この1、2年ほど、特に米国の経済界や産業界で、声高に議論されるようになってきたのがpeal oil(ピーク・オイル)です。
oil peak(オイル・ピーク)と言われることもありますが、文字どおりoil (石油)がpeak(山頂)に達する、つまり石油の生産量が最高点に達することです。その後、生産量は徐々に低下していくことになります。日本の経産省などはpeak out(ピーク・アウト)をよく使っていますが、意味は同じです。
石油は、ガソリンをはじめ50万品目以上あるといわれる石油由来商品の原料やエネルギー源として経済や生活できわめて重要な役割を占めているため、最近の原油価格の高騰は、大きな懸念となっています。
最近の原油価格高騰の要因といわれるハリケーン・カトリーナや中東情勢などは短期的な要因ですが、長期的に見れば、そのような短期的な変動を吸収する生産余力がなくなっていることが問題といえるでしょう。
ピーク・オイルは、理論的には、原油の究極埋蔵量の半分を産出したときにやってくるといわれます。究極埋蔵量の推定値によって違いはありますが、多くの専門家が「2005年から2020年の間」と言っています。最も楽観的な見方でも15年後なのです。そして、すでにピーク・オイルの兆候があちこちに出てきています。
先日、米国に出張した折、空港に石油会社シェブロンの大きな電光掲示板の広告がありました。「2ガロンの石油を使う間に、1ガロンの石油しか発見できていない」
原油の発見量は1964年にピークを迎えて以来、減少を続けています。実は全体として見ると、半分どころか「原油消費量の4分の1しか新たに発見されていない」のです。
地域別産油量のグラフを見ると、中東とロシアを除く地域は、既に生産量のピークを迎えています。中東とロシアでも、他の地域の減産を補えるほどの増産はきわめて難しい状況なので、今後生産量はますます減少し、生産コストは上昇していくでしょう。
石油の生産量は減少に転ずる一方、需要は伸び続けることが予測されています。すると、「需給ギャップは増大の一途、原油価格は上昇の一途」という世界が来るでしょう。
これを見越したスウェーデンは、「2020年までに脱石油国家となる」と宣言しました。エネルギーの実質9割以上を海外に依存している日本も、国家安全保障としてピーク・オイルの問題を考える必要があります。
エネルギー問題は環境問題でもあります。7月下旬にイタリアで「国際ピーク・オイル会議」が開催されました。日本でも、燃料費の高騰で船が出せずに困っている漁業の話や、輸送費の値上がりに備えて生産拠点を移し始めた企業の話が聞かれるようになってきました。
「ピーク・オイル後」の自社の生産・物流・調達戦略や環境活動についてすぐに考え始めなくてはなりません。