エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

2014年10月28日

シナリオ・プランニングという手法(2014年10月28日掲載)

 

「シナリオ・プランニング」という手法を聞いたことがありますか? 

 石油危機のとき、シナリオ・プランニングを行っていたシェルが、石油メジャーの下位から一気にトップグループに躍り出たことで知られています。

 シェルはかつて、長寿企業になるための秘訣を研究した結果、多くの大企業の平均寿命は30年ほどしかなく、多くの企業は事業環境の大きな変化に脆弱であることが分かりました。

 長く存続する企業を築くためには、環境変化に対して柔軟な思考や発想で適応する能力が重要ですが、多くの経営者やマネージャーの判断や行動の前提には、「未来に起こることは今までの延長線上にある」という考えが強く根付いていました。
 そのため、後になって「想定外」といわれる出来事が起こったときに、企業の存続が危うくなることが分かったそうです(みなさんの組織ではどうでしょうか?)。

 そこで、メンタル・モデル(意識・無意識の前提)を広げ、さまざまなリスクや機会を想定事項に組み入れるための手法として、シナリオ手法を採り入れたのでした。

 私も政府の委員会で「2030年のエネルギー」を議論しましたが、(私も含め)皆それぞれの立場や考え方から「こういう未来であってほしい」「こういう未来であるべき」という話をするので、意見は集約しませんでした。

 シナリオ・プランニングでは、「あってほしい」「あるべき」未来ではなく、「起こりうる」未来を考えます。そして、どの未来が起こったとしても対応できるよう、適応戦略を実施します。

 シェルのシナリオ・プランニングで活躍したアダム・カヘン氏はその後、この手法をさまざまな事例に展開しています。南アフリカでの「アパルトヘイト後の未来づくり」が有名です。

 1990年、当時のデ・クラーク大統領が27年間にわたる牢獄生活からネルソン・マンデラ氏を釈放、反体制派グループの合法化を宣言したことで、南アの状況は大きく変わりはじめました。少数派である白人与党と多数派である黒人の反体制派が、血みどろの歴史を超えて、共に未来を創っていく入り口に立ったのです。

 しかし、数十年にわたる暴力的対立の歴史、黒人政党間や黒人と白人の間の見解の違いなどから、平和的な政権移行は至難の業だと考えられていました。

 そこで行われたのが、南ア再建のためのシナリオ・プロジェクトです。南アの縮図ともいえる22人の参加者は、今後10年間に起こりうるストーリーを考え、4つのシナリオを作りました。

 そして、「どれが起こっても対応できるように」というのではなく、利害関係者の協働によって、望ましいシナリオが生じる可能性を高め、アパルトヘイト後の南アは平和的移行が実現できたのです。

 社会のみならず、組織にとっても、シナリオ・プランニングという手法は、先行きの見えない時代を進んでいくために必須のアプローチではないでしょうか。

 

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