「あなたは何を求めて生きていますか?」そう聞かれたら、あなたならどう答えますか?
「生きがい」「快適な暮らし」「自分らしくあること」「健康に元気に楽しくいられること」......表現は多種多様でしょうが、たいていは「幸せ」という大きなカテゴリーに入れられそうな答えが多いのではないでしょうか。「お金」という答えもあるでしょう。でも、その場合も、多くの人にとっては、お金はあくまでも「手段」であって、「目的」ではないのだと思います(ただお金を集めるのが好き!という「お金のコレクター」もいるかもしれませんが!)
GDP成長率と幸せの指標
「お金がないと衣食住にも事欠くので、幸せどころではない」「だからまずお金が必要だ」――これまで私たち個人、ひいては国の多くが世界中でこう考えてきました。その考えに基づき、途上国は「わが国の国民一人あたりGDP(国内総生産)は先進国の数十分の一しかない。貧困を克服しないことには、温暖化対策などの次のステージには進めない。まず経済発展が必要だ。そのために先進国は資金と技術を供与すべきだ」と主張しています。
私たちが生きている目的(=人間を支えるための社会や経済の目的)は元来「幸せ」だったはずなのに、「そのための手段」「幸せ自体は測れないから、近似値として」、という理由でお金(給料や企業の売上・利益など)やお金を生み出す経済成長(GDP成長率)が人々の指標となり、私たちも大してそれを疑うことなく、受け入れてきたのでした。
ノーベル経済学賞を受賞した経済学者ジョセフ・スティグリッツ氏は、「私たちが何を測るかが、私たちの行動に影響を与える。もし間違った指標を使っていれば、間違ったことのために努力することになるだろう」と言っています。
「何を指標にするか」は私たちの行動や価値観に影響を与え、社会や経済のしくみを形づくる強い影響力を持っており、実は慎重に考える必要があるのです。
国民総幸福とは何か
先進国はもちろん、世界中がGDPを指標として、「いかに経済を成長させるか」に腐心してきたわけですが、ここ数年、少し風向きが変わりつつあります。
2009年には、英国政府の委員会から、右肩上がりの経済成長がない世界で、国の繁栄と国民の幸福を達成するための政策ステップを示した「成長なき繁栄」レポートが出され、フランスでもサルコジ大統領の諮問委員会(委員は米コロンビア大のジョセフ・スティグリッツ教授ら)が、従来のGDPを見直し、幸福の指標を導入することを薦める報告を出しました。
日本でも2010年末に閣議決定された「成長戦略」に幸福度指標を作成する旨が盛り込まれ、2011年末に内閣府から幸福度指標試案が出されました。
(「幸福度に関する研究会報告 幸福度指標試案」(2011年12月5日、内閣府・幸福度に関する研究会)より)
そして、はるか40年前から「国民総生産より、国民総幸福のほうが大事だ」と国づくりの土台に「幸せ」を据えてきたのが、昨年秋の国王夫妻訪日で一躍注目と好感度の高まったブータンです。
先代国王がまだ20代だった頃、先進国の経験やモデルを研究した結果、「経済発展は南北対立や貧困問題、環境破壊、文化の喪失につながり、必ずしも幸せにつながるとは限らない」という結論に達し、経済規模ではなく、人々の幸せの増大を求めるGNH(Gross National Happiness)という考えを打ち出したのです。
このGNHという概念のもと、ブータンでは、1)経済成長と開発、2)文化遺産の保護と伝統文化の継承・振興、3)豊かな自然環境の保全と持続可能な利用、4)よき統治 の4つを柱として開発を進めています。ブータン研究センターでは「暮らし向き」「文化」「心の健康」「健康」「教育」「時間の使い方」「生態系」「コミュニティの活力」「良い政治」の9つの要素から成るGNHの指標づくりが行われています。
(枝廣淳子他著「GNH(国民総幸福)-みんなでつくる幸せ社会へ」(海象社)より)
さきほど「お金がないと衣食住にも事欠くので、幸せどころではない」と書きましたが、本当にそうなのでしょうか?
次回以降、ブータンやツバル、ボルネオ島での経験や、日本の各地に広がりつつある動向から、これまでとは違う考え方・生き方・社会や経済のあり方を考えていきたいと思います。どうぞお楽しみに!