エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

2014年07月04日

『365日のシンプルライフ』を今、観る意味

 

出典:映画『365日のシンプルライフ』パンフレット

寄稿:枝廣淳子

 
地球を脅かす原因 

この春、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が「地球温暖化が進行しており、このままでは大変な影響が生じる」という警告を出しました。温暖化だけではなく、生物多様性の危機や水問題など、さまざまな環境問題が世界各地で進行しています。
このような問題の根底にあるのは、「私たち人間の暮らしや経済が、地球が支えられる以上に大きくなってしまった」構造です。「現在の人間活動を支えるのに、地球は何個必要か?」を示すエコロジカル・フットプリントは、現在1.5。つまり、地球1コでは足りないほど、私たちの暮らしや経済が大きくなってしまっているのです。これが温暖化をはじめとするさまざまな地球環境問題を引き起こしている"真の原因"です。

成長と幸福

「地球1コを超えてしまった暮らしや経済の大きさ」は、持続可能性を損ない、未来世代の幸福を奪うだけではなく、現世代の私たちの幸せにもつながらなくなってきています。日本を含む先進国では、これまで進歩の指標とされてきたGDP(国内総生産)が増えても、人々の幸福度は下がり、格差は広がり、失業率は上がっているのです。
私たちは、「成長」と言う美名のもと、規模の拡大を続け、地球1コ分を超えてもなお拡大を続けようとしている現在の経済の構造を変えていかなくてはなりません。それとともに、私たち自身の暮らしを見直していく必要があります。

足し算方式での「考えるきっかけ」

「経済は、大きければ大きいほどよいはずだ。モノをたくさん持っていれば持っているほど幸せなはずだ」――そう信じて、何よりも経済成長を優先してきたこの時代のあり方が行き詰まっている今、「365日のシンプルライフ」は、主人公のシンプルな実験を見守ることで、深く豊かな「考えるきっかけ」を与えてくれます。
日本でも、雑誌では定期的に「モノを片付ける・整理する」特集が組まれ、ここ数年断捨離がブームになりました。これらは、「何が要らないか」から考える「引き算方式」であるのに対して、この映画の主人公は、まず自分の持ち物をゼロにし、そこから「何が要るか」を考える「足し算方式」で1年間の実験を続けたところがユニークです。その結果の主人公の結論に、私もとても共感します。

モノと自分の関係性

日本のダンシャリアンたちも言うように、モノはこころとも強くつながっています。この映画は、モノと人生との関係についても考えさせてくれます。私たちが豊かにしたいのは「人生」ですよね? そのときに何がどれだけ必要なのか、ほしいのか--その選択と決定のたづなを、モノを売りたい企業や広告、他人との比較や競争意識などに任せるのではなく、自分の手に取り戻すこと自体が幸せへの道ではないか。この映画を観終わって、そんなことをしみじみと思うのです。

 

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