環境やエネルギー問題の講演会やセミナーで話をすると、必ず出る質問の1つが、「無関心層にどう対応すればよいでしょうか?」です。
何か大事なことを伝えたいと思っても、そもそも関心がなくて、話を聞いてくれない...。皆さんも同じ悩みを抱いていませんか? 会社のCSR活動について理解して参加してもらいたい、新しい中期計画の本質を伝えたい、など。
私も同じ悩みを抱えています。環境問題でもエネルギー問題でも、講演会やセミナーにいらっしゃるのはもともと関心がある方々なのです。関心のない人は、そういうセミナーには来ません。
もちろん、関心のある方々の知識を増やしたり議論したりするのは大事なことですが、それだけでは世の中の数%から広がっていきません。そのテーマに関心がない人々にどうやって関心を持ってもらったらよいのか?
試行錯誤の中で分かった有効なアプローチの1つは「いろいろな入口を用意する」こと。
人間には、「選択的注意」という、非常に便利な(新しいことを聞いてもらいたいと思っている人にはとても厄介な)傾向があります。関心があることには注意を向けますが、関心がないことには注意を払わないのです。
「エネルギーのセミナー」「環境の本」という「入口」を用意しても、関心のないに人はスルーされてしまうでしょう。
大事なのは、「自分の関心に引き寄せようとするのではなく、その人の関心に出前する」アプローチです。
私が最初に出した環境分野の本は、環境問題に取り組む人たちからは評価されましたが、私にとっては大失敗でした。環境っぽい題名でしたから、書店では「環境コーナー」に置かれたのです。私は関心のない人たちに読んでもらいたかったのに、そういう人たちは「環境コーナー」には足を運びません。
そこで作戦を変更し、次に出した本が『朝2時起きで、なんでもできる!』という自己啓発本でした。早起き、英語の勉強法、キャリア開発などに興味のある人が手に取ってくれる題名と内容の本で、ほんの1ページだけ、自分の環境メールニュースの紹介を入れました。
この本はシリーズで15万部売れ、本を読んで興味を持ち、環境メールニュースに登録した方が数千人いました。これが「トロイの木馬作戦」です。
いま翻訳者育成もやっています。そこで環境について語ることはしませんが、翻訳教材は環境問題のテーマから選びます。翻訳の勉強をしながら、じっくり環境問題について読んでもらっているのです。
「無関心層」にいら立つのではなく、「その人たちの関心事は何か」と考え、こちらが相手の関心事に出向いていくことも大事なアプローチだと思うのです。
伝えたい相手に届いていない気がするとき、「トロイの木馬作戦」、いかがですか?