーを考える政府の基本問題委員会の委員にもなったんですが、たとえば委員にほとんど女性がいない。それはおかしいだろうということで、100人ぐらい女性に集まってもらって、女性の声を届けたり。若者の声がどうしても届かない。年輩の方の委員会になってしまっていたので、若者、高校生・大学生の声を届けたり。こういったことをずっとやってきています。
情勢懇の時には、どういう議論があって、どういうデータがあって、どこで議論が違うかということを伝えたいと、自分で「エネルギー情勢懇のレポート」サイトを立ち上げて、情報を国民に出していました。皆さん、これがすごく役に立ったと言われます。何を議論されているかよくわからないというのが、大体の国民だと思います。
そのほか、3.11の後、原発集積地の柏崎で3年間の事業をお手伝いしました。原発の事故を受けて、町がまた分断されてしまう。原発賛成・反対を超えて、明日の柏崎を考えられる対話の場をつくってほしいというのが、当事の会田市長からの依頼でした。
いろいろシンポジウムなどを開催し、この時も賛成・反対、地元の方々に出ていただいて、丁寧に議論する。そういったことをずっとやってきています。出前で学生たちに意見を聞いたり、もっと市民に聞いてもらおうということで、池上彰さんに来ていただいたり。この時は1,000人を超える方々が集まって、エネルギーについてみんなで考えたりしました。
原発の賛否は置いておいて、次の産業を考えようという話ができるところまで、市内の雰囲気が変わっていきました。そうして、実際にいろいろな、再エネや農業などのビジネスについて勉強会を行い、柏崎の原発は大きな産業だけれど、それが続いても続かなくても、ほかの産業もあったほうがいいよね、という議論がようやくできるようになったのです。この勉強会の成果は、柏崎で少しずつ続いているところです。
このように、原発をめぐるコミュニケーションに関わってきましたが、基本的にコミュニケーションや合意形成は、日本ではとても難しいです。他国と違って、日本ではとくに、議論をしない、ディベートをしない、意見と本人の人格を一緒くたにしがち、そういったことはあって、通常でもコミュニケーション、合意形成は難しい。そのうえ、原発をめぐるコミュニケーションになると、原発賛成なり反対なりが本人のアイデンティティになっている場合も多く、意見を変えることができない。もしくは、背負っていくものが非常に大きい。また、不信感も国民の間では非常に大きい状況です。
国の本気度を感じられないというのが大きな課題です。先ほど4年前の資料を出しましたが、そこから全然変わっていないということも含めて、国は何も動いていないじゃないかと思えます。
コミュニケーションに関しては、何かあったときだけコミュニケーションしようと思っても駄目です。事故が起こったときとか、もう1回原発やりたいからとか、だからコミュニケーションしようとするのではなくて、平時から常時コミュニケーションする必要があります。
4年前の時にもそういった話をしました。国民の参加の必要性、みんなでやっていこうと。エネルギー基本計画を見ると必ず、「国民とともにつくる」とか、「対話」とか、先ほども政府の方から「丁寧なコミュニケーション」という話がありましたが、でも実際には行われていない。エネルギー基本計画などには必ず書き込まれます。「アドバイザリーボードをつくる」とか、「コミュニケーションを強化していく」とか、「地域のエネルギー協議会をつくって対話を始めよう」とか、書かれてはいるけれど実現されていない。
ここに変化が見えて、ちゃんと国としても、コミュニケーションの対象として取り上げているんだ、国民に、最初は時間がかかっても、理解してもらおうとしているんだということが伝わらないまま、今の原発政策を進めようとしても、先ほど言った消極的な反対しか得られないのではないかと思っています。
最後のスライドですが、今後のあり方について。「原発依存度をできるだけ減らす」と原則はもう決まっているわけですが、この意味合いが、人によって違うような使われ方をしている気がします。運転延長とか、新増設・リプレイスというのと、依存度をできるだけ下げるというのが、両立すると思えない人が多いと思いますが、まるで両立するかのように話がされている。ここはきちんと議論すべきだと思います。
それから、未来世代にツケを残さないというのが原則だと思うので、核廃棄物処理の目途が立たない間は原発は使うべきではない。これは、ごく普通に考えて、常識的な、倫理的な判断ではないかと思います。
エネ庁や政府が、「コミュニケーションが必要です」とずっと言っていても進まないのは、担当の部や課を設けていないからです。誰かが時間があったらやりますというレベルだと、絶対に進まない。きちんと政治のレベル、政府のレベルで、コミュニケーションをやる専門家をちゃんと設けること。「コミュニケーターを育成する」と入っていますが、そういった悠長な問題ではなくて、こういったことをしっかり進めていく必要がある。
もう1つは、エネルギー政策がどうあれ、原発政策がどうあれ、その結果を引き受けるのは次世代です。Z世代もいろいろなことを考えています。そういった人たちの声を聞いて、その人たちにも納得してもらえるようなエネルギー政策、原発政策を一緒につくっていく必要があると思っています。
私からは以上です。
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基本政策分科会では、もう1つ、「昨今の温暖化・エネルギー情勢から、原発を含む非常時対応が必要というなら、その規模と時間軸、非常時対応の終え方を提示すべき」ということも伝えました。
ひとまとまりお話ししたあと、委員からのたくさんの質問・指摘・コメントを受けました。基本政策分科会の委員は原発推進の方が多いと聞いていましたが、たしかにそうなのだなあと思いました。
私以外にヒヤリングに招聘されてお話しになった朝日新聞の論説委員の五郎丸さんの意見も、私からみると、極めて全うでそのとおり!というものでしたが、五郎丸さんが、「このヒアリングの場だけをもって幅広い意見を聞いたことにしてはならない」と発言されていたように、単なるガス抜き、「反対派・慎重派の意見も聞きましたよ」という証拠づくりに使われてしまう可能性もあると危惧しています。
私への質問をされたある委員が、質問の前に、「今回の人選に、政府の方針や進め方に厳しい意見を持った立場の方々の意見を伺おうという事務局の考えが反映されていてうれしい」とおっしゃっていましたが、「意見を伺ったあと」どうするのか、が重要ではないかと思うのです。
他の方々の提出資料はこちらから、ぜひご覧下さい。
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/2022/051/
また、私への反論として、「最近の報道では、NHKが賛成が48%、反対が32%、毎日が賛成が36%、反対が44%、日経が53%の賛成、反対が38%というように、原発賛成の国民が増えている」、「とくに若い層は、以前から原発にポジティブだという数字が出ている」という発言がありました。このあたりは、もう少ししっかり見ておかないといけないですね。
また、「対話は重要だが、20年、30年と、エネルギーや原発の問題を寝ても覚めても考えてきているという、専門家としてのバックグラウンドがないと、包括的に議論はできない。そういった中で、国民との対話が機能するのか」という意見もいただきました。
これは重要なポイントですね。みなさんはどうお考えになりますか?
基本政策分科会の質疑応答も含めての全容はこちらからご覧いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=_We2ZAZHV94
年末に向けてのエネルギー政策の動向と、エネルギー政策の決め方に、しっかり目を向けていきましょう!