エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

2007年08月30日

stock &flow

 

 さまざまな事象やシステムを理解する上で大事な概念のひとつが「stock & flow」(ストックとフロー)です。ぜひ身に付けたいものの見方です。

 お風呂のバスタブで説明しましょう。バスタブには蛇口から水が入り、排水口から水が出ます。「入る水」と「出ていく水」に応じて「バスタブ内の水」の量が変化します。ここである一定の時間内に「入る水」がインフロー、「出ていく水」がアウトフローです。フローとは流れのこと。そして、ある時点で「たまっている水」が「ストック」(蓄積)です。

 ストックかフローかを見分けるには、「スナップショット・テスト」をします。ある瞬間に写真を撮ったとき、その量が測れるものはストック、測れないものはフローです。どの瞬間でも、バスタブ内の水の量を測ることはできますが、入ってくる水の量や出ていく水の量は、瞬間では測れません。フローは、「1分間に入る水の量」のように、必ずある一定の期間に生じるものなのです。

 ふだんの生活でも「あ、これはストックで、これがフローだ」と気づくものも多いでしょう。例えば、銀行口座。月末の「残高」がストックで、1ヶ月の間の「入金」「出金」がフローです。

 ストックやフローは、目に見える物質的なものだけではありません。例えば、ある企業への信頼感を考えてみると、ある時点の「信頼度」がストックで、そのストックを増やしたり減らしたりするフローは、一定期間での「信頼獲得」「信頼喪失」となります。

 ここで重要な原則がひとつあります。時間の経過とともにストックが変化するとき、それは必ずフローが原因だということです。つまり、ストックを増減したければ、望ましい方向にフローを調節すべきだということです。

 バスタブに排水口を開けたまま蛇口から水を入れるようなことはしないでしょうが、一生懸命に新規顧客を増やす(インフロー)活動をしながら、気づかないうちに、既存顧客を失っている(アウトフロー)ために、顧客数そのもの(ストック)が減っていることなど、よくあります。

 地球の気候システムにもストックとフローがあります。人間などが排出するCO2の量がインフローで、森林や海が吸収する量がアウトフローとなります。年間約70億t(炭素換算)のCO2が大気中に入り、森林や土壌、海洋が約30億t吸収しています。アウトフローよりインフローが大きい間、ストック(=大気中のCO2)は増え続けることになります。

 経済でも、ストックとフローの考え方は、とても重要です。これからは、国民総生産(GDP)などで示されるフローを増やすのではなく、住宅総戸数、自動車の保有台数、預金残高などの経済財のストック、道路や鉄道といった社会ストックをきちんと維持し、質を高めることが重要だといわれています。

 

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