エダヒロ・ライブラリー執筆・連載

2025年02月26日

「道徳的進歩」を信じて  (2025年2月24日掲載)

 

「道徳的進歩」という考え方をご存知でしょうか。特にこの数年、内外で政治の混乱が相次ぎ、戦争や紛争がぶり返し、「人類は進歩していたはずなのに...」と思うこともしばしばです。そんなときに出会ったのが「哲学界のロックスター」と呼ばれる哲学者マルクス・ガブリエル氏の著書『倫理資本主義の時代』です。

この本には、私たちの思考に刺激を与えてくれるポイントがいくつもありました。その一つが「道徳的進歩」です。「道徳的進歩とは、それまで部分的に隠されてきた道徳的事実を社会全体が認識すること」です。

例として奴隷制度が挙げられています。「奴隷制度は長い間、多くの人にとって容認できるもので、法的にも保護され、経済的利益の追求において重要な手段として使われていましたが、今日、私たちはそれは完全に不道徳なものであると正しく認識しています。今ではほとんどの人が奴隷制度を不道徳と考えているという点において、人類は道徳的進歩を遂げた」ということです。

私が主催している読書会で『倫理資本主義の時代』を取り上げ、参加者の皆さんと奴隷制度以外の「道徳的進歩」の例を考えてみました。「男女の平等」、「LGBTQといった性的志向の多様性」なども、かつては不平等・不寛容な扱いが容認されていましたが、徐々にその認識が変わりつつあります。

私は、アニマルウェルフェアも「道徳的進歩」の1つではないか、と考えています。これまでは人間中心主義でしたが、「動物にも意識も感覚もある」という前提で、動物もできるだけ道徳的に扱うべき、という認識が広がりつつあると思うからです。

この「道徳的進歩」は、おそらく逆戻りはしないものだと思います。米国の大統領が誰になろうと、どこで対立や紛争が続こうと、ふたたび奴隷制度をよしとするような世界にはならないだろう、と思うのです。

世界では、海面の波風のように、「道徳的進歩」に逆行するいろいろな出来事や退行現象が、揺り戻しのように見られています。

それでも、世界の底流がしっかりと進歩の方向に向かっていくよう、小さくても「道徳的進歩」を後押しする力になりたい。そのための活動をしていきたいと思っています。

 

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