エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

第10回

バックキャスティングでビジョンを描こう!

 

 思い立ったらいつでもいいのですが、これから年末年始にかけて特によいタイミングなので、ビジョンを描こう!という話をします。
 だれもが、ある変化をつくり出したいと思って活動しています。「温暖化を何とかしたい」とか「幸せに生きたい」と思って、何かをやっているのだと思います。それが達成できた時に、最終的にどういうところに行きたいのか?――これを考えるのがビジョンづくりです。ビジョンには、大きく分けると二つのつくり方があります。
 一つは「フォアキャスティング」といって、現状からスタートする方法です。「今、この問題があるからこうしよう」「今、こういう制約があるからこれはできない。だからこれにしておこう」など、現状立脚で進めるやり方で、日本の政府や企業の多くはこのアプローチを取っています。
 それに対して、ビジョン型の国では「バックキャスティング」という方法をよく用います。今の状況や課題がどうであれ、それを一回脇に置いておいて、「すべて思うとおりになったら、どのような姿にしたいのか?」と考えます。今、何ができる、何ができないではなく、「本当にどうあるべきか」を考えるのが、バックキャスティング型のビジョンづくりなのです。そうして、「理想的なあるべき姿」をつくってから、現時点を振り返り、そのギャップを埋めていきます。
 温暖化についても、ヨーロッパの国々では2007年初頭に「2020年には温室効果ガスの排出を90年比で20%削減する」という合意に達し、アメリカですら、「2050年には70%減らす」ということが検討されています。
 今できるかできないか、必要な技術があるかないかではなく、2050年には70%減らさなければ、温暖化は手のつけられない状況になるのです。ですから、それを「あるべき姿」として、そこから今を振り返って、「では2050年に70%減らすには、今何をすればいいのか?」を考える。私はこれこそあるべきビジョンの立て方だと思うのです。
 残念ながら日本政府や経済界は、なかなかそうした発想になりませんでしたが、2008年6月に福田元総理から示された「福田ビジョン」は画期的なものでした。2050年までの長期目標として、温暖化ガスの排出を現状から60~80%削減しようというのです。大げさな言い方かもしれませんが、この発表は「フォアキャスティング型政治」から「バックキャスティング型政治」への、日本の政治史に残る大転換だったのではないかと思います。

自由に想像力をふくらます

 今は国の話をしましたが、地域でも、組織でも、個人でもまったく同じことがいえます。例えば、「この地域を30年後、どのような町にしたいのか?」「この大学は20年後に社会でどういう役割を担っていたいのか?」「私自身は5年後にどういう自分になっていたいのか?」――バックキャスティングは、自分のことを考えるためにも、いろいろな組織や社会、地球全体を考えるためにも、とても役に立ちます。
 まず、将来のある一点を想像します。自分や組織に意味のある一点がよいでしょう。「自分が○歳になった時」でも、「このプロジェクトが完了した時」でも何でもよいので、将来のある一点を想像します(その時点がやりにくかったら、後で変更すればいいだけですから、仮に決めて進みましょう)。
 そして、その時の自分(たち)を想像します。例えばマスコミが取材に来て、「あなたは今どんな活動をしているのですか?」とマイクを向けられた時に、何と答えたいかを想像します。プロジェクトが終わってみんなで打ち上げをしているところを想像してもよいでしょう。みんなで「よかったね。これができたね」と言って祝っている、その「これ」が何かを想像するのです。
 私が講演などでバックキャスティングについて話し始めた8~9年前は、この言葉を知っている人はほぼ皆無でした。今では政府でも「バックキャスティング」という言葉は使うようになっていますし、あちこちでバックキャスティングを意識した取り組みも広がりつつあり、心強く思っています。
 2009年の「一年の計」はバックキャスティングで始めてみませんか。バックキャスティングのビジョンづくりも、新しいスポーツと同じく、最初はぎこちなくやりにくいかもしれませんが、やっているうちに慣れてきて、やりやすくなってきます。
 さあ、2009年の12月31日がやってきました。そのときあなたは、今のあなたとどう違っているのでしょう? あなたの組織はどうでしょうか? 何が増え、何が減り、何が変わっているのでしょう?
 ビジョンづくりに正解や間違いはありません。まったくの想像力の世界です。どうぞ自由に夢を描いてみてください!

2009年1月号

 

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