「今回のG8に望むこと」というのが、私のお話しする内容のひとつですが、ひとつは、少なくともG8に参加している首脳の間で、物事の切迫感を共有してほしいなと思っています。
北極の氷が、この夏にも消えてしまうかもしれないという発表が、科学者から出ています。そういったときに、未来への責任を本当に私たちはどう考えるのか。政治のリーダーたちはどう考えていくのか。それを、切迫感を共有してほしい。
実際は政治の交渉ですから、たとえば目標についても、いろいろなことについても、ここで決められること、出せること、出せないことはもちろんあると思います。しかしそのベースとなる切迫感だけは、アメリカも含めて共有してほしいなと思っています。
もうひとつは、どうしてもこの問題は――この問題だけではないですが、先進国対途上国という構図になりがちです。確かに歴史的な二酸化炭素の排出量を見ると、これまでの世界が出してきた排出量の4分の3は先進国が出しています。4分の1は途上国です。
ただ、いま現在の排出量を見ると、先進国と途上国の排出量はほぼ同じです。そして今後は、途上国の排出量が大きくなってきます。ですから、先進国が過去の責任をしっかり負う一方、途上国も未来への責任を真剣に考えていく必要があります。そのときに、技術や資金をどうやって先進国から途上国に、本当に削減につながるやり方で移転していくか。これが大きなポイントだと思います。今回のサミットで、そのあたりの議論が、実施的な意味で進むといいなと思っています。
もうひとつ大切なことは、いまバラバラに語られている問題が、実はつながっているひとつの問題だという認識を、今回のサミット参加者が感じてくれればと思います。
「温暖化が問題だ」「それが主要なテーマだ」と言っていたのに、食糧の問題が出てきた。エネルギーも問題だ。貧困も問題だ。何だか問題がいっぱい出てきて、どうしていいやら、という状況ではないかと思います。
しかしきっと皆さんは、もうよくご理解されていると思いますが、温暖化も食糧もエネルギーも貧困も、みんなつながっているひとつの問題です。そのどこの観点から見るかで、「エネルギー問題」と言われたり、「食糧問題」と言われたり、「温暖化問題」と言われている。こういったつながった問題として理解することがひとつ、大きなポイントだと思います。
もうひとつ大切なのは、つながった問題という理解をすればわかることですが、温暖化は問題そのものではないということです。温暖化は、より深い問題の症状にすぎません。ですから、魔法の杖で温暖化の問題を消したとしても、同じような問題が必ず出てきます。
根本的な問題は何かと言うと、「有限の地球の上で、無限の成長を続けようとしていること」です。それが地球の限界にぶつかっている。二酸化炭素の吸収量という限界にぶつかっているから温暖化が起きている。持続可能に地球が提供できるエネルギーという限界にぶつかっているから、エネルギーの問題が起きている。
つまり、私たちが本当に考えないといけないのは「成長」です。どこでどのような成長をどれぐらいするのがいいのか。何でも成長すればいいという時代は、もう過去のものだと思っています。
そういった大事なこと--つまり、本当の幸せって何だろう? 私たちは何のために生きているんだろう? 経済は何のためにあるんだろう?
そういった本当に大事なことを考える。そのために立ち止まったり、思いをはせたり、そのための時間をつくることが、そのためのきっかけを提供することが、おそらくいま、忙しくて"それどころではない"先進国――だからどんどん、もっともっとと成長に走ってしまう--には大事なのではないかなと思います。