人類の進歩や経済発展、開発を考える際に、近年注目を集めている「GNH」をご存じですか?
GNHとは、Gross National Happinessのこと。「GNP(Gross National Product=国民総生産)は知っているけど」という方も多いでしょう。共通するGrossは「総計の、全体の」、Nationalは「国家の、国民の」という意味です。GNPのProduct「製品、生産物」に対し、GNHのHappinessは「幸せ、幸福」で、「国民総幸福度」などと訳します。
国の力や進歩を「生産」ではなく「幸福」で測ろうというこの「GNH」の考え方は、1976年の第5回非同盟諸国会議の際、ブータンのワンチュク国王(当時21歳)の「GNHはGNPよりもより大切である」との発言に端を発しているとされています。
60年代から70年代初め、ブータンは先進国の経験やモデルを研究し、経済発展は南北対立や貧困問題、環境破壊、文化の喪失につながると考え、GNP増大政策をとらずに、GNHという考えを打ち出しました。GNHとは、ブータンの開発哲学であり、開発の最終的な目標なのです。
GNPは物質的な成長を測ることができますが、「ではその成長は、人々にとって本当に幸せなのか、良いものなのか」は問いません。
GNPはもともと「人々の幸せ」などとは関係なく作られたものであり、人間の幸福に役立つ・役立たないにかかわらず、あらゆる経済活動(モノやサービスの生産や流通)の合計にすぎないからです。
つまり、ばい煙からぜん息にかかった人の医療費や凶悪事件に投入される警官の超過手当なども、「国の経済成長」の一端として計上されます。
GDP(Gross Domestic Product=国内総生産: GNPから海外に住む国民の生産量を引いたもので、現在はGNPより一般的に使われる)の生みの親であるクズネッツは、米国議会で「GDPという形で推定された所得からは、国の豊かさはほとんど推し測れない」と証言しています。
敬虔な仏教国ブータンでは、物質的な豊かさだけではなく、精神的な豊かさも同時に進歩していく概念を大事にしました。
ブータンは「経済成長と開発」「文化遺産の保護と伝統文化の継承・振興」「豊かな自然環境の保全と持続可能な利用」「良き統治」というGNHの4本柱に基づいた人間中心の開発を行い、国土の26%は自然保存地区で、72%は森林地区です。同国にはホームレスなどもいません。
「お金や物質的な成長の追求は、本当に幸福のために役立つのか?」――ブータンのGNHから、暮らしや経済の究極の目的の問い直しが世界にさざ波のように広がっています。
日本にも会社の進歩をGCH(Gross Company Happiness)でとらえようとする企業や、区民の幸せを測るGAH(Gross Arakawa Happiness)という尺度を区政に導入しようとしている東京都荒川区の例などがあります。