エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

第7回

環境問題を「伝える」ということ

 

 同時通訳者、翻訳者、環境ジャーナリストなど、私はさまざまな活動をしていますが、すべてに共通するのは、「伝えること、つなげることで、望ましい方向へのうねりをつくっていきたい」ということです。
 日本にはたくさん海外の情報が入ってくるけれども、日本の情報はほとんど海外に出ていっていない、いわば「情報の輸入過多状態」にあることをつねに実感していました。「日本からの情報がない」ということは、海外から見ると、「日本では何もやっていない」ことになります。
 もちろん日本にも、英語版の環境報告書を作成している企業はたくさんあり、英語ページを用意している政府や諸団体のホームページもたくさんあります。しかし、「情報が存在している」ことと、「その情報が使ってもらえる人に届いている」ということは、まったく別物です。

日本から環境情報の発信を

 せっかく日本ではよい取り組みがたくさんあるのに、世界に伝わっていないのはもったいない――そうした思いから、2002年8月、ジャパン・フォー・サステナビリティ(JFS)というNGOを仲間と立ち上げました。以来6年間、「こういう社会になってほしい」という、持続可能な社会を垣間見せてくれるポジティブな情報を、多くの法人会員や個人サポーター、ボランティアの方々の支援や協力を得て、世界189ヵ国に毎月30本発信し続けています。
 海外への発信に限りませんが、どのような情報発信であっても大切なのは「伝え方」です。情報を伝えるとは、人にモノを渡すことに似ています。手の小さな人に大きなモノをそのまま渡すことはありませんね。小さく分けて渡してあげます。小さな子どもには、かがんで目線を合わせて渡してあげるでしょう? 情報発信も同じように、「どうしたら受け取りやすいか?」を考えながら差し出すこと――これが伝え方のポイントです。
「伝える力」は、個人でも組織でも、意識し、練習していくことで、向上します。「今回はどのように伝えようか」と計画し、それを実行したあと、何がどこまで伝わったかを振り返り、次の伝え方を計画するというPDCサイクル(Plan-Do-Check)を回していくことで、より効果的に効率的に伝えられるようになっていきます。
 また、伝えるときには、氷山の一角のような単なる「出来事」だけではなく、その出来事を含め、どのような「傾向やパターン」があるのか、そしてその傾向やパターンをつくり出している「構造」はどのようなものなのか、そこまで切り込んでいく分析や解説も併せて出していくことが重要です。特に異文化間の情報のやりとりは、文脈がわからないと、その情報が正しく伝わらなかったり、役に立たなかったりする場合がよくあります。

「希望の泉」を届け続けよう

 日本と世界との情報のやりとりには、3つの段階があると考えています。最初の段階は「輸入」です。日本は明治時代以降、海外から情報を輸入するというモデルをつくり上げてきました。いまでも大部分の組織や人々は、無意識のうちに「輸入」中心の情報のやりとりを考えています。
 第2段階は、日本からの情報を伝えたり、海外からの情報へのフィードバックを返すといった、日本からの発信です。JFSの活動がまさにこれに当たります。
 そして、今後求められる第3段階は、単なる「教えてもらったり教えたり」を超えて、それぞれが持てるものを持ち寄って、新しいパラダイムや価値観をつくり出していく「共創型コミュニケーション」です。いま自分たちはどの段階にいて、どの段階を目指しているのか、そのためにどのような取り組みが必要かを考えながら進めていく必要があります。
 環境問題に関して言うと、残念ながら、これから温暖化をはじめ、状況は悪化していくでしょう。そのなかで、あきらめたり、絶望感に陥ることもあるかもしれません。それでも日本からは、毎日ポジティブな動きを伝え、混迷を深める世界にあって、いつも希望と夢と元気がこんこんと湧き出している泉のような活動を続けていきたいと思っています。
 なお、JFSの活動にご興味のある方は、事務局へメールを下さい。折り返し、ボランティアやサポーターのご案内を差し上げます。
info@japanfs.org
http://www.japanfs.org/index_j.html

2008年10月号

 

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