今回は、それほど目に付くわけではないのですが、英語圏の文明の視点から地球環境を考える上でとてもおもしろい英単語をご紹介しましょう。私は通訳時代、環境問題の国際会議に出ると、よくこの単語に出会い、そのたびに「環境に関するとても大事な概念だけど、そのまま日本語にはできないなぁ」と思いました。
「FSC」というマークの付いた木材製品や紙を見たことがありませんか? また、大手スーパーなどでは「MSC」マークの付いた水産物の販売を始めています。
FSCとはForest Stewardship Council のことで、森林管理協議会と訳されます。MSCとはMarine Stewardship Councilで、海洋管理協議会です。forestは森林、marineは海洋、councilは協議会ですね。どちらも真ん中に入っていて「管理」と訳されているstewardshipとは何でしょうか?
stewardshipのshipは、スポーツマンシップ、フレンドシップというときのshipで、「~精神」という感じでしょうか。ですから、stewardshipとは「スチュワード精神」「スチュワードの職務」の意です。
ではsteward とは何でしょうか? stewardとは、「管財人」「大邸宅などの執事」「給仕長」「船や飛行機給仕」「客室係」「幹事」「世話役」などの意味を持つ単語です。
こうしてみると、stewardshipとは、「財産管理の職務や世話役を務めること」という意味になります。「受託責任」という訳語もあります。
「受託責任」というなら、誰から「受託」しているのか? 財産管理って、だれの財産を管理しているのか? と思いませんか?
インターネット上の辞書であるウィキペディア(英語版)にそれをよく表した説明がありました。「環境に関するstewardshipとは、天然資源が、我々の世代のみならず未来世代のためにも、きちんと持続可能な形で管理されるようにすること」で「リサイクル、保全、再生、復旧などが含まれる」とのことです。
stewardshipは「倫理」という意味合いも含んでいると説明しています。
キリスト教には、「人間は、神がつくりたもうた地球のstewardであるべきだ」という発想・思想があるのですね。
私が参加した環境の国際会議で「stewardship」と聞くたびに感じていた、私たち日本人の自然観との違いはここにあります。日本人の多くは、自然と自分(人間)との一体感を感じ、どちらが上でどちらが下、という区別はしていないのではないでしょうか。
ところがstewardshipという概念は、「人間は神様から、地球をきちんと守るという職務を与えられている」という思想で、「人間=守る者」「自然=守られるもの」という明確な区別が根底にあるのです。
ひとつの言葉からメンタルモデルの違いが浮かび上がってくるのは面白いですね。