エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

2013年07月15日

エネルギーを考えることは、幸せを考えること

 

2013kodomonohondana.jpg 2011年3月11日、日本のエネルギーに関する状況は激変しました。政府や電力会社に対する市民の信頼は失墜し、同時に、自宅のコンセントの先には何があるのか、そのリスクはどれほどのものかを目の当たりにして、「自分たちで使うエネルギーのことは、自分たちで考えていかなくては」という意識や関心を持つ人が増えました。

 「日本のエネルギーのこれから」について、国について、そして私たち一人一人はどうすればよいのでしょうか?

 

 

●国レベルではどうすべきか?

 「国のエネルギー政策はその時代の状況に対応してつくられる」ものです。1970年代初めまでは、使いやすさ・価格などの利点から、石油に頼る割合が増加しました。しかし、石油ショックを受けて、エネルギー政策は「エネルギー源の多様化」へと大きく舵を切り、石炭・天然ガス・原子力への移行が進みました。

 

  1990年代に入ると「地球温暖化」問題が台頭し、「できるだけ二酸化炭素(CO2)を出さないエネルギー源を」という時代の要請に対応するため、運転中はCO2を出さない原子力発電を増やす政策になりました。2010年のエネルギー基本計画では「電力のうち原子力の割合を2030年までに50%以上にする」とされました。現在、3.11を受けて、新たなエネルギー政策が議論されているところです。

 エネルギー政策の変遷と電源構成の推移を見ると、時代によってかなり変わってきており、「現状がずっと続くわけではなく、変えたい方向に変えていける」ことがわかります。同時に、だからといって一朝一夕には変えられず、発電所や送電網といった社会インフラを変えるには数十年の時間がかかることもわかります。

 

●エネルギーを考えるとは、幸せを考えること

 今後の日本のエネルギーを考える際には、「何で発電するか」の前に、「どれぐらいの量が必要なのか」を考える必要があります。電力需要は人口や経済規模(GDP)などによって変わります。日本では今後人口が減っていきますが、どの程度の経済規模(GDP)を維持しようとするのか(人口が減ってもなお増やそうとするのか?)が電力需要を左右します。

 つまり、エネルギーについて考えるとは、「私たちはどれだけあれば十分なのか? 幸せのために本当に必要なのは何なのか?」を考えることなのです。「足るを知る社会」と「足るを知らない社会」では、必要な電力やエネルギーの量が大きく異なるからです。

 さて、必要な電力量を考えたあと、「それを何でまかなうか?」です。主な発電方法には火力、原子力、再生可能エネルギーという3つがあります。

 火力発電の原料の化石燃料はいずれも、CO2を大量に排出します。未来世代に温暖化の不安のない地球を残すためには、化石燃料の使用は極力減らす必要があります。

 原発については、いったん事故が起こったときの被害や苦しみは取り返しのつかないものであることを私たちは3.11で学びました。また、原発を使う限り出る核廃棄物をどのように処理すればよいのか、私たち人類はまだその知恵も技術も持っていません。「いずれ技術が解決してくれるだろう」という期待だけで原発を使い続けることは、未来世代に対して無責任だと私は考えます。

 残るのは再生可能エネルギーです。太陽光や風力のほかにも、山の間伐材や廃材などのバイオマス、温泉の多い日本に豊かに存在する地熱など、自然界に存在し、(人間の時間軸では)永久に使える再生可能エネルギーによる発電が技術的にも経済的にも可能になり、広がりつつあります。

 国は、さまざまな奨励策や規制で再生可能エネルギーを促進していくべきです。昨年7月に導入された固定価格買取制度はその政策の1つです。電気料金へのしわ寄せなどのマイナス面を最小にしつつ、できるだけ促進していく必要があります。

 

●私たちひとりひとりは、どうすべきか?

 3.11以降「自宅でエネルギーが作れないか」という問い合わせをたくさんいただき、少しでも情報提供をしたいと、『わが家のエネルギー自給作戦』という本を書きました。災害時などに暮らしに必要なエネルギーが途絶することの恐ろしさを知ったということもあるでしょう。また、現在家庭では電力を選ぶことができず、たとえ温暖化や原発に反対でも、火力や原発の電力を買わざるを得ません(他国では好きな電力を選べるところが増えています!)。そこで「自宅でエネルギーを自給することで、安心を得、未来世代にも迷惑をかけない」暮らしに向かう人が増えているのです。

 そして、「できるだけ節電・省エネ」+「太陽光発電や薪・ペレットストーブなどの再生エネルギー」でエネルギー自給という"夢"はかなり現実的になりつつあります。

 

●新しい時代へ

 これは「新しいエネルギー経済」の台頭でもあります。その特徴のひとつは、エネルギーの「生産者」と「消費者」の区別が消えていくことです。「あなた作る人、私使う人」から、「一人一人が消費だけでなく生産もする」時代へ。一般の家庭でも、自宅で生産した電力を近所や企業に売る時代が来るでしょう。

 そして、それぞれの地域で、企業や自治体、NGO、市民などが一緒になって、その地域にある自然エネルギーで発電し、地域で融通し合う「エネルギー自立地域」が増えていくでしょう。それは、世界情勢やエネルギー価格の高騰にも揺るがない、しなやかで強い地域です。

 地域の人たちが、自分たちのお金で、地域に雇用と産業を生み出しながら、地域で発電し、電力の融通の仕方などをみんなで話し合うことで、地域の人たちが顔を合わせて会話をする機会が増え、笑顔や絆、幸せも増えることでしょう。

 今後のエネルギーを考える鍵は、私たちが「任せて文句を言う」だけの消費者から、一人ひとりが自分の暮らし方や地域のあり方に「引きつけて考える」生活者へと変わっていくこと。それが日本のエネルギー状況だけでなく、私たちの社会や幸せのあり方も大きく変えてくれると信じています。

 

☆月刊「子どもの本棚」  http://homepage3.nifty.com/kodomonohonken/

 

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