ICTはソーシャルイノベーションにいかに貢献できるのか。富士通がICTで目指す今と未来の姿を軸に、富士通株式会社環境本部本部長の竹野実とエダヒロが対談を行いました。
人の経験や知恵に情報を加える
枝廣 :
地震、津波、温暖化による影響、そして都市への人口集中、食糧問題、金融ショックなど、人類は様々な課題を抱えています。そのときに大切になるのが、外からの衝撃に対してポッキリ折れてしまうのではなく、しなやかに立ち直る力、レジリエンス(注)です。そうした観点でICTが果たせる力についてお聞きしたいと思います。まずは、食糧問題、農業への貢献についてお話しください。
竹野氏:
私たちが今お手伝いしているものの1つにみかん農園があります。センサーで気温、降水量、土壌温度などのデータを収集し、過去の経験と照らし合わせ、最適な管理を実現しています。これにより、年ごとに異なる気象条件下でも、みかんの品質を確保することができます。また、会津若松工場ではクリーンルームを転用し、光や水の量、温度など栽培環境の最適なコントロールをしながら、人工透析患者、慢性腎臓病患者の方々も生で食べられるカリウム含有率の低いリーフレタスを栽培しています。他にも、ブドウ農園では温度や気象の変化を事前に捉えることで、農薬を最小限に抑え、安心して飲める美味しいワイン作りに貢献しています。ICTのいいところは、農家の方の経験や知恵に情報を加えることで、もともと持っている人の力を膨らませ、加速させることができることです。
未来のイメージを皆で共有
竹野氏:
防災についても、私たちは南海トラフ地区の津波シミュレーションをお手伝いしています。津波が町にどう影響するのかを見える化することで、住民や行政の方たちに事前に何が起こるかをイメージしてもらえますし、それによって、いざというときの備えにつなげることができると思っています。
枝廣 :
フランスの学会で「3.11からの教訓」ということで論文を発表してきました。そのときお話ししたのが、過去の記憶をどうやって継承するかということです。岩手県宮古市の姉吉地区には過去の大きな津波がここまで来たということを知らせる石碑が建てられています。それを守り続けてきたことで、今回の人的被害はゼロでした。過去の記憶はすぐに失われてしまいます。一方で想定を超える津波が来る可能性がある場合には、過去の記憶が逆に足を引っ張る場合もあります。過去の記憶と今後起こりうることを合わせた形で未来のイメージを皆で共有することが大事なのではないかと思っています。例えば、津波のシミュレーションでは、今後の温暖化による海面上昇といった情報を加えることも可能なのでしょうか。
竹野氏:
シミュレーションの強みは、いろいろな仮定の要素をあらかじめ入れられることです。例えば、この地域に堤防を造ったらどういう変化があるかということもシミュレーションで再現でき、多様な可能性を検討できます。
枝廣 :
都市の問題についてはどうですか。
竹野氏:
都市の状況が複合的に分かるようになれば、問題を早期発見でき、予防的な観点で手を打てるようになります。都市への人口集中による環境汚染や交通渋滞の緩和、インフラの予防保全などにも、ICTの力が活用できます。将来的には、人の心拍数の上昇などの異常を検知し、人が倒れたという情報が消防署に伝われば、自動的に救急車が駆けつけるということも可能になります。そのときには、情報が医療機関にも伝わっており、その時点で受入先も選べます。さらに緊急の場合には信号機を調整し、最短の時間で最寄りの病院に搬送するということも可能になるでしょう。
オープンな形で社会と一緒に歩む
枝廣 :
まとめとして、レジリエンスを作る出すために大事なことが3つあります。1つは多様性です。何か1つに頼っているとそれがダメになると動きが取れなくなってしまいます。そのために常に複数の選択肢を持っているということが大切です。2つめはモジュール性です。普段はつながっているけど、何かあったときに切り離すことができること。3つめはすばやいフィードバック。何かあったとき、ありそうなときにフィードバックがただちにくれば、すぐに次の手が打ちやすくなります。いろいろお話しをお伺いして、レジリエンスを高めるためにICTが役に立つという気がしました。
竹野氏:
ソーシャルイノベーションということでは、単に情報をたくさん集めるだけではなく、集めたものを人に分かってもらう情報に加工し、いかに伝えるかということが大切です。地図が読めなくなるというようにICTによって人間の能力が下がってしまったり、社会が不幸にならないように、人間の価値観や美意識ともバランスが取れるようにする。それを私たちは「ヒューマンセントリック」と表現しています。富士通は、人々がICTの力を活用して、安全で豊かな、持続可能な社会の実現を目指しています。しかし、それは何も人間のためだけでなく、人間が生きる環境である地球や自然、社会を含んだものであると私は理解しています。
枝廣 :
ソーシャルイノベーションと言ったときには、社会的課題を解決するためのイノベーションというものもありますが、"社会とともに"ということもあると思います。私もお手伝いしていますが、富士通では様々な分野の有識者の方々との対話を続けています。
竹野氏:
私たちは、オープンな形で社会と一緒に歩んでいくことが、イノベーションの鍵だと思っています。これからも、社会と富士通がともにハッピーになれるように様々な取り組みを進めていきたいと思っています。
(注) レジリエンス(resilience):
「何かあってもまた立ち直れる力」のこと。強風に吹かれても柳が元の姿勢に戻れるように、しなやかな強さを表す。もともと生態学で使われていた用語だが、今日では様々な分野で使われている。
★以下のページでも内容をご覧いただくことができます
http://jp.fujitsu.com/about/csr/eco/communication/events/ff2014-report01.html
★当日の様子は【エダヒロの共創日記】でもご紹介しています
【エダヒロの共創日記】
■ICTとソーシャルイノベーション~富士通フォーラム(2014年05月31日)