昨年の秋に、スイスのチューリッヒで「サステナビリティ・フォーラム」という、スイスの大学や企業などのネットワーク組織が、機関投資家などの関係者を集めて開催した「短期的視野か、長期的視野か?」というシンポジウムに参加したときのこと、「ESGポートフォリオ」「ESGアプローチ」など、「ESG」という言葉が繰り返し出てきました。
日本では、SRI(Socially Responsible Investment:社会的責任投資)はよく聞きますが、ESGはあまり耳にしません。
ESGとは、E(Environmental)、S(Social)、G(Governance)の頭文字で、「環境や社会的責任、ガバナンスを意識した」という意味です。
ESG 問題とは、「環境、社会およびコーポレート・ガバナンスの問題」を意味します。具体的には、①環境問題への取り組み(リサイクル達成率、温暖化ガスの排出量など)、②企業の社会性(法令順守、職場環境への配慮、地域への貢献度など)、③企業内における経営陣、従業員および株主の権利および責任の明確化(社内監査制度の整備、不祥事対応など)が考慮されます。
近年、企業への影響力を増している投資家もESG要因を評価に取り入れる動きが盛んになってきています。スイスの会議でも、あるスピーカーが「投資基準にESGが入っていないからと訴訟が起こるようになるのはいつ頃だろうか?」と問いかけ、会場全体が、「そういう時代が近づきつつある」という認識を共有した瞬間が印象的でした。
つまり、環境意識の高い人々や先進的な人々だけではなく、ごく普通の投資家もこの考え方を採り入れないと置いていかれるという流れになってきているのです。
このESGの広がりのきっかけは、2003年にさかのぼります。アムステルダムで開かれたコーポレート・ガバナンスの会議で、国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEP-FI)が年金基金に対し、「ESGが投資に与える影響について評価するシステムが必要になってきているのでは」と問題提起をしたのです。
国連環境計画・金融イニシアチブは、1992 年に設立された国連環境計画と世界の200社以上の金融関係機関とのパートナーシップです。ちなみに2003年には金融イニシアチブ東京会議が開催され、「持続可能な社会の実現に向けての東京原則」が確認されています。
この問題提起に対し、2004年と2006年にレポートが出され、大きな反響を呼びました。
その結論は「ESG問題は投資ポートフォリオの価値に重要な影響を与えており、株主価値にとどまらない企業価値にも影響し始めている」というものだったのです。
こうして、機関投資家をはじめとする世界の投資家がその投資判断にESGという切り口を反映することで、資金の流れが大きく変わるきっかけが生まれたのです。