第3回
GNH(Gross National Happiness)
【GNH(Gross National Happiness)】
ここ数年、多くのメディアで取り上げられ、読者のみなさんも、ヒマラヤ山脈東部の小さな国、ブータンについて一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
そのブータンを語るうえで、必ずといっていいほど登場するのが、「GNH(国民総幸福)」です。
この言葉は、1976年、ブータンの第4代国王ジグミ・ シンゲ・ワンチュクが21歳のときに、GNP(国民総生産/Gross National Product)のProductをHappinessに置き換え、これからは、物質的・金銭的豊かさではなく、精神的な豊かさを目指すGNHが重要だと提唱したことから始まります。
最初は国づくりのための"哲学"でしたが、それを基盤とした社会づくりを確かなものにするために、国立の研究機関がGNH指標の開発を重ね、世界で初めて国民の幸福度を測る9分野からなる指標を完成させたのです。
このように、国づくりの目標を国民の幸福実現に置くGNHを考えるうえで、私たちが気をつけなければならないことがあります。
それは、あらゆる国にあてはめられる統合指標であるGDPやGNPと同じ感覚で、GNHをものさしのように扱う危険性です。
経済成長至上主義に幸せを取り入れる意味では代替ですが、単一指標として国家間で比較したり、他国の指標をそのまま使うのでは、意味がありません。
なぜなら、GNHは結果よりもプロセスが大事だからです。GNHは幸せが万国共通に定義できるものではないという前提のうえに立っており、地域や宗教観などによっても異なります。
たとえば、ブータンのGNH指標に「方言を使っているか?」という項目があります。
それは国民が、地域に根付く方言で自分の意見を話せることが幸福追求に必要な条件だと考えているからです。GNHとは、国が、国民一人ひとりが定義する幸せを追求できる環境をどのぐらい用意できているのかを測るためのものであり、それを政策にどう生かしていくかが、鍵となるのです。
日本国民1億何千万人の幸福というと規模感が大きすぎますが、自分が暮らす町の肌感覚でわかる幸せだと、身近に考えられるのではないでしょうか。
それぞれの家族や町で"MY指標"を作って、私たちの描く幸せに近づける社会になるといいですね。