温暖化と食の安全。どちらも大切な、そしてよく耳にするようになった話題ですが、この二つを結びつけて語られることはあまりありません。
ところが、全世界の温室効果ガス排出の18%は、畜産業関連から排出されていると言われています。毎日のように肉を食べる私たちの食生活が、いかに温暖化と結びついているかがよく分かる数字ではないでしょうか。この問題に関して、シューマッハ協会のニュースレターに興味深い記事が載っていました。アメリカの有名な著述家であり、環境分野を中心とした活動家であるアンナ・ラッペという女性がこう言っているそうです。「温暖化については人々の間で広く認識されるようになってきました。でも、『食』が温暖化問題の一因であるとか、その解決策の一つであるということは、今はまだ人々に認識されるまでになっていません」と。
アンナによれば、食糧生産に起因する温室効果ガスの総排出量は、全体の31%に上ります。二大要因として彼女が挙げているのは、家畜生産と、世界中のスーパー、ホテル、レストラン向けに農産物を供給している化学物質と化石燃料に依存する大規模農園です。使用される化学物質は化石燃料由来で、肥料には窒素系が使用されるこうした農園は、化石燃料がないとやっていけない仕組みになっていると言います。
そこでアンナは、同僚とともに気候に優しい食事法を編み出しました。彼女が強調する5つの重要な点は次の通りです。
まず、化石燃料を使って工業的に生産された農産物は買わないようにすること。2つめは肉の消費量を減らすこと。3つめに、加工品ではなく、食材を丸ごと自然な状態で食べること。4つめに、地元の農産物を買うこと。これによって、輸送にかかるエネルギーを減らせます。最後に、簡易包装の食品を買うこと。こうしたシンプルな食生活を心がけることで、温暖化への影響を少しでも減らすことができるのです。
国内外に広まる地産地消
アンナの提案に呼応するかのように、今アメリカでは「ロカボア(locavore)」が大流行しています。「地元」を意味する「local」に、食べる人(動物)を意味する接尾語の「vore」をつけたアメリカ生まれの造語です。「地元でつくられたモノを食べる人」という意味で、いわばアメリカ版地産地消。ある消費者グループが2005年に提唱し始めたlocavoreという言葉は、2007年末、新オックスフォード米語辞典の「今年のことば」に選ばれたほど、注目され、広がりつつある動きなのです。
このグループによれば、アメリカ人が食べている食べ物は、産地から食卓にたどり着くまでに、平均2400キロもの旅をしています。食料供給のグローバル化が進み、長距離輸送することで、大気汚染や地球温暖化の一因となり、安い食料を大量に栽培するための大規模な単一栽培が生態系へダメージを与えるなど、多くの弊害が生じています。ところが、この代償はレジでは支払われないため、私たちのほとんどはそうした弊害に気づくことがない、と彼らは主張しています。
そこでこのグループは、半径100マイル(160キロ)で取れる地元産の食材を食べようと呼びかけています。コミュニティ支援型の農業や、農家の直売所を応援することで、地産地消を行う範囲、「食域」を開発する基盤を築こうとしているのです。私たちは、ある「食域」内に暮らしていることを意識すると、その地域へのつながりと責任感が生まれます。「食域」は、その土地に暮らし、土地の恵みによって生かされているという生物学的、社会的な現実に、自分自身をしっかり根付かせてくれる「場」を与えてくれる、とする彼らの提案は、私たち日本の暮らしにもそのまま当てはまりそうです。
日本でも、地産地消を応援する取り組みがいくつもあります。たとえば有機農産物の宅配で有名な「大地を守る会」では、2005年から「フードマイレージ・キャンペーン」に取り組んできました。「フードマイレージ」とは、食べものが運ばれてきた距離のことです。輸送の際に出るCO2を「poco(ポコ)」という単位で表し、食べることとCO2排出のつながりを分かりやすく伝えようとしているのが、このキャンペーンの特徴です。
例えば、国産アスパラガス1本を買ったときは0.01pocoですが、輸入アスパラガスでは1本3.41pocoにもなります。自分のpocoを減らすには、できるだけ近くで取れたものを食べるのがいちばん。キャンペーンのウェブサイト(http://www.food-mileage.com/)では、毎日のpocoを簡単に計算できます。こうしたツールも利用して、楽しみながら地産地消を目指してみてはいかがでしょうか。
*「ロカボア」の詳細はこちらから(英語のみ)。http://www.locavores.com/
2009年7月号