今年のブループラネット賞の受賞者が発表されました。旭硝子財団が地球環境問題の解決に向けて著しい貢献をした個人や組織の業績をたたえる賞です。
今年の受賞者の1人、ハーマン・デイリー氏は米国メリーランド大学名誉教授ですが、世界銀行のチーフエコノミストも務めた方です。
その貢献の中でも重要なのは「定常経済」という考え方です。定常経済とは、その規模が一定である経済、つまり「経済成長をし続けない経済」です。
そう聞くと、「経済が死ぬ」「経済が倒れてしまう」というイメージを持つ人もいますが、そうではありません。「活発な経済活動が繰り広げられているものの、その規模自体は拡大していかない経済」なのです。
自転車が同じスピードで走り続けていれば倒れないように、定常経済では、加速することなく経済活動を持続します。
「GDPは毎年成長し続けるべき」と信じている多くの人にとっては、かなり斬新な(?)考え方に思えるかもしれませんね。
4月にワシントンでデイリー氏にインタビューをしたとき、「なぜ定常経済へ移行する必要があるのですか?」と尋ねました。「今の経済成長は、不経済成長になってしまっているからです」「不経済成長?」「ええ、経済成長のマイナス面(限界費用)がプラス面(限界便益)を上回ってもなお経済成長を続けることは、不経済でしょう?」
GDPが1単位成長するごとに、限界費用は増加していくのに対して、限界便益は減少していく傾向があります。費用が便益を上回るのを避けるためには、限界費用と限界便益が等しくなる時点で、GDPの成長を止める必要があります。
そして、今では(環境問題の深刻化などが示すように)経済成長の「費用」の方が生み出される「便益」よりも大きくなっているので、「不経済な成長」になっているというのです。
「なるほど」と思いました。企業は、生産を拡大する限界便益よりも限界費用が大きくなる時点で、拡大をやめます。費用が利益を上回るのにどこまでも生産を拡大する企業はないですよね?
同じ考え方を経済全体にも適用すれば、どこかでその拡大をやめる時点が来る、というのはうなずける話です。
私はこれまで「経済活動が、地球から資源を取り出し、地球に二酸化炭素(CO2)などの廃棄物を吐き出す限り、有限の地球の上で無限の経済成長はありえない」と考えており、講演などでもそう話してきました。今回、デイリーさんから、「では、どこで成長を止めるべきか」にも答えられることを学びました。
人口減少社会に突入し、労働力も国内市場も縮小していく日本は、GDPで測定される経済成長を続けることは難しくなってくるでしょう。
それでも経済成長を続けるためには、労働力の減少率を上回る労働生産性の向上を永久に続ける必要があります。資源の枯渇や温暖化を悪化させずに経済成長を続けるためには、生産性やCO2原単位を永久に改善し続けなくてはなりません。
経済成長を前提に社会の仕組みを作っている現在、すぐに経済成長を止めることはさまざまな問題を引き起こす可能性があります。成長を前提とした社会の仕組みそのものを変えていく必要があると考えています。
定常経済、これからのキーワードの1つです。どうぞお見知りおきを!