エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

2012年05月14日

「ゼロ成長ケース」も議論しよう (2012年5月9日掲載)

 

 2030年までのエネルギー基本計画に向けての基本問題委員会で、画期的な展開がありました! 

 電源構成に議論が集中しがちですが、エネルギーの供給方法の前に、必要となるエネルギー量を考える必要があります。

 エネルギー需要を見通すためには経済規模を想定するのですが、当初は「内閣府試算を元に、①2010年代の実質成長率を1.8%、2020年代を1.2%とする成長戦略シナリオ、②2010年代の実質成長率を1.1%、2020年代を0.8%とする慎重シナリオを設定」でした。

 これに対し私は「実際以上に高い経済成長率を見込むと、将来存在しないエネルギー需要を見込むことになり、事業者の投資判断を誤らせるなどの弊害が出る」「今後の日本は人口(労働人口)の減少速度が世界で最大になるため、GDP成長率は他の先進国を下回り、経済規模は縮小していくという現実を直視した議論が必要」と述べました。
 
 日本の労働力人口は2000年~2030年に1,300万人(19.2%)減と予測されています。この状況下でGDPをグングン増やすのは、希望的観測(そうしないと年金問題が困る等)であっても、現実的でしょうか?

 私たちが経済的に豊かな生活を送れるかどうかは、GDPではなく一人当たりのGDP次第でしょう。日本のGDPを100とするとドイツは60、フランスは47、英国は41、スウェーデンは8ですが、これらの国は「豊かではない国」でしょうか?

 そこで「目指すのは規模ではなく、豊かさ・幸せ。エネルギー需要を見積もる根拠をGDPから一人当たりGDPへ」と提案しました。

 2000年~2010年のGDPは年率0.74%、一人当たりGDPは年率0.65%で成長しました。今後一人当たりGDP成長率がこの10年のペースで続くとすると、GDP成長率は2010年~2020年は年率0.3%、2020年~2030年は年率0.0%となります。

 現行のエネルギー基本計画の想定では2030年の実質GDPは2010年の1.4倍になりますが、上記の想定なら3.7%増。必要なエネルギーが1.4倍近くになるのに比べ、より望ましい供給方法を考えやすくなります。

 BNPパリバ証券チーフエコノミストの河野委員も根拠を示しながら「経済成長はゼロ近傍に近づく。内閣府の慎重シナリオは最大シナリオと考えられるので、真の意味での慎重シナリオとしてゼロ近傍の成長を置いてもよいのではないか」と発言されました。

 この議論を受け、発電電力量の見通しのベースとして、「委員提案ケース」(一人当たりGDP成長率維持、2010年代の実質成長率0.3%、2020年代0%)も追加されることになりました!

 政府委員会の議論に「ゼロ成長」ケースが入ったことは、大きな一歩ではないかと思っています。

 

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