○2020年の望ましい日本
前回は「このままの状態が続くと?」という日本の10年後を描いたが、今回は、こういう日本にしたい!と私が思う「2020年の日本の姿」を描こう。
2020年。この10年間で日本は大きく変わった。10年の段階で「20年は50年に温室効果ガスを80%削減するための一里塚にすぎない」ことを認識し、議定書の単なる帳尻合わせのために他国に資金を流出させるのではなく、国内での削減にしっかりと投資し始めたからである。また「日本にとっての大問題は、化石エネルギーのピークの到来とそれに伴う食料問題でもある」こともしっかり認識して、脱化石エネルギーの取り組みを進めてきた。
○スマートグリッド普及
各地域では、人口減少や高齢化の進む中、どうしたら福祉サービスを提供する行政の負担を減らしつつ地域の人々の幸せを最大化できるかの設計を行いながら低炭素都市づくりを実践してきた。
つまり、国際交渉や他国を待つことなく、日本がしっかりと自分の足で立てる国になるために、この10年間を費やしてきたのだ。
最も力を入れたのがエネルギーだ。太陽光だけではなく、洋上を中心とした風力発電、地熱やバイオマス、太陽熱などの利用を進めると同時に、間欠性のある自然エネルギーを広く受け入れられるよう、スマートグリットが全国規模で整備され、各地で自然エネルギーの開発が進んでいる。
人々の移動手段は、公共交通やカーシェアリングが主であり、自動車はほぼ電気自動車(EV)である。かつての「ガソリンスタンド」は今では、太陽光パネルや風力タービン、バイオマス発電所からEVに燃料を給電する場所だ。
○地域経済にも好循環
こうしてエネルギーの脱二酸化炭素(CO2)化を進めた結果、エネルギー消費量とCO2排出量を切り離すことができ、日本の産業界はペナルティーなく経済活動を増大できるようになり、日本経済は大変に元気である。
職住近接型の都市づくりも進んでいる。通勤によるCO2だけではなく通勤時間も減ったため、家族との時間が増え子育てがしやすくなり、出生率も上昇している。人々が地域に戻ってきたので、祭りや商店街も活性化し、地域でのモノやお金の循環が、ますます地域を元気にするという好循環が回り始めている。手入れができずに荒れていた各地の森林も、今では林業がバイオマスエネルギー産業にもなったため、活況を呈し、森に人と誇りが戻ってきている。
電力業界では「電力販売量」ではなく、「家庭に提供する快適さ」が収益に結びつく仕組みに変わったため、各社はいかに最少の電力で最大の快適さを提供できるかにしのぎを削っている。
住宅はすべて二重窓である。省エネの上に、冷気や結露、騒音も解決し、静かで快適な暮らしだ。家電製品は、スマートメーターで互いにつながり、トータルに快適さを提供しながら省エネを図っている。省エネとエネルギー転換を進めていくことで、50年には日本の家庭から排出されるCO2はゼロになると目されている。
○国際競争力の源泉に
日本の産業界は、あらゆる高性能の製品をシステムとして組み合わせて提供することで、あらゆる場面のCO2を減らせる力を擁しており、それが日本の国際競争力の大きな源泉となっている。日本政府や日本の企業は、今では「世界の必殺CO2削減人」と呼ばれ、世界各地からの依頼や注文が引きも切らないのである。
人々には笑顔と自信が戻っている。将来世代への罪悪感を抱くことなく、暮らしや経済活動を営むことができ、たとえ石油がなくなっても、二酸化炭素の制約がさらに厳しくなっても、日本はやっていけるという自信に満ちている。世界の日本を見る目も変わった。本当の意味で低炭素社会・持続可能な社会にシフトしてきた日本は真の国際的リーダーなのだ。
いかがだろうか? 国も地域も、企業も家庭も、「こういう姿にしたい」というバックキャスティング型のビジョンを描き、取り組みを大胆に進めていく10年になることを願っている。