2013年07月04日
国民総所得と平均年収の関係は?(2013年7月1日掲載)
安倍政権の経済政策「アベノミクス」の3本目の矢である成長戦略で、「1人あたり名目国民総所得を10年後に150万円以上拡大する」という目標が打ち出されました。
この目標について安倍晋三首相は、街頭演説で「私たちは10年間で平均年収を150万円増やす」とアピールしたとのこと。
「国民総所得」を増やす、と聞くと、「国民の所得=国民である自分の収入」が増える、と思ってしまう人も多いことでしょう。
ところが、「国民総所得」と「国民の平均年収」は全く違います。おなじみのGDP(国内総生産)とも異なります。
GDPは、国内の景気や経済状況を見る指標として使われてきたもので、国内で一定期間内に生産されたモノやサービスの付加価値の合計額です。日本企業が海外支店等で生産したモノやサービスの付加価値は含みません。
しかし、グローバル化によって国外で活動する企業も増え、海外投資からの収入も大きくなってきたので、「GDPに海外からの所得の純受取を加えて測る」のが「国民総所得」(GNI)です。ちなみに、2012年度の名目の数字を見ると、GDPは475兆円、GNIは490兆円でした。
ところで、「国民総所得」というときの「国民」とは、私たち一人ひとりの市民だけでなく、企業なども入っていますから、企業の利益なども含まれています。
したがって国民総所得が増えたからと言って、賃金など私たち一人ひとりの年収が同じように増えるかどうかは分かりません。
安倍首相の「平均年収を150万円増やす」という言い方は、個人の収入・所得が増えることを意味しますから、間違いです。言い間違ったのか、「分かりやすく説明しようとしたから」か、よい印象を創り出そうと意図的にすり替えたのか、分かりませんが、いずれにしてもきちんと理解して正しく伝えてほしいと思います。
では、実際はどうなのでしょうか? 国民総所得が増えれば、私たちの年収も増えているのでしょうか?
国民総所得と平均所得金額のこれまでの推移をみると、かつては国民総所得が増えれば平均所得金額も増えていました。
しかし、1990年代後半から国民総所得が増えても平均所得金額は同じようには増えず(減っている場合も)、国民総所得が減っているときには、それ以上の傾きで平均所得金額が減少しています。以前には存在していた両者の相関関係が崩れているのです。
リーマンショック後を見ると、GNIは回復していますが、平均所得金額はさらに落ち込んでおり、国民総所得の増加分が働いている人たちにあまねく回っているわけではないことが分かります。
国民総所得という言葉はこれからもよく出てくることでしょう。その意味するものは何なのか、実際には何が増えて何が減っているのか、しっかり理解し、考えていかなくてはいけませんね。