エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

2013年03月06日

モノで幸せは得られない?

 
キャンドルナイトに見る「モノのオフ」 この数年間大きなうねりとなりつつあり、3.11後加速していると思われる日本の新しい価値観の表出(「三脱」)のひとつとして、前回は「暮らしの脱所有化」について書きました。 今回は2つめの「脱」である、「幸せの脱物質化」です。これまでは、「モノ」を買うこと、「モノ」を持つことなど、物理的な「モノ」が幸せの源泉だと信じられていたといえるでしょう。だから、「ブランド」や「ショッピング」などが幸せにつながると思われていたのです。 もちろん、今でもそういう価値観を抱いている人もいますが、しかし、そういった「モノ」よりも、「人とのつながり」や「自然とのふれあい」などに幸せを感じる人が増えているのが近年の特徴ではないかと思っています。 たとえば、10年ほど前に始まった「100万人のキャンドルナイト」という取り組みがあります。 私も呼びかけ人代表のひとりですが、「でんきを消して、スローな夜を」というスローガンのもと、「夏至の夜の8時から10時までの2時間、電気を消してロウソクの灯りの下、自分自身や大事な人とゆっくり過ごそう」という呼び掛けるものです。 「省エネ」や「反原発」などの政治的なメッセージを超えて、「でんきを消して、スローな夜を」それぞれに楽しんでみよう、という幅の広い趣旨が多くの賛同を集め、今では約1,000万人が参加しているといわれるほど広がっています。 キャンドルの灯りの下で、食事をする。音楽を聴く。お風呂に入る。地域で行われているイベントに足を運ぶ人もいれば、テレビのない静かな夜を思い思いに楽しむ人もいます。いつもの日常とは違う2時間を過ごすことで、自分のライフスタイルを見直すきっかけとなっているようです。 モノや情報を一時的にオフにすることで見えてくる「もう一つの時間」「もっと多様な豊かさの尺度」を社会的な経験として共有しようという自主参加型の文化創造イベントなのです。 2時間電気を消すだけ?という人もいますが、「たったそれだけのこと」を楽しもうという新しいタイプの取り組みであり、だからこそ、多くの人が参加し、楽しんでいるのだといえるでしょう。 キャンドルナイトだけではなく、山ガールが増えていることやマラソンブーム(私も3年前から走り始めました!)、農業ブームも、自然とのつながりに幸せを求める人が増えている証拠かもしれません。 内閣府が行っている「国民生活に関する世論調査」では、1972年から質問項目の1つとして「今後の生活において,これからは心の豊かさか? まだ物の豊かさか?」を聞いています。 下のグラフを見るとわかるように、「物質的にある程度豊かになったので,これからは心の豊かさやゆとりのある生活をすることに重きをおきたい」と答えた人の割合は、1978~79年頃に「まだまだ物質的な面で生活を豊かにすることに重きをおきたい」と答えた人の割合を逆転し、以来、その差は広がる傾向が続いています。 2010年の調査では、「心の豊かさ」と答えた人が60.0%、「まだ物の豊かさ」と答えた人は31.1%でした。 国民生活に関する世論調査.jpeg 2010年度「国民生活に関する世論調査」(内閣府).jpg よく「物はお金で買えるけど、心の豊かさはお金では買えない」と言われることがあります。この調査は「心の豊かさか、物の豊かさか」と主観的にどちらが大切か?を尋ねるものですが、物の豊かさにつながる「一人あたりの所得」や「一人あたりのGDP」と、幸せ度や生活への満足度との相関関係をみた調査もあります。 以下は日本の調査の1つです。 「国民生活選好度調査」(内閣府).jpg 「国民生活選好度調査」(内閣府) 価値観の変化から生まれる、新たなビジネスモデル 生まれたときからlTやソーシャルメディアに囲まれた環境で育ってきた現在の若者たちを「ソーシャルネイティブ」と呼ぶそうです。 アスキー総合研究所の遠藤諭氏は『ソ―シャルネイティブの時代』(アスキー新書)で、ソーシャルネイティブのライフスタイルのひとつを「ビンボーハッピー」と名付け、その「7つ道具」として「無料コンテンツ」「ファストファッション」「リアルのバーチャル化」「シェア(共有)」「価格比較・共同購入」「ソーシャルメディア」「スマートフォン」を挙げています。 ネットや世の中のトレンドに敏感であれば、効率的に必要な情報を得ることができ、あまりお金をかけることなく幸せに暮らせる、ということで、その背景にはものを所有することへの関心の低下(欲しいからといって「所有」する必要はない)、エコ意識やボランティア志向があると指摘しています。 「モノ」を買うこと・所有することから幸せを得るのではなく、人や自然とのつながりやふれあいに幸せを見出す人々が増えている--これが「幸せの脱物質化」と私が呼んでいるすう勢なのです。こういった人が増えていけば、これまでのように「モノ」を売って儲ける、というビジネスモデルではなく、「人や自然とのつながりを創り出し、維持し、そこから幸せを得るお手伝い」が新たなビジネスモデルとなってくるでしょう。 農具やアドバイザーなどを備えた「都市型農園」や、共同農園付きシェアハウス、単なる観光ではなく、自分で汗をかき現地の人とのふれあいを目玉にしたボランティアツアー、自然や環境との共生を実感するエコツアー、入居予定者が時間をかけていっしょに暮らし方のルールを作っていくエコビレッジなどといった新しいビジネスがあちこちで芽生えつつあります。 「人や自然とのつながりやふれあい」「モノによらずに感動を創りだす体験」などは、「モノ」に比べるとそれを作り出すための資源やエネルギーが少なくてすむ可能性が高く、持続可能な暮らしにより近づくと思われます。 目に見える「モノ」より、目に見えない「つながり」を大事にする社会になっていくとしたら、私たちの価値観も、暮らしや生き方を支えるビジネスも、きっと大きく変わっていくことでしょう。
 

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