エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

2024年02月14日

「プラもまた命が尽きたら分解して次の栄養になる"循環"が必要です」枝廣淳子(環境ジャーナリスト)

 

記事のPDFはこちらからご覧ください

https://www.es-inc.jp/news/archives/doc/202401_thsk.pdf

(以下全文です)

「プラもまた命が尽きたら分解して次の栄養になる"循環"が必要です」
枝廣淳子(環境ジャーナリスト)

■家電でこれまで再生プラスチックが使われていたのは内部や隅っこの部品だけ。色に濃淡やムラが出るため、全体の約10~20%にとどまっていました。「家電の本体にも再生プラスチックを使ってもらえませんか?」 編集部の呼びかけで生まれた第1号は『アースプラス』です。

 
プラスチックは、軽量で耐久性があり、好きな形に成形でき、安価に生産できるし、添加剤を混ぜることで望む特性を持たせることができる便利な素材なので、あらゆるところで使われるようになりました。そう、家電製品もほぼすべて、プラスチックの箱(筐体と呼ばれます)の中に、機能を果たすための部品類が収められています。


でも、プラは人間が創り出した人工物なので、基本的に自然に還ることがない。つまり、これまでに生産されたプラスチックはすべて、焼却されていない限り、埋立場であれ、海の中であれ、今でも存在し続けている!のです。


プラ問題を解決するには、木の枝や動物の骨のように、その命が終わったら分解して次の栄養分になる、という循環を作っていかなくてはなりません! そう、リサイクルです。


リサイクルには、廃棄物を焼却して発生する熱エネルギーを回収・利用する「サーマルリサイクル」、化学的に分解してリサイクルする「ケミカルリサイクル」、製品原料として再生利用する「マテリアルリサイクル」があります。


政府は3つあわせて「わが国の廃プラのリサイクル率は87%」と胸を張るのですが、ヨーロッパでは燃やしてしまうサーマルリサイクルはリサイクル率に含みません。日本のリサイクル率は、サーマルリサイクルをのぞくと30%弱しかない。マテリアルリサイクルをもっと増やしていく必要があります。


日本でマテリアルリサイクルされている使用後の廃プラは139万トンですが、うち50万トンがペットボトルで、家電製品(筐体等)は16万トンしかない。まだまだ増やさなくては!

 

■いざ、家電本体に使える再生プラの製造現場を取材。何通りもの選別が再生プラの純度を上げる。

アースプラスの再生プラの原料を作っているグリーンサイクルシステムズさんにうかがいました。製造管理部部長の筒井一就さんがプラント内を案内してくれました。


「2010年4月から操業しています。ここでは、家電リサイクルプラントから混合プラスチックと呼ばれる素材を買い、いろいろな技術を使って、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABSという、家電で使われる三大プラスチックを高純度に回収して販売しています」


家電リサイクルプラントでは、運び込まれてきた廃家電をまずはおおまかに手解体します。冷蔵庫でいえば、野菜ケースなど外せるものは手で外して、あと残ったものをでっかいシュレッダーにかけると、さまざまなものが混ざった混合プラになります。


運び込まれる混合プラはこぶし大くらいの大きさで、いろいろな異物が入っています。電線やゴム、スポンジなどプラ以外のものを除去してから、20mm以下に破砕して、水と一緒にリサイクル工程に投入します。すると、ポリプロピレンだけが水に浮くので回収します。「比重選別」という選別技術です。


一方、沈んだポリスチレンとABSは、水槽で何度も揺動させる。すると、軽いものは上に、重いものは下に集まってくるので、それぞれ回収していきます。それでもきれいには分かれないので、摩擦抵抗の違いを使ったり、乾燥させてから静電選別したりしながら純度を高めていきます。


ポリピロピレン、ポリスチレン、ABSがそれぞれ回収できたら、押出装置に送ります。6mくらいのスクリューで、加熱しながら練ります。押出装置の先端には、たくさん穴の空いた金属部品があって、そこからトコロテンみたいに出たところを水をかけて切って、米粒よりちょっと大きいぐらいの再生プラのペレットを作ります。 


この押出装置には金網のフィルターがあって、最後の最後まで残った異物を漉し取ります。このフィルター、1時間ごとに交換ですって。そうやって純度を上げているのです。

 

■家電生まれの再生プラの8割がいまや製品として利用できる「マテリアルリサイクル」に。

こうして、ポリプロピレンが50%、ポリスチレンが15%、ABSが15%、合計80%くらいの高純度のマテリアルが回収をされます。家電にはこの3種類のプラが主に使用されているので、これらが効率よくかつ高品位に自動選別できるように設備を工夫しているそうです。かつては、混合プラスチックはほぼ燃料用(サーマルリサイクル)だったそうですが、技術と設備を改善しながら、8割までマテリアルリサイクルできるところまで来ました、とのこと。素晴らしいですね!


筒井さんは、「再生プラスチックを新品の家電製品の部品に戻すのは非常にハードルが高いんですよ。たとえば、混合プラはその時々で入っている素材の割合も違います。色をどう合せるのか。それに、プラスチックって劣化しますから、それにどう対処するかなど、研究所と組んでやり方を作ってきました」。


「これまでの再生プラは、10%とか20%の使用率で、しかも外からは見えないところで使ってきたのが、今回のアースプラスでは、外から見えるところで、しかも使用率は60%超です」
「60%以上というのはちょっと信じられないレベルですよ!」
「そうすると、素材としてのペレットに求められるものは変ってくるんですか?」
「ええ、変わってきます」
「より純度を高くするということですか?」
「そう、そして小さい溶け残りみたいな異物が、どうしても入ってしまうので、異物を見えにくくする工夫をしています。そして、色を合わせることですね」


サーキュラーエコノミーへの注目に伴い、原料としての再生プラや、再生技術そのものへの問い合わせも増えているそうです。「でも、価格は新材より安く、品質は新材並、と言われることも多くて」と筒井さん。


循環をつくるための再生製品なのだから、多少異物があったり色は微妙に違うけど、「それでも使おう」というメーカーや、「それでも(それだから!)買おう」という消費者が増えてくれないと!と思いながらプラントを後にしたのでした。これだけの純度で再生できる技術は世界にもそうそうないのではないか。大事に使って支えて、広げていかなくては!と思います。

 
(23年10月27日取材・寄稿)

 

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