エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

2014年11月25日

「定常経済は可能だ!」(2014年11月24日掲載)

 

 旭硝子財団が地球環境問題の解決に向けて著しい貢献をした個人、または組織に対して、その業績を称えて賞状・トロフィーならびに副賞賞金5,000万円を贈呈する地球環境国際賞「ブループラネット賞」。今年の授賞式と受賞記念講演が11月12~13日に行われました。

 今年の受賞者の1人は、経済学に自然資本や幸せ・倫理といった要素を組み込み、エコロジー経済学の礎を築いたハーマン・デイリー氏(メリーランド大学公共政策学部名誉教授)。「ハーマン・デイリーの持続可能性の3条件」や「定常経済」といった概念で知られる方です。

 私は、今春にデイリーさんにインタビューをし、その記事を月刊誌『世界』に掲載。さらにデイリーさんの協力を得て、今後の世界、現在の日本に必須の概念である「定常経済」をわかりやすく伝えるための岩波ブックレットを刊行したところです。受賞記念講演でも対談のお相手を務めさせていただきました。

 デイリーさんはブックレット『「定常経済」は可能だ!』の冒頭、「日本は島国ですから、「限界」はより分かりやすいでしょう。日本はすでに人口増加の制限に成功しています。日本人は伝統的に、「もっと、もっと」と量的な拡大をするよりも、良い製品を開発すること、つまり、質的な発展を大事にする人々ですよね。そして、他の西洋諸国の多くに比べて、所得の平等な分配を大事にしようと社会全体が考えている国です。あらゆる国が、限界に直面しており、こういった方向に向かっていかなくてはなりません。"成長の限界にうまく適応する"ことについて、日本は世界の先頭に立っているように思えます」と述べています。

 限界に直面したときの痛みの多くは、「成長しかない」と努力し、限界と闘うことから生じるのではないか、とデイリーさん。

 次の10年が、「失われた30年」ではなく、「持続可能な経済にシフトする10年」になるように、日本が自国の経済を上手にシフトしながら、世界のリード役を務められるよう、何が必要なのか、どうしたらよいのか――。自治体や地域、企業の方々も、「そういう時代になっていくとしたら、自分たちの役割は?」と考えていただけたらと思います。

 なぜ現在の成長経済ではダメなのか。定常経済とはどういうものなのか。シフトするには何が必要か。こういったことに興味のある方、ぜひ『「定常経済」は可能だ!』を手にとって見てください。

 日本は、近江商人の「三方よし」にしても、世界一老舗企業が多いということにしても、理論化はともかく、定常経済的な考え方や実践が色濃く存在している国です。「量的な成長は手段である。ではそもそもの目的は?」を問い直す時期がきています。

 

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