私は29歳の時、夫の留学について2年間アメリカに行くことが決まりました。それまで私は英語がすごく苦手でしたが、どうせアメリカに行くのなら、英語の勉強を一生懸命やろうと決めました。どんな人の人生にも頑張りどころというのがやって来ます。目標は高いほど、たとえ目標に到達できなかったとしても、目標に近づけるのではないかと考え、英語で一番高い目標である同時通訳を目標にしました。
そして2年後、同時通訳者になって帰って来ました。友人からは、どうやって2年間で同時通訳者になれたのかと尋ねられました。それは、かなり無謀な目標設定をしたからだと思います。この時の私の目標の作り方が "バックキャスティング"という方法です。短期的な目標は、現状立脚型の "フォアキャスティング"で作ることが多いのですが、人生の目標を立てる時、この方法ではあまり遠くまで行けないのです。
バックキャスティングは、全くの理想をまず描いてみて、そこから今を振り返り、間を埋めていく方法です。全く英語ができなかった私がもしもフォアキャスティングで目標を作っていたら、2年後きっと同時通訳にはなれなかったと思います。
2 地球1個分の生活
今"持続可能な社会を作ろう"という事が言われています。それは何故かと言うと、今のままでは持続不可能だからです。今年フィリピンや日本を襲った大きな台風の発生は、海水温の上昇にあります。そしてその原因のひとつが温暖化です。温暖化が進み、オーストラリアでは山火事が増加しています。氷河が溶け、熱中症が増加し、高潮・洪水が増え、一方で渇水がひどくなる地域が出る。また気温が上昇すると、気温帯が北上します。もし100年で気温が3℃上昇するとしたら、動植物は1日7mずつ北上しなければ同じ温度では暮らせないそうです。動物はまだしも植物はこんなスピードでは移動できない為、絶滅が心配されています。すでに食べ物にも影響が出でいます。
世界では温暖化以外にも様々な問題が出てきています。一つ一つの問題の解決も大切ですが、これらを起こす根本的な構造を解決しなければいけないと思います。この根本的な構造として"地球の大きさは決まっている"ということが前提としてあります。
現在、地球に与える人間の影響は地球よりも大きくなり、今の人間活動を支えるのには、地球が1.5個必要です。まず私達の生活を地球1個分に戻していかないと問題は解決できません。そして次世代を担う皆さんには、経済も地球1個分に戻してくべきだということをわかっていただきたいと思います。経済が大きくなっていく中では、生活を地球1個分に戻しても、地球環境を守ることはできません。
これからも経済成長を続けることが可能なのか、望ましいのかを考え、大人にも問いかけて欲しいと思います。GDPやGNPが大きくなっても、人々の幸せが減っているというデータが出ています。本当に大事なのは何なのかを、今考える必要があります。ブータンが世界的に注目されていますが、その理由はこの事を問いかけているからです。1970年代、世界の国々を調査したブータン前国王が出した結論は、「世界の国々はGNPを成長させた結果、国土が荒れ、人の心が荒み、文化は継承されていない。ブータンはGNH(gross national happiness=国民総幸福)を目指す。」だったそうです。フランスやイギリスでも、人々の幸せを測り、大事にする動きが出てきています。日本でもこういう動きが早く大きくなればと思います。日本はすでに人口減少社会に突入し、労働力は2030年までに20%減少すると言われています。少ない労働力でこれまで以上に経済を拡大するのは、とても大変な事です。すでに地球1個分を超えている経済を定常型経済にどう切り替えていくかが、皆さんの世代の大きな課題となります。
3 ほんとうの幸せとは
私は、若い人達に希望を感じています。若い人の中にはすでに新しい社会・新しい価値観・新しいライフスタイルに移行し始めている人が多くいます。100万人のキャンドルナイトやxChangeに参加する、アウトドアブーム・走る人も増えています。物やお金ではなく、それとは違うところにも幸せはたくさんあると考える人が増えています。これを私は三脱の時代と整理して話をしています。
ひとつは、"暮らしの脱所有化"です。物を所有することではなく、シェアする、貸し借りで暮らしを成り立たせていくということです。カーシェアリングやシェアハウスなど、持つことではなく共有する暮らし方が拡がっています。もうひとつが"暮らしの脱物質化"です。物で幸せを作り出すのではなく、人と人との触れ合いや自然との繋がりで幸せを感じる人が増えてきています。最後の脱は"人生の脱貨幣化"です。ほとんどの大人の生き方は、自分の時間を会社に差し出し、その対価として給料を貰い、人生を成り立たたせるというものです。日本の社会や企業の構造からして、かなりの時間を差し出さないと給料がもらえません。自分の人生がないかのように働いている人が私の周りにも沢山います。これは、本当はとても不幸なことです。
今の若い人達には、別の生き方を探す人が増えています。 "半農半X"というライフスタイルがあります。自分の時間の半分で自分や家族の食べ物を作り、残りは自分のやりたいことに使うというものです。こういう動きは世界的にも拡がっています。世界では"Down Shifters"が増えているというニュースがあります。自分の意思で給料を減らし、その代わりに時間を増やす事を選んだ人達です。
本当に何が大事かを考え、それを自分の生活の中で取り戻そうとする人達が増えています。日本はそういう意味で言うと、ライフスタイルや価値観の先進国です。環境先進国であるスウェーデンやドイツでも日本のライフスタイルが進み、若者の価値観が正しい方向に向いていることに驚かれます。
毎日の生活の中で出来ることをすると同時に、根本的な価値観や本当に何が大切なのかを変えていくことが大切です。経済や社会を変えるのは難しいから、今できることを一生懸命やるだけでいいかのように思ってしまう大人が多いですが、本当に辿り着きたいところは、地球1個分の暮らしで、みんなが安心して幸せに暮らせる社会や経済ではないでしょうか。バックキャスティングで、そこから見た時に、今何をどう変えたらいいかを若い皆さんに考え、大人にアピールして欲しいと思います。それぞれの取り組みを進めることが、価値観の問い直しやシフトに繋がっていきます。
4 おわりに
若者の発信が必要だということをとても強く思っています。日本のエネルギー政策が大きな問題になっています。今、自然エネルギーが賄っているのは1.6%です。これを大きくすべきですが、その間の電力をどう賄うかを考えなければなりません。その為に、2030年までの日本のエネルギーを考える政府の委員会に参加しましたが、25人中女性は4人、40歳以下は一人もいませんでした。女性や2030年に社会の主流となる皆さんの声や考えが一切入っていません。
私達が住む社会をどう作って欲しいかが届かない限り、国は「皆満足している」と受け取ります。家庭や学校での暮らしの工夫と同時に自分達はどういう未来に生きたいかを高校生として、そして若者として国に伝えて頂けたらいいと思います。今日は幸せな未来のつくり方についていくつかの観点からお話しましたが、地球1個分の生活に戻すことが、幸せな未来を作っていく上で一番大事なことではないでしょうか。