先日、幸せ経済社会研究所から、世界に向けて、日本の食品ロスについての英語ニュースレターを出しました。
https://www.ishes.org/cgi-bin/acmailer3/backnumber.cgi?id=20231124
その日本語版をお伝えします。日本の事情をご存じない海外の方向けに丁寧に説明しているので、私たち日本人にも役に立つと思います!
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日本の食品ロス、問題はどこにある? その取り組みは?
日本では法律によって、10月30日が「食品ロス削減の日」に定められています。食品ロスは、国連のSDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」でも、「2030年までに、お店や消費者のところで捨てられる食料(一人当たりの量)を半分に減らす。また、生産者からお店への流れのなかで、食料が捨てられたり、失われたりすることを減らす」とされるなど世界的な問題であることは誰もが知っていることでしょう。今回の幸せ研ニュースレターでは、日本の食品ロスの現状と問題点、そして取り組みについて紹介します。
○日本の食品ロスの現状
農林水産省の 2023年6月9日の発表によると、2021年度の日本の食品ロス(本来食べられるにもかかわらず捨てられている食品)の量は523万トンでした。内訳を見ると、食品関連事業者から発生する事業系食品ロス量が279万トン、家庭から発生する家庭系食品ロス量は244万トンです。
国際的な状況はどうでしょうか。食品廃棄物(食べられる部分と、骨などのもともと食べられない部分の両方を合わせた廃棄物のこと)のデータを見ると、日本、米国、英国、フランス、ドイツ、オランダ、韓国における人口一人あたりの食品廃棄物の量は、どの国も100kg以上とかなりの量であることがわかります。ここから、食品廃棄物の多さは、先進国に共通する問題と言うことができるでしょう。
さらに日本の特徴としては、「食料自給率がカロリーベースで38%に過ぎない」ことが挙げられます。つまり、日本は多くの食料を輸入しながら、大量の食品廃棄物を出しているのです。韓国も同様の問題を抱えています。
食品廃棄物の多さ自体が問題であることはもちろんですが、他国から食品を輸入しておきながら、大量の廃棄物を発生させていることも大きな問題です。
○日本の食品ロスに関する法律
日本の食品ロスに関する法律は2つあります。ひとつは、「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(食品リサイクル法)」で、2001年に施行され、2007年に改正が行われました。この法律は、食品関連事業者(食品製造業、食品卸売・小売業、外食産業など)から発生する食品廃棄物を減少させ、再生利用することを目的として制定されました。
この法律では、食品廃棄物の発生抑制の数値目標、再生利用の実施に関する目標、発生抑制の方法などが定められており、事業者にその実施を促しています。さらに、事業者が再生利用などに十分に取り組んでいない場合には勧告、公表、命令が出され、罰則も課されることもあります。
もうひとつは、2019年に施行された「食品ロスの削減の推進に関する法律(食品ロス削減推進法)」です。この法律は、食品ロスの削減を促進するために、国、地方公共団体、事業者の責務、消費者の役割を規定しており、多様な主体が連携し、国民運動として食品ロスの削減を推進するための法律であることが特徴です。
この法律では、食品ロス削減月間(10月)、「食品ロス削減の日」(10月30日)を設けており、国と公共団体の、消費者や事業者に対する学習、知識の普及・啓発、取り組みに対する支援などが基本的な施策として定められています。
この2つの法律を軸に日本では様々な取り組みが行われています。どのような取り組みがあるのか、いくつか紹介します。
○商慣習の見直しによる食品ロス削減
日本で大きく進められている取り組みの一つが「商慣習の見直し」です。例えば、日本には「3分の1ルール」と呼ばれている商慣習があります。これは、食品の流通過程で製造者、 小売業者、消費者の3者が、製造日から賞味期限までの期間を 3 分の 1 ずつ均等に分け合うという考え方に基づく商慣習です。
この慣習があることで、消費者は賞味期限までの期間が十分にある状態の商品を手に入れることができますが、問題もあります。例えば、製造日から賞味期限までが180日間ある場合、60日目が小売業者への納品期限、120日目が販売期限とされ、納品期限までに小売り業者に納入出来なかった商品は製造者に返品されるため、食品ロスにつながります。日本以外の国にも納品期限はありますが、日本の納品期限は外国と比べて短いことが問題です。
こうした状況を受け、2013年に農林水産省主導で行われたのが「商慣習見直しパイロットプロジェクト」です。このプロジェクトでは、飲料と賞味期限が180日以上ある菓子について、小売業者への納品期限を賞味期限の1/3から1/2に変更することで得られる食品ロス削減効果などを検証しました。
1/2にすることで、製造日から納品期限まで180日ある商品の場合、90日目が小売業者への納品期限になります。このパイロットプロジェクトには35社が参加しましたが、その結果から該当食品全体の削減額を推計したところ、飲料約4万トン(約71億円)、菓子約0.1万トン(約16億円)になることがわかりました。
このパイロットプロジェクトから出発した商習慣見直しの取り組みはその後も続けられており、農林水産省の発表によると、2022年10月30日の段階で240社が「1/3ルール」の見直し(あるいは見直しを予定)しています。
その他の商慣習の見直しとしては、多くの場合年月日で表示されていた賞味期限を年月表示に変える取り組みや、賞味期限を延長する取り組みが多くの企業で行われています。こうした「当たり前」を見直す取り組みによって、食品ロスを大きく減らすことができる可能性があります。
○「マッチング」による食品ロス削減
もうひとつ活発に行われているのが、食品ロスが生じそうな事業者と、食品を必要としている人々を結びつける取り組みです。例えば、茨城県では、「いばらきフードロス削減プロジェクト」の一環として、マッチング支援コーディネート窓口を設置しています。これは、食品ロスを抱える事業者と、消費意向のある事業者とのマッチングを支援するものです。この窓口を活用して、葉先が黄色くなったり、賞味期限が近づいたなどの理由で店頭から下げられた農産品や調味料が近隣の子ども食堂に提供された事例などがあります。
茨城県では、この他にも、フードドライブの開催、リサイクル飼料化研究会の実施、いばらきフードロス削減相談会・商談会の実施、「フードロス削減セミナー2022in 茨城」の開催など様々な取り組みを行っています。
民間の事業者にもマッチングの取り組みを行っている事例は複数あります。例えば、クラダシは、規格外や3分の1ルールのために食べられるにも関わらず廃棄される食品を企業から買い取り、低価格で販売する電子商取引サイトを運営しています。
クラダシの創業は2014年と、この業界では「老舗」です。クラダシのウェブサイトにアクセスすると、飲料、お酒、スイーツなど様々な商品が、定価よりも安い価格で並んでいます。商品の詳細ページでは、参考小売価格よりいくら安いのか、賞味期限はいつか、なぜクラダシに出品されているのかなどの情報を見ることができます。
クラダシのもう一つのポイントは、商品を購入することで、自動的に環境保護団体や貧困、動物保護に取り組む団体などに寄付できることです。支援金額は商品価格に予め含まれており、商品を購入する際に、支援先の団体をリストから選ぶことができます。こうして、売り手よし、買い手よし、社会よしの「三方良し」を実現しています。
○草の根の取り組みからテクノロジーを駆使した取り組みまで
もちろん上記以外にも、市民レベルから、最新テクノロジーを駆使したものまで、さまざまな取り組みが日本国内で行われています。例えば「3010運動」。これは宴会時の食べ残しを減らすための取り組みで、乾杯を行った後の30分間と終了前の10分間を、料理を楽しむ時間に当てるというものです。元々長野県松本市からスタートしたものですが、今では全国に広がっています。
フードバンク活動(安全に食べられるのに包装の破損など様々な理由で流通に出すことができない食品を、必要としている施設や団体、世帯に無償で提供する活動)も全国各地で行われています。
IoTなど最新のテクノロジーを活用した取り組み例としては、経済産業省が2023年1月から2月にかけて行った委託事業を挙げることが出来ます。これはIoTを活用して、25種類のパンの価格を、賞味期限に応じて1日3回、自動的に変動させる実証実験です。実証実験開始直後は、実験への認知度の低さなどにより、売数は伸び悩んだものの、実験中に認知度を高める取り組みを行うなどして、最終的には実験対象のパンの売数の割合は、実証実験前を100とすると、実験最終週は109と実験前を上回る結果となりました。
こうして国、企業、市民などが、様々な取り組みを続けた結果、2012年度は642万トンだった食品ロスは、2021年度には523万トンと約120万トン削減されています。
皆さんが暮らしている国では、食品ロス削減のためにどのような取り組みが行われていますか? 面白い取り組みがあれば、ぜひ教えてください。
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みなさんの地域や組織での取り組みもぜひ教えてください~!