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エダヒロ・ライブラリー講演・対談

「地域通貨国際会議-地域通貨の今日と明日」

―兵庫県「場と縁の継承・再生」国際会議(2004.12)
2004年12月18日
行政・自治体主催
講演
 

昨年12月に、兵庫で開催された「場と縁の継承・再生」国際会議にコーディネータとして参加しました。私が参加したのは、「地域通貨国際会議-地域通貨の今日と明日」です。 

とても面白い、学んだり、考えたりするところの多い会議でした。この会議で、コーディネータとしてのまとめの発言、全体会議でのパネルディスカションでの自分の発言をご紹介します。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

<事例まとめ>

6〜7年ほど前から、環境問題のジャーナリストや通訳者という形で関わっているなかで、今、一番感じていることは、特に日本が「取り戻す時代」に入ってきたなあ、ということです。

何を取りもどすのか? 一つは「時間」です。スローライフが日本でもあちこちで語られ、実践されるようになっています。それから「火」を取りもどすこと。私は「100万人のキャンドルナイト」という運動――冬至と夏至の夜2時間、電気を消してロウソクをともしましょうという呼びかけ――の呼びかけ人代表をしているのですが、私たち現代人から取り上げられてしまった火を取りもどすという活動です。

そして「暮らしよい仕組み」を取り戻す。例えば一家に一台車を持つのではなく、カーシェアリングという仕組みがあります。そのほうが暮らしやすいかもしれません。それから、「人とのつながり」や「自分自身」を取り戻す。なかでも、大きな"取りもどすべき"ものであり、その活動が実際に各地で行われているのが「お金」ではないでしょうか。

どういった形で、何を取りもどすために、日本でも世界でもこれほど多くの地域通貨の取り組みが現在行われているのだろうか?という問いを念頭に、いろいろな実践や理論的な話を聞くことができました。

初めにケネディさんから、全般的な枠組みと具体的な事例の話を伺いました。私たち一般の人たちが持っているお金に関する3つの誤解を教えて下さいました。

ひとつは「どこまでも成長できる」と思っていること。それからお金というのは、借りたときだけ利子が付くと思っていますが、実は何を買ってもそのモノを作っている人たちは利子を払って、その機械を購入したり人を雇ったりしているわけですから、結局利子がかかっている、私達が買ったりするものの40%ぐらいは実はその金利の部分ではないかというお話でした。

もう一つは、公平性ということで、みんなが誰でもお金を同じ金利で借りている、もしくは利益を得ていると思っているけれど、実は、たくさんの人たちがたくさん払って、本当に少数の人たちがそれを受け取っているという構造になっているという話がありました。

そして、その解決策としての3つのオプションの一つとして、地域通貨のお話を具体的にしてくださいました。「地域通貨というのは目的を組み込んだ形のお金である。自分たちの目的でそれを入れ込んだ形の通貨を作ることができる」というところが非常に印象深かったです。ケネディさんのお話をうけて、事例や活動報告を頂いたのですが、「それぞれの地域通貨に入れ込んでいる目的は何ですか?」についてもお伺いしました。

最初に、徳留佳之さんから日本の全国の地域通貨の調査をされている立場からいろいろなお話を伺いました。日本の地域通貨マップによると、都道府県別では兵庫県は北海道についで地域通貨の取り組みが多いのですね。
http://cc-pr.net/list/

そのあと新潟から、NPO地域助け合いネットワークで地域通貨のらての事務局を担当されている加藤寛明さんからお話しいただきました。ばらばらに活動をしている人たちを繋げたい。そのための基盤を作っていきたい、災害に強い地域づくりをしていく、そういった目的をもってやっていらっしゃるというお話でした。

楽市楽座について私が発行しているメールニュースでも紹介させていただいたことがあるのですが、持っている人が持っていない人にあげる、その場でそれに対してなにかお返しをすることができなくても、いつかもらった人達が今度はあげる立場になるかもしれないというお話でした。

私の好きな素敵な日本語のひとつ、「恩送り」という言葉を思い出しました。何かしてもらったとき、その人に恩を返すのは「恩返し」といいます。しかしその人に直接返すのではなく、いただいたもしかしたら次の世代かもしれない、遠い未来かもしれない――「恩送り」という素敵な言葉があります。普通の通貨ではできないことも、地域通貨には可能性があるのかなと思って伺っていました。

同じく新潟から、NPO法人新潟国際ボランティアセンター副代表、NPOサポートセンター長などを勤めていらっしゃる金子洋二さんのお話を伺いました。都市の住民とこだわりの農家を結ぶ役割を地域通貨に担わせることによって、思いを持って農作物を作っている農家を応援したいということ、そして震災の普及活動を通していろいろと地域通貨の役割や意義について考えていらっしゃることをお話しいただきました。

次に村岡町の社会福祉協議会から上田昌司さんから、町の取り組みのお話いただきました。ここでは人のつながりを重視する、人のネットワークを作るということを目的として地域通貨を作っています。そして「どんな地域通貨にしたいですか? 何を買いたいですか? 何に使いたいですか?」といった質問を住民にすることによって、「実はこういう町にしたいんだ」「こんなふうに未来を作っていきたいんだ」と、夢をひきだしている。地域通貨が町の夢を共有する一つのツールになっているというお話をうかがいました。

地域通貨の報告書を作成に参加している町の人には、「どういう町をつくりたいか?」と聞かれて初めて考えた人がたくさんいたのだと思います。前からそう思っていて言う機会を待っていたというより、「どういう町にしたいか」「地域通貨をどういうふうに使いたいか」「どんなサービスがあったらうれしいか」などの問いかけをして初めて、この町をこうしていきたいという意志をもった夢をはぐくみ、共有し、関係機関とのつながりを作っていくことで実現にむけての手ごたえも感じておられるだろうなと思いました。

それからさわやか福祉財団のスタッフでいらっしゃる斉藤達さん、2004年より地域通貨ネットワークプロジェクトのリーダーをされているということでお話を伺いました。さわやか財団は、もともとは高齢者の心の幸せをということで始めれ、「今ボランティア活動をやってその時間を後で自分で受け取る」というのが
基本的な最初の設計だったそうです。

言ってみると「今の自分と将来の自分というコミュニティ」の通貨だったのかと思います。縦型とおっしゃっていました。それから介護保険等がでてきて状況が変わってきたので、今その位置づけを横型に変えていらっしゃるというお話を伺って、「進化する地域通貨」の姿をみせていただいたと思います。

ある目的のために何かの手段をとるのですが、手段が目的化してしまうことがよくあります。地域通貨も、多くの場合、あくまでも手段の一つです。ただやっているうちに、地域通貨が目的化しているところもなきにしもあらずかもしれません。「地域通貨をネタに」とおっしゃった、そのツールとしての位置づけがいいなあと思いました。最初につくったその形でずっといく必要はない、社会のいろいろなニーズや状況の変化などとの兼ね合いで、形を変えつつやるべき目的を達していくという一例だと思います。

別府市の竹瓦温泉の栗田達夫さんから「湯路」という地域通貨のお話を伺いました。これは本当に色々な形で使われています。例えば外とのやり取りでも使われて、その温泉に人々を引き込む、大きな魅力の一つになっています。また町の人たちも、お互いに好きなようにいろいろな創造性や想像力を働かせて、使って楽しみつつ、いろんなことを活性化していることがわかりました。
http://www.coara.or.jp/~sanken/yuro/network.html

最後にナマケモノ倶楽部の和田彩子さんからエクアドルのシントラルの話を伺いました。ナマケモノ倶楽部のツアーでエクアドルに行かれて、そこで人生が変わってしまった方ではないかと思います。やはりその国の文化的な背景や経済状況などがあって、こういう形の地域通貨が出てきたと言う話をとてもわかりやすかったです。

日本の各地の地域通貨も全く同じだと思いますが、それぞれのコミュニティの持っている歴史的な背景やいろいろな状況に立脚した形で地域通貨が作られ、運営されていくのだろうと思いました。ナマケモノ倶楽部のお話もしていただき、エクアドルの文化なり人々と、日本の人々が、それぞれの地域通貨を通してやりとりをすることで、新しい世界が広がっていることを感じました。

最初のケネディさんのお話で、「お金には価値の色が付いていないわけではなく、お金を使う人の意識や行動、人とのやり取りは実は決まっているのだ」というお話がありました。ではどういう意識や人のやり取り、そして行動を作り出したくて、地域通貨を作るのか?皆さんの事例から非常に興味深く「地域通貨のデザイン」を学ぶことができました。また、最初のデザインだけではなく、それが進化していく姿、そして今いろいろ抱えている課題についての話も含め、とても楽しく、刺激的な話を伺えました。

<全体会のパネルディスカション>

今回の機会に参加し、自分でもいろいろと勉強になり、考える機会になりました。まずこのタイトルの「縁」という言葉ですが(私は通訳をやっているのでどうしても言葉に神経がいってしまうのです!)、英語にしにくい、きわめて日本的で好きな言葉の一つです。

この「場と縁の継承・再生」という視点から、自分自身の活動をいろいろと振り返ることができました。ジャパン・フォー・サステナビリティの活動で、日本中のさまざまな環境の取り組みを月に30本、英語と日本語で、世界と国内に発信しています。企業の新しい技術や製品の記事もありますが、自治体や市民グループがこんなことを始めた、という記事もよく書いています。

そういう記事を思い出してみると、「場と縁の継承・再生のプロセス」に何らかの危機や問題が起きることが発端になっているように思います。震災だったり災害だったり、環境の悪化だったり、そういった切迫感のある問題が多いと思います。実は家庭の問題や教育や地域の問題も、同じように社会問題であり、家庭や教育や地域の問題が環境悪化を招いている部分もあります。

そういった何らかの危機や問題があって、どうしようかといったときに、これまでの対立型や、誰が悪いという批判、もしくはデモなどをして誰かをつるし上げる形ではなく、また、こんな地域にしてしまったという罪悪感や劣等感を持つのではない動きが、今日本のあちこちで展開しています。

「ありものさがし」です。自分たちの地域には何があるのだろう? 自分たちは何を持っているのだろう? これをまず探すのです。「地元学」という"地元に学ぶ"という流れがありますが、そういった中で「今地元にあるものを使っていこう」と考える。そうしてある場が設定されたり、縁をもう一度掘り起こしたりという活動がたくさんあると思うのです。

世界に発信する記事はすべて私自身が目を通して手を入れているのですが、今朝たまたまその作業をしていたところ、浜松市の話がありました。「湖を守るために、洗剤の要らない魔法のふきんを地元の人たちが作って使いはじめた」という話です。よく読んでみると、浜松というのは昔、綿をたくさん生産していて、ガラ紡という日本の独自の紡績の技術を有していたところです。綿製品が日本では作れなくなって、すたれていきました。

ガラ紡で作ったふきんは、とてもでこぼこが多いので洗剤を使わなくても汚れがきれいに落ちるそうです。そこで、今40人ぐらいお年寄りが集まって、休耕地を使って綿の生産を始めているそうです。綿つみには子供たちもやってくる、老人がおしゃべりをしながら綿をつむぎ、ガラ紡を織る。その中で昔の智恵や技術を受け継いだり世代間のつながりができている、そういう記事でした。ほかにも、菜の花プロジェクトや地元にあるバイオマスをどうやって活かすかなど、日本の中で「場と縁の継承・再生」の事例が本当にたくさんでてきています。

私自身は心理学をずっと勉強してきているので、人に関心があります。「場」の設定とか「縁」の掘り起こしといったときに、それは自然に発生するものではなくて、誰かが思いをもってやっているはずです。そのように「やらなくてはいけない」「やりたい」と思って実際に動く人のことを「変化の担い手(チェンジエイジェント)」とに呼びます。

地域通貨をおこそうという方々はまさに、変化の担い手でしょう。そのときに「変化の担い手の技術」があるのではないかと思っています。言ってみれば「場と縁の継承・再生術」というのがあってもいいのではないか、ということです。

どういう考えの枠組みがあったら変化が起こせるのか? そのときどういうツールがあるのか? たとえば、新しい考え方を広めるためのイノベーション普及理論という考え方があります。そういうことを実地で使えないか? また、変えられたかどうか、どうやって効果を測定するのか? 振り返りをして次の計画にどうつなげていくのか? ある成功事例ができたら、それをどうやって他の地域に展開していくのか?――きっとそういうプロセスや技術が作れるのではないかと思っています。

「では何のためにそういった場とか縁の継承・再生をするのか?」と聞かれたら、私の答えは非常にシンプルで、「幸せになるため」です。幸せになるためには、今日ケネディさんや他の方からもお話しが出ていましたが、必要でない部分はグローバル経済から自分自身を切り離していくことです。

「デカップル」というのが一つのキーワードになります。「カップル」というのは二つのものを一つにすることですが、「デカップル」は逆に、これまで一緒だと思っていたものを切り離すことです。環境のため、世界の平和のため、自分の安全保障の為に、デカップルが必要だと思っています。例えば、エネルギーの分野では、風力発電や太陽光発電などと蓄電技術によって、送電線から自分たちを切り離すことが可能になります。

もう一つ、「幸せ」については、これは社会学者の見田宗介氏が述べていることですが、私たちの幸せや満足のうち、お金で買える部分を減らしていけるんじゃないか、と思います。おそらく現在、人々の幸せの90%以上はお金で買う幸せになっているでしょう。それを40%ぐらいまで減らせるのではないかと、見田氏は言っています。お金で買えるところも、国家通貨ではなく地域通貨に変えていけるところもあるでしょう。

そういったことを考えたときに、三位一体のキーワードとして「目的・仕組みの理解・デザイン」ということを思いました。「これを達成したいから動きを起こす」という目的なりビジョンがあって、「いまどういう仕組みになっているか」という仕組みの理解があって、それではじめて「どういうふうに動かしたいか」というデザインができる、ということです。今回は地域通貨の分科会に出ていたのでお金がその対象でしたが、「働き方」や「人とのかかわり」なども全て同じように、「目的・仕組みの理解・デザイン」があれば動かしていけるのではないかと思いながら、非常に心強く聞かせていただきました。

 

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