エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

2015年06月02日

「座礁資産」ありませんか?(2015年6月1日掲載)

 

「座礁資産」という言葉を聞いたことがありますか?

英国の非営利団体カーボン・トラッカーが2011年に発表した「燃やせない炭素」という報告書で注目を集めた考え方です。

 1.平均気温の上昇を2℃以内に抑える可能性を持つためには、化石燃料の使用を大幅に削減する必要がある

 2 .最新の科学的な推計によると、2℃以内にとどまる見込みをそこそこに保つには、今世紀前半に化石燃料から排出される二酸化炭素(CO2)を1400ギガトン(1ギガトン=10億トン)に抑える必要がある

 3.13年までにすでに400ギガトンを排出しているので、13年から50年までは1000ギガトンしか排出できない

 4.世界に残っている化石燃料の確認埋蔵量に含まれているCO2は、石炭(65%)、石油(22%)、天然ガス(13%)を合わせて2860ギガトン

 5.つまり、炭素埋蔵量(主に石炭と石油)のうち1860ギガトンは地中に残したままにしなければならない

 6.この場合、埋蔵量は価値を失い、座礁資産となる。これらの資産を自社の評価額に含めていたエネルギー会社の価値は計算し直す必要がある

 という考え方で、投資家にも大きな影響を与えつつあります。

 現在レスター・ブラウン氏の新著『The Great Transition』を翻訳しているのですが、世界の多くの国で石炭消費量が減少していることにびっくりしています。

 石炭消費量が世界第2位の米国では、10年初めの時点で稼働していた500超の石炭発電所のうち、180カ所以上がすでに閉鎖されたか、閉鎖予定で、すでに07年から13年までの間に石炭使用量は18%減っています。

 石炭火力減少の主な理由は、(1)石炭に対する地元の反対(健康や環境が理由である場合が多い)、(2)石炭火力発電による電力の価格を上昇させる厳しい大気質基準の適用、(3)ソーラー・風力エネルギーの利用増、(4)低コストの天然ガスの急速な利用拡大などです。

 米国では、地元やNGOの石炭反対運動で新規の石炭火力はほぼ成立しなくなっており、既存の石炭火力も閉鎖への圧力が大きくなっています。その大きな原動力が「30年までに国内の石炭発電所をすべて閉鎖」をめざして全国規模で活動を展開しているシエラクラブの「脱石炭キャンペーン」です。

 欧州や米国だけではありません。世界一石炭を使っている国・中国でも石炭使用量は14年に減り始めているのです。

 一方、日本では石炭火力発電所新設のニュースが相次ぎ、4月9日時点で、新規計画は43基、設備容量2120万kWとのこと。世界の動向にまったく逆行していると言わざるを得ません。

 石炭が使えなくなる時代に向けて石炭火力発電所を建設することは、せっせと座礁資産を増やしているということではないのでしょうか?

 

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