エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

2010年03月17日

価値観の「三脱」に注目 新しい時代へ

 

○見えてきた「天井」

昨今の不景気をどうとらえるか?
 「景気循環だから今をしのげば元に戻る」という企業人もいるが、通常の景気循環とは違う「移相」の局面だと私は考えている。
福田康夫元首相の「温暖化に関する懇談会」に参加していた時、元日銀総裁の福井俊彦委員が「この国際金融市場の混乱は、世界経済全体として地球環境資源やエネルギー資源の絶対的な天井を意識し始めた途端、マーケットがそれまでの経済の動きあるいはその過剰部分に急ブレーキをかけ、次の長期的な均衡を探る努力を促している現象である」と見立てられた。
温暖化に関する「絶対的な天井」は森林・土壌や海洋が吸収できる二酸化炭素(CO2)量だ。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次報告書では「人間が化石燃料を燃焼して排出するCO2は年間72億炭素トンで、地球の現在の吸収量は年間31億炭素トン」。実際には平衡によってその天井はさらに下がっていく。「数年後にはピークオイルが到来する」とする研究者も多い。国際エネルギー機関(IEA)は去年8月、「主要油田の大半はピークを過ぎており、世界全体でも10年以内にピークが来る。従来の見通しは甘すぎた」と発表した。
「地球の限界を超えた世界」が明らかになるにつれ、人々の価値観が変化しつつあることを企業はどのくらい理解しているだろうか?
「買わない消費者」が増えていることも、その一つの現れだろう。少子高齢化に伴う「消費者」の数が減っていくだけではなく、「モノの豊かさ」より「心の豊かさ」が大事だという人が増えている(特に都市部、男性より女性に多い)。心の豊かさを大事にしている人たちが、数ヶ月ごとに登場する新製品をどんどん買うだろうか?

○所有からシェアへ

 人の価値観は割と簡単に変わるものだと思っている。欧米でカーシェアリングが広がり始めた2000年、私が配信している「環境メールニュース」で紹介したことがある。反応の大半は「日本人はきれい好きだからだれが使ったかわからないモノは使わない」だった。しかし今、カーシェアリングは日本でも広がっている。「○○はこういうものだ」という無意識の前提(メンタルモデル)に気づき、それを緩める力は、これからの企業に不可欠である。
現在、新しい動きとして私が注目している3つの「脱」がある。一つは「暮らしの脱所有化」だ。自動車所有者や所有したいという人が(特に若い層で)減っている。本もCDも、洋服も家だって、所有するより貸し借りや共有(シェア)して暮らす人が増えている。新刊を買って読んだらすぐにブックオフで売る。ブックオフは現代版貸本屋なのである。
もう1つは「幸せの脱物質化」である。これまではモノを買うこと、持つことが幸せだと考えられていた。しかし、自分の幸せを人とのつながりや自然との触れあいなどで定義する人が増えている。農への関心が高まり、キャンドルナイトを楽しむ人が増え、日本でも隣人祭りが広がっている。

○変化とらえて進化を

そして、「人生の脱貨幣化」である。これまでは会社に時間を捧げて代わりにお金をもらい、それをもとに人生を設計するのが普通だった。しかし「半農半X」などの新しい生き方を選ぶ人が増えている。自分と家族が食べる分は農業でまかない、残りの時間は自分のやりたいこと(ミッション)に費やす。私の友人にも「半農半作家」「半農半NGO」がいる。お金をすべてのベースにしなくてもよいではないか、という人生設計だ。
私自身も小さな会社を経営しており、コンサルなどで企業のお手伝いもしている。常に思うのは、「企業とは社会が必要とする限りにおいて存続できる」ということだ。そして、社会が求めることは時代とともに変わっていく。
時代が変わり、社会の要請が変わったことに気づかず、旧式のビジネスモデルにしがみつく「現代版ラッダイト」になるのではなく、新しい時代と社会の要請に対応する「新しい経済」とそれに抵抗する「古い経済」の戦いの時代を、たくましくしなやかに進んでいける企業こそが次の時代のリーダーとなると信じている。

 

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