経済を見ても、社会を見ても、気温や季節のずれを考えても、「何かおかしい」「このままじゃいけないんじゃないか」と思っている方は多いことでしょう。
環境問題に関するニュースは巷にあふれています。しかし、そのほとんどが断片的な情報です。地球の状況が全体的に悪化していることは感じられますが、そもそもなぜ、あらゆる側面で状況が悪化しているのか、その根本的な構造は伝わってきません。まるで、モグラたたきのモグラがぴょこぴょこ頭を出す様子が伝わってくるだけで、次々とモグラが飛び出してくる仕組みや構造までは伝えてくれないのです。
この連載の第1号(2008年4月号)で「システム思考」という考え方をご紹介しました。物事や状況をその表面だけでとらえるのではなく、見えないものも含めて、さまざまな部分がからみ合った全体をシステムとして見るアプローチです。私たちの目に見える部分はごく一部であっても、地球や私たちの暮らしや、組織の中のさまざまなものは、ほかのさまざまなものに影響を与えたり与えられたりして依存し合っています。いろいろな要素がつながったシステムだからこそ、その場限りの近視眼的な取り組みでは、なかなか問題を本質的に解決することが難しいのです。
『成長の限界』という本が1972年に刊行されて30年以上が経ちました。この本は、地球の人口、経済、環境などが、相互にどのような影響を与えるかについて、システム思考に基づくシミュレーションを行った研究成果をまとめて出版されたもので、世界的なベストセラーとなり、日本でも多くの人々に影響を与えました。
私がこの本を最初に読んだとき、水晶玉を向こうからのぞいているような気がしました。「このままだと30年後にこうなるよ」「このままだと2000年にはこうなるよ」といったシナリオが書いてあるからです。
たとえば、「2000年にはCO2の濃度は380ppmになる」というシナリオがありました。残念ながら大当たりです。人口は、シナリオにあった70億よりは少し低めですが、かなり近いところまできています。このように、30年後に起こりうるシナリオが、いろいろなシミュレーションの結果として書かれている本を、その「30年後」を超えた私たちが読むことは、とても大きな学びがあり、同時に深く考えさせられます。
『成長の限界』が出された20年後に、新しいデータを盛り込み、当初のモデルとその後の実際のデータを比較した『限界を超えて』が出版されました。さらにそれから10年以上経った2004年に『成長の限界―人類の選択』が出版されました。最初の本に比べると、いろいろな説明やデータを加えてわかりやすく書かれていますが、地球の現状とメッセージは30年前と変わっていません。
愛することと環境問題
ではいま、私たちに何ができるのでしょうか。『成長の限界』の主著者であるドネラ・メドウズさん(故人)は、「私たちに必要な5つのこと」を挙げています。ビジョンを描くこと、ネットワークをつくること、真実を語ること、学ぶこと、そして愛することです。
「愛することと環境問題がどう関係するんだろう?」と不思議に思う方もあるでしょう。ドネラさんのいう愛とは、自分以外の人やモノを、自分のことのように感じられる力のことです。自分以外の人や家族、土地、国、地球全体が、自分と密接に結びついていて、そうしたすべての人やモノが幸せにならない限り、自分もまた幸せにはなれないと感じる力です。
こうした「つながり」を多くの人に伝え、社会に変化を起こすため、ドネラさんは研究者からジャーナリストに転身し、物事の本質的な構造や本来あるべき姿を伝える珠玉のエッセイをたくさん残しました。有名になった『世界がもし100人の村だったら』も、彼女のエッセイが原案となって世界中に広まっていったものです。
私は「ドネラさんのこうしたメッセージを伝える本を出したい!」という思いを長年温めてきました。そしてつい先日、ようやくその願いがかない、1冊の翻訳書にまとめることができました(写真参照)。
彼女は、私たちがこれまで考えてもいなかったつながりを鮮やかに示し、揺るぎのない地球の原理原則や私たち人間の傾向や陥りやすいわなを、鋭く優しくわかりやすく伝えてくれます。本質的な解決に向けて取り組みたい方、モノの見方や考え方をどう変えればよいのか知りたい方、ドネラさんの残してくれた導きを手がかりに、望ましい未来を探してみませんか。
2009年11月号