前号で「あっという間に11月ですね!」と書いたのですが、「あっという間に11月も後半!」ですねー。
世界的に、「経済成長の問い直し」や、「脱成長」の動きが出てきています。EUでは「脱成長」を生き残りの政策の一つとして考えて動いています。
日本では、「環境保全も、経済成長も」という、「グリーン成長」が政府の政策になっていますが、世界的には「グリーン成長」への懐疑論や否定論も広がりつつあります。では、どう考えたら良いのか?
そういった経緯や動向をまとめた論考を、11月8日発行の岩波書店『世界12月号』に寄稿しました。ちょうど書店に並んでいると思いますので、よろしければご覧ください。
さて、
「より高度な経済的社会構成体の立場から見れば、個々人による地球の私的所有は、ある人間によるほかの人間の私的所有と同様にまったくばかげたものとして現れるだろう。 1つの社会全体でさえ、1つの国でさえ、否、同時代のすべての社会を一緒にしたものでさえ、地球の所有者ではない。 それらは地球の占有者、地球の用益者にすぎないのであり、よき家父として、これを改良して次の世代に遺さなければならないのである」。
人間は地球の所有者ではない。使わせてもらっているだけであり、よりよい形にして次世代に残さなくてはならないーーこの文章、だれが書いたと思いますか?
なんと、カール・マルクスなのです! 『資本論』第3巻の草稿だそうです。マルクスはエコロジストだった!
このことを教えてくれた斎藤幸平氏の『ゼロからの「資本論」』 を11月の幸せ経済社会研究所の読書会で取り上げます。
「そうだったのか!」――私の「コミュニズム」の理解を大きく変えてくれた本でもあります。 「どうしたら資本主義を乗り越えることができるか」も提示されています。資本主義はなぜ問題があるのか。資本家の立場と、労働者の立場、そして地球の立場から考えていきましょう。そして、少しでもよい未来に向けての方向性も!
資本主義の起こした問題への解決策を構想するには、まず資本主義のメカニズムについて理解すること。そして、一緒に「脱成長」について考えませんか。ご関心のある方、ぜひご参加ください。
【第139回 幸せ経済社会研究所・読書会】 2023年11月22日(水)開催
『ゼロからの「資本論」』を読む
このテーマに関連する世界の動向を幸せ研のニュースから何本かお届けします!
○欧州議会で「成長を超えて2023 会議」開催される
○専門誌『Degrowth(脱成長)』創刊!今がベストタイミング
○イングランド初のベーシックインカム実証実験
○フランス:「衣類や靴をお直しすると補助金もらえます」
○「平等な幼児教育への投資は、政府に大きなリターンをもたらす」英国のシンクタンクの分析
○英国、不安定な労働契約に対する新法を発表 ――数百万の労働者、勤務パターンの改善への発言権を得る
~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~
2023年5月15日から17日の3日間、ベルギーのブリュッセルにある欧州議会で「成長を超えて 2023会議」が開催されました。この会議は、20名の欧州議会議員によって主催され、さまざまなパートナー団体の支援を受けて行われました。
今回の会議で、指針となった問いは以下の通りです。
・欧州連合(EU)が、成長よりも繁栄を目指すためには、どのような物語が必要か?
・市民の幸福(Well-being)を尊重し、プラネタリー・バウンダリー(地球の境界)を尊重する社会を構築するためには、どのような政策と指標が必要か?
・今日の環境、社会、経済の相互関連した課題に対処し、あらゆる政策領域がEUの共通目標に貢献するようにするためには、どのようなガバナンスの仕組みが必要か?
・現行のEUの政策と、欧州のポスト成長経済の課題との間にある不一致をどのように取り扱い、優先事項を適切に再調整できるか?
今回の会議では、参加者全員を対象とした本会議やトピックを絞ったパネルディスカッションと、政策提言を共創するための招待者限定の政策ラボを組み合わせたアプローチが取られました。さらに、広範な利害関係者の橋渡しも企図しており、市民、学界、市民団体、意思決定者の対話不足を解消するために、相互理解の場を提供することを目指しました。
ヨーロッパ市民の未来を議論するこの会議の参加費は無料で、インターネットでのライブ中継も行われました。
(新津 尚子)
この記事の原文はこちら(英語)
https://www.beyond-growth-2023.eu/about-beyond-growth/
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専門誌『Degrowth(脱成長)』創刊!今がベストタイミング
2023年5月3日、脱成長のゴールへの推進に焦点をあてた、無料で、万人に開かれ、国際的、学際的、そして論文審査のある専門誌『Degrowth』がオンラインで創刊されました。
ここ数十年の社会経済的危機や現在の経済システムへの国民のいら立ちが、「脱成長」への関心をこれまでにないほど高めてきました。何百もの論文審査を経た出版物や、思考家・実践家のコミュニティの増大は、「脱成長」という概念の盛況ぶりを表しています。さらに、自然や他者との関係の考え方の基本を揺るがす新型コロナパンデミックを経験して、「脱成長」の研究は今しかない、との決断から本誌の創刊に至ったとのことです。
「脱成長」の概念は、例えば、資本主義と相容れると読む人もいれば、緊縮政策と混同されるとする人もいるように、まだ統一性がありません。思考家や実践家には理論的研究のためのオアシス(憩いの場)が必要です。アイディアが常にゼロからのスタートではなく発展させられる場、考え方の対立を声に出し、難題を取り上げられる場。『Degrowth』には、そんなオアシスになる役割も含んでいます。
編集者のグループは国際的な独立非営利団体として組織され、オーストラリア、デンマーク、フランス、イギリスなどさまざまな国に分散しています。編集者らは定期的に会合し活動しています。現在は資金の提供や提携なしに運営されています。
同誌では、研究者や総説の執筆者、議論での読者らの参加も呼び掛けています。
(有光圭子)
この記事の原文はこちら(英文)
https://www.degrowthjournal.org/about-us/
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2023年6月、イングランド初のベーシックインカムの実証実験の構想が発表されました。この実証実験では、30人に月1600ポンド(約29万円)が2年間支払われる、コミュニティ主導のプロジェクトです。
実施されるのはイングランドの2つの地域(ロンドン郊外のイースト・フィンチリー地区グランジとイングランド北東部ジャロー)で、参加を希望する住民から、それぞれ無作為に15人が選出されます(実験群)。また、選出されなかった人の中から30人が対照群として参加します。
これまで英国では、スコットランドで2020年に同様のプロジェクトが提案されたものの、英国政府の支援を得られず頓挫しました。一方、ウェールズでは2022年に児童養護施設を出た若者の自立に向けたプロジェクトが開始されています。
このプロジェクトの特徴は、地域住民を中心に進められていること。地域の住民がベーシックインカムに期待しているのは、自立と生活の保障、健康の促進、そして犯罪の減少です。今の社会保障制度は官僚的で、読み書きの問題などによって申請が困難なため、必要な人すべてを救済できていないと訴えます。
プロジェクトを取り仕切るイニシアチブ「ベーシックインカム・カンバセーション」の共同設立者クレオ・グッドマン氏は、「ベーシックインカムは社会保障を簡単に得られるものにし、英国の貧困問題を解決する可能性を秘めている」と述べています。
(佐々 とも)
この記事について詳しくはこちら(英語)
https://autonomy.work/portfolio/basic-income-big-local/
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メディア各社によると、フランス政府は、衣類等の廃棄量を削減するために、消費者による靴や衣類の修理・修繕を奨励する補助金制度を2023年10月から開始します。2023年7月11日、ベランジェール・クイヤール・エコロジー担当副大臣が発表しました。
補助金は、靴や衣類の修理・修繕代から1点あたり最低6ユーロ、最高25ユーロが払い戻される形で支給されます。たとえば、靴のかかと修理で7ユーロ、ジャケットやスカートなど洋服の修繕では10~25ユーロの払い戻しを参加店舗で受けられるしくみです。
フランスでは、毎年約70万トンの衣類が廃棄され、その3分の2が埋め立てられています。また、2022年に仏市場に投入された衣類、靴、家庭用リネンの数は33億点に上ります。
クイヤール副大臣によると、衣類等の廃棄量削減に加え、「修理・修繕をする人の支援」も目指しており、靴や衣類の修理・修繕業者のほかに、修理サービスを提供するブランドも支援する意向を示しています。
仏政府は、この補助金制度の5年分の財源として1億5,400万ユーロの基金を設立。制度の運営は、国内の衣類・靴業界の拡大生産者責任(EPR)を管理するために仏当局から認定された団体「リファッション(Refashion)」が担当します。
家電製品の修理補助金をモデルとしたこの制度は、2022年末から仏政府が行なっている繊維業界の大幅な改革の一環です。
(たんげ ようこ)
この記事の参考情報はこちら(英語)
France to pay bonus for shoe, clothes repairs to cut waste
https://www.france24.com/en/live-news/20230712-france-to-pay-bonus-for-shoe-clothes-repairs-to-cut-waste-1
French to get bonus to make do and mend clothes
https://www.bbc.com/news/world-europe-66174349
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「平等な幼児教育への投資は、政府に大きなリターンをもたらす」英国のシンクタンクの分析
英国の独立系シンクタンクのニュー・エコノミクス財団(NEF)は2023年7月18日、1歳からの平等で質の高い幼児教育への投資が、政府にとって最もリターンの高い投資の1つになる可能性があるとの研究結果を発表しました。
この研究は、政府が普遍的かつ質の高い幼児教育への投資に対して行う借り入れが、短期的には母親の就業率、長期的には子どもの潜在的な収入などに与える財政的な影響を分析したものです。その結果、全額を借り入れで賄った場合でも、財務省は支出1ポンドにつき1.31ポンドのリターンを得られることが明らかになりました。
なお、この分析の対象は、税金と社会保障費を通じて国庫に直接還元される分に限定されています。米国で行われた幼児教育への投資についての研究では、個人が得る直接的な経済的利益から派生する社会的成果や、医療費の削減分などを含めると、リターンは1対7とかなり高くなることが推計されています。
また、今回のNEFの分析では、1ポンドの投資に対するリターンは、高所得家庭では67ペンス、中所得家庭では1.19ポンドにすぎないのに対して、低所得家庭は2.07ポンドと最も高いリターンが得られることもわかりました。
NEFの経済学部門トップのジーブン・サンダー氏は、「普遍的で質の高い幼児教育は、財務省にも、もっと広い社会にも非常に大きな利益をもたらす、政府にとって絶好の投資の機会なのです」と述べています。
(新津 尚子)
この記事の原文はこちら(英語)
https://neweconomics.org/2023/07/universal-early-years-education-is-a-golden-investment-opportunity-says-the-new-economics-foundation
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英国、不安定な労働契約に対する新法を発表 ――数百万の労働者、勤務パターンの改善への発言権を得る
英国政府は2023年9月19日、「不安定な勤務スケジュールで働く労働者に、予測可能な勤務パターンを要求する法的権利を与える」という内容の法律を発表しました。
英国ではゼロ時間契約(労働時間が定められておらず、仕事のあるときに呼び出しを受けて働く契約)を始め、不安定な勤務パターンで働く労働者が大勢います。ゼロ時間契約は、柔軟に働きたい労働者や、需要が変動する雇用主には有用です。ただし、「ないかもしれない」シフトのために、時間を空けて待機しなければならないのは不公平です。新法は、この問題を終わらせるのに役立ちます。
新法では、ゼロ時間契約など不安定な勤務パターンで働く労働者や、12ヶ月未満の契約で働く労働者が、雇用主に対して、より予測可能な勤務パターンに変更する要求を申請できます。雇用主は申請を受けた後、1ヶ月以内に決定を通知する義務があります。この法律のおかげで数百万の労働者が、自分の勤務パターンの改善に発言権を持つことになります。
この法律に加えて、英国政府はこの数カ月間に以下のような労働環境についての法律を発表しています。
・新生児の入院時に、最大12週間の有給休暇を提供する法案
・妊娠中の女性及び新生児の親が解雇されないように保護を強化する法案
・介護を行っている従業員に対して、無給の休暇を提供する法案
これらの法律は、雇用主の準備期間を考慮して、王室の承認後、約1年後に施行される予定です。
(新津 尚子)
この記事の原文はこちら(英語)
https://www.gov.uk/government/news/millions-get-more-power-over-working-hours-thanks-to-new-law
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こういった動向が、どのように「脱成長」や、マルクスの目指していた社会につながるのでしょうか?
次回の読書会が楽しみです!