#01 NPO伊那里イーラ ✕ 英国系金融機関HSBCグループ
~年2回の里山保全活動、収穫は社員食堂のメニューにも(長野県飯島町・中川村)~
それぞれの活動
NPO伊那里イーラ
全国の地方が抱える課題、人口減少や産業衰退の悩みを同じように持つ、長野県の南に位置する、伊那里地域(宮田村・駒ヶ根市・飯島町・中川村)。 NPO伊那里イーラ(以下、伊那里イーラ)は、この地域で活動する、まちづくりNPOです。地域を元気にすること、人口を増やすことを目的とし、2009年から200以上の交流体験プログラムを実施してきました。 プログラムの多くは自然環境に恵まれたこの地域で、都市住民が農作業や環境教育、食育、田舎暮らしを体験できるというもので、地元の方々が主体的に運営を担っています。 そして、これらの地域のネットワークとノウハウを活用し、都市の企業と農村との交流をすすめる事業が、『信州伊那里自給楽園』です。
HSBC ジャパン
一方のHSBCグループは、ロンドンに本拠を置き、銀行業務と金融サービスを提供する世界最大級の金融機関で、同グループでは、従業員による取り組みと寄付の両面を通じ、各地域のコミュニティに貢献してきました。とくに環境問題には力を注いでおり、2005 年に大手金融機関として世界で初めてカーボンニュートラルを達成。2011 年には世界の水リスク低減のため 1 億米ドル規模の 5 年計画「HSBC Water Programme」を開始しました。HSBC日本法人においても同様に、さまざまな NPOと協働しながら、従業員に社会貢献の機会を提供しています。
共創プロジェクト実現の経緯
里山体験プログラムに、HSBCグループから約50名が参加
2014年、伊那里イーラはイーズ未来共創フォーラム異業種勉強会に参加しました。都市企業との関係づくりや、NPO・自治体・企業などセクターを超えた課題解決を目指すなかで、イーズを介して英国系金融機関HSBCグループ(以下、HSBC)と出会います。HSBC日本法人が、タイミング良く里山保全プロジェクトの候補先を探していたこともあり、さっそく現地視察など打合せを重ね、わずか数ヶ月で、2014年8月にはHSBCグループ社員・家族約50名が参加する、体験プログラムの実施が決定しました。
プログラムは、1日目が地元ガイドによる生き物や環境について学びながらのトレッキング、2日目は信州伊那里自給楽園で行う里山農業体験という構成に。初日は陣馬形山からの美しい景観観察とはじめ、地元野菜をつかった夕食づくり、星空観察会を。また2日目はキャベツの苗植え(後日HSBCのマルシェでも販売)、ナスやジャガイモの収穫、竹割りと流しそうめん体験などを行いました。
当日の詳しいようすはこちら
信州伊那里自給楽園とHSBCとの共創の取り組み(2014年09月27日)
伊那里イーラさんのサイト(当日のようす)
伊那里イーラ・体験プログラムへの高い評価と信頼
実施した里山保全活動について、参加したHSBC社員やそのご家族からは高い評価が得られました。
- 魅力ある里山フィールドの提供
- 季節感あふれる活動内容の提案と作業内容の作り込み
- 適切な安全管理体制(小さなこどもも参加するため)
- 企画を円滑に進める実務能力
- 臨機応変の対応力
高い評価の要因は、伊那里の豊かな自然と、信州伊那里自給楽園プログラムを支える人びとの魅力、層の厚さと多様性にあります。当日の状況に応じて臨機応変に改編できる対応力は、地域への深い知識と愛情に裏打ちされるもので、短い準備期間の中にあっても、参加者を満足させた理由はここにあると考えます。
HSBCには社員ボランティアのしくみがあり、9年で45プロジェクト130回を超えるさまざまな環境保全・教育活動にたずさわってきた経験があります。だからこそ、支援先の活動内容が、本当に地域の持続可能性につながっているどうかを厳しい目で判断することもあります。そうしたなか、今回の体験プロジェクトが期待以上の満足感を醸成したことで、翌年からの新たな展開へとつながってゆくこととなるのです。
春・秋年2回の開催へ、そしてさらに。
里山保全活動は、翌年から年2回の活動(1回目は田植えの時期、2回目は収穫時期)に増え、さらに野菜の収穫時期にも併せ、HSBCの社屋で「HSBC*信州伊那里の新米・新鮮野菜」としてマルシェでの販売も実現しました。
さらには、伊那里の野菜を社員食堂で使うようになり、スムージー、おにぎり、お味噌汁といった、メニュー開発が順調に進み、HSBC日本支社全体での交流の好循環が生まれています。
また、2016年夏からは教育視点での活動の展開(「児童養護施設のこどもたちを招いての田舎暮らし・自然体験」や「高校生グローバル体験キャンプ」)が始まりました。(こちらの展開は後日報告)
プロジェクトの意義・成果
企業の視点から
地域の持続可能性=HSBCの持続可能性 と考える
HSBCは伊那里イーラをはじめ、これまでもさまざまな地域での持続可能性のサポート(地域への投資)を行ってきました。地域の持続性は「自社の持続可能性」につながると考えているからです。
※以下、許可を得て転載
~~~~引用ここから~~~~
HSBCでは、企業の持続可能性を「Corporate Sustainability(CS)」という概念でとらえています。
これは、まず企業として、「株主のために収益を上げ続けること」が考え方のベースがあったうえで、「お客様との長期的な関係を保ち続けること」、 「意欲ある従業員に報い続けること」、「自然環境への負荷を抑え続けること」、そして「地域へ投資し続けること」が、HSBCの企業としての持続可能性の 包括的概念ととらえています。同時に、高収益であるだけでなく、これら全てを達成する企業責任があると考え、このうち、株主に代わって地域支援プロジェク トに投資するのが「地域への投資」であり、これが地域の持続可能性につながるものとして活動をしています。
~~~~引用ここまで~~~~
社員が直接関わること、短期的な見返りを求めないこと
HSBCでは、この概念「Corporate Sustainability(CS)」を実際の活動に展開していくために、
例えば、
・利益水準に連動した一定額でのお金(寄付)支援をすること
・直接社員が関わること(伊那里イーラのように)
・直接の見返り(短期的な)を求めないこと
をはじめ、いくつか基準とする項目があります。
「直接の見返り(短期的な)を求めない」理由は、そもそも環境や教育支援効果は、短期間で直接的な見返りを期待しても、効果がみえづらいからです。
また、HSBCでは、より多くの社員がより多くの時間、CS活動に関わると「社員のエンゲージメント」が高くなるという相関関係を認めています。
【社員エンゲージメント】
年間1万時間を超える社員ボランティアの経験は、地域の方々との交流を通じて、支え合い・感謝の思いが醸成され、それが社内の部門を超えた関係性を育むことにもつながっています。また「人の役に立つ機会」を提供する企業の一員であることへの誇りが芽生え、イキイキと積極的に会社に関わるようになる、という好循環にもつながります。
地域の視点から
企業とコラボすることのメリットとは
「地域づくりを目指すうえで、伊那里イーラとして組織や事業継続は大きな要素であり、それには、人やモノ、そして資金の循環が欠かせません。しかし、これまでの活動はどちらかというとボランティア的発想が主となり、組織の運営は助成金等に頼りがちでした。
HSBCという企業と組んで事業を展開することで、一つ一つのプロジェクトの質的向上のフィードバックが得られ、事業(ビジネス)として活動を捉える体質が身についてきたと感じています。ボランティア発想ではない、また一時的な観光収入だけではない、まちづくり活動をビジネスとして展開する体質が組織内にしっかりと育まれてきています。伊那里イーラの目指す都市と農村との交流とは、人との交流をベースにしたうえで、モノやサービスが対価を伴って提供されることで、両社にWIN-WINの関係を築くことにあります。これは理念にも掲げていることでもあり、この活動は理念を現実のものとする絶好のチャンスとなっています。」(伊那里イーラ・小林氏談)
伊那里イーラが感じた6つの効果
1. プログラムの質のアップ
事前・事後に地域支援に経験豊富な企業担当者、参加者の意見を聞いて、体験プログラムやプロジェクト構築の際に反映をしていくことで、プログラムの質の改善や充実につながる。
2.地域の人びとのやる気と情熱、地域愛アップ
都市部住民との交流によって地域の評価をもらえることで、やる気や情熱が高まる。また、新たなありもの探しをすることで新たな地域の魅力発見につながる。
3.伊那里イーラの実力アップ
定期的にプロジェクトを受け入れることで、経験や知識が蓄積され団体としての実力
が向上。
4.思いをカタチにする機会になっている
当初、伊那里イーラが想定していた都市企業との交流構想事業「信州伊那里自給楽園」が、HSBCという企業協力により、一つ一つをカタチにするチャンスをもらっている。
例:交流体験をベースにしながら、カフェでの食材提供や野菜ボックスの販売などに発展
5.存在感アップ
伊那里イーラに対する評価は特に行政(市町村、県)のなかで高まっている(ように感じる)。
6.事例紹介できる強み
都市企業との連携を実績として伝えることができるので、他の企業への説明などに説得力が増す。